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第76話 覚えがあるようなないような ~ソフィアサイド~

ワシらはえーっとベルナルド一族だったかなのぅ……

(マリーの心の声 「ねえさま、メルナール一族ですわ」)

そこの女の長の依頼で竜天島というところへ向かっておる。


ただこの間の女の長の話を聞いて、妙に引っかかるところがあるのじゃ。

竜が支配する島……

以前に来たような来ていないような……

記憶が定かではないが、なんとなく覚えている感じもあるのじゃ。

難しい顔をして考えておると、マリーが気になったのかワシのところへ来た。


「ねえさま、何か考え事でもしていますの?」


「あっ、そうじゃのぅ……

 竜がいる島についてのぅ。

 昔もしかしたら来たことがあるかもしれんのじゃが、しっかりと思い出せなくてのぅ」


「ねえさまは本当にどうでもいいというか覚えたくないことは覚えませんね。

 でも、そんなねえさまだからこそ……

 ちょっとでも覚えているのであれば、何かあったのかもしれませんね」


マリーは最近あやつに似てきたのか、ちょっとワシに対しても気にしていることを言うようになってきたのぅ。

まぁ、マリーに言われても可愛いのでなんとも思わんがのぅ。


「まぁ、その時ドラゴンと戦ったとか倒したとかその程度の事じゃろう。

 行けばわかるのじゃ。

 ……と、ところであやつはどこにおるのじゃ」


船の上で周りを見回すが、あやつの姿がどこにも見当たらん。


「アグリは、奥の船室で休んでいますわ。

 気持ち悪いとか言って」


確かに船は荒波を進んでいるので、揺れが激しいのじゃが……

その程度で倒れるとは気持ちが弛んどる証拠じゃのぅ。

どれ、様子を見てこようかのぅ。


「おい、おぬし!

 何を休んでおるのじゃ。

 もうすぐ島へ着くぞ」


「大きな声を出すなよ、ゾルダ……

 頭に響くって」


「これぐらいの揺れで倒れるとは、気持ちが入っていない証拠じゃ。

 気合でなんとかしろ、気合で」


「いや……これだけ揺れていたら……気持ち……悪く……なるよ。

 船なんてそう乗らないし……」


「ワシじゃって乗らんぞ。

 でも平気じゃ」


「それは……

 お前らはずっと浮遊しているじゃん!

 地面についてなければ揺れないだろ」


「地面に合わせて飛んでいるのじゃから、揺れてはおるぞ」


「自分で動いているだけじゃん。

 そんなのズルいよ……」


あやつはそう言い残すと、またぐったりとダウンしてしまった。

ズル呼ばわりされてものぅ……

普段から軽く飛んでいるから、船に乗っていてもそれは変わらんのじゃが……


「大変なのはわかった。

 あともう少しじゃから、ゆっくり休んでおれ」


天気が荒れ狂っている訳ではないが、この辺りの海は荒れやすいのかもしれないのぅ。

それもまた竜たちにとっても好都合なのじゃろぅ。


しばらくすると島が見えてきたのじゃが……

その景色を見ると、やはり見覚えがあるよに感じるのぅ。


「んっ……

 いつ頃にここに来たんじゃろうかのぅ……」


「マリーはここ知りませんわ。

 だいぶ前のことではないのでしょうか」


「そうやも知れぬのぅ……」


物覚えがいいマリーが知らないとなると、ワシが魔王になる前の頃かのぅ。

あの頃は自由に動いても文句も言われんかったからのぅ。

強い奴がいると聞けば方々に行って勝負をしたものじゃ。

その中におったのやも知れぬ。

ただのぅ……その時相手した奴らもあまり覚えておらぬからのぅ。

強かった相手もいたと記憶しているが、相手の名前や顔は本当に思い出せん。


そんなことを考えていると、島の近くまで来たところで船はピタッと止まりおった。


「おい、船長!

 船を島には着けぬのか?」


「へい、申し訳ございやせん。

 これ以上近づくと、竜に見つかり、船が壊されてしまいやす。

 ここから、飛んで行っていただけると助かりやす」


どうやらこの大きい船では目立ちすぎるらしいのぅ。

それはそうか。

これだけの船が近づけば竜たちも気づくし、蹴散らしたくもなるしのぅ。


「ふぅ……

 仕方がないのぅ……

 マリー、あやつを連れてこい」


「わかりましたわ」


奥の船室に寝ているあやつを叩き起こさせ、甲板に連れてきてもらった。

あやつはまだフラフラとしておるようじゃが、どうせ浮遊魔法も使えないしのぅ。


「マリー、あやつを持ち上げて連れていってくれ」


「んっ?

 何?

 まだ船は島に着いてないんじゃ……」


「さあ、行きますわよ。

 アグリしっかりと捕まってくださいね」


マリーはあやつの首根っこを掴み、飛び始めた。


「あーっ……ひぃーー……」


あやつは無様な悲鳴を上げているのぅ

さて、ワシも行くかのぅ。


「船長、さっさと用事を済ませてくるから、ここで待っておれ。

 そう時間を掛けるつもりないしのぅ」


「いってらっしゃいやし。

 お待ちしておりますぜ」


ワシもとび立ち、近くの砂浜に降り立った。

やはりなんとなく見覚えのある風景じゃのぅ。


「ゾ……ゾルダ~」


先に降り立ったあやつが情けない声でワシを呼んだ。


「なんじゃ。

 ここから竜退治じゃぞ。

 シャキッとせい、シャキッと!」


「もう少し時間くれよ……」


「だらしがないのぅ。

 さっさと回復魔法でもなんでもかければ治ろうに」


「それで治るの?」


ビックリした顔をして、慌てて回復魔法を自身にかけるあやつ。

かけおわったら、ピンピンとしておった。


「ほれ、なんとかなるじゃろ。

 これでもう大丈夫じゃな」


「大丈夫だ。

 最初っからそうしておけば良かった」


何にも知らんでダウンしておったのか。

本当にあやつは世話が焼けるのぅ。


「ここからはドラゴンたちがわんさかでよるはずじゃ。

 マリーも心してかかれよ」


「承知しましたわ、ねえさま」


「おぬしもじゃぞ。

 オムニスとやらのボスに会うまではおぬしらにほぼ任せるからのぅ」


「わかったよ。

 でもゾルダも自重しろよ。

 魔力の使い過ぎに気を付けてくれよ。

 いざとなった時にまた剣に戻られたりしたら……」


あやつも一言二言多いのぅ。

使い過ぎで痛い目を見ておるのじゃから、それぐらいは考えておるわ。


「みなまで言うな。

 ワシも分かっておる。

 じゃから、道中はほぼ任せるといったじゃろうに」


「いや、わかってないね。

 『ほぼ』って言っているんだから、ゾルダは戦う気満々だね」


口うるさいのぅ。

ワシを戦闘狂のように言いおって。


「アグリもねえさまも止めてくださいますか。

 お互い気を付けていきましょうね」


マリーがすかさず間に入ってきおった。

あやつにはいろいろと言いたいこともあるが、マリーに免じてここらで止めておこうかのぅ。


「さぁ、行くぞ」


ワシはそう二人に声をかけると、島の奥へと向かっていった。

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