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6-7 告白

 ――午後9時のホテル裏の駐車場

 16台程収容できるスペース、道路に面してはいるけれど、車は勿論、人が通る様子はない。絶妙に死角になっている場所で、私服姿の白金ソラは、こんなにも良い月を眺めていた。


(9時になったけど……)


 ソラは、15分前にここに来ていた。

 そして、ホテルの、駐車場への裏口をみつめている。

 あの扉の向こうに、既にレインが居るのを知っている。


(緊張――してるんだ)


 きっと自分以上にと、己も胸を高鳴らせながら、あの扉が開くのを待つ。

 ――9時になって1分過ぎてから

 扉がカチャリと開かれた。


「ま、待たせて、すまない」

「だ、大丈夫です」


 歩みながら声をかけてくる相手に、一生懸命返事をする。レインはソラの前に、あと一歩踏み出せば、体が重なるくらいの位置に立った。

 ――ソラがレインを見上げれば

 背景は、自分達が泊まってるホテル。その前に、くっきりと彼女の姿が浮かび上がってる。


(相変わらず、キレイ)


 ――私達は、見た目を一等にしたろくでなし

 かつてのレインの言葉を思い出す、本当にお互い、好きになった切っ掛けは、その姿に惹かれたからだった。だけど、

 今はそれだけじゃないと、ハッキリと言える。そう、

 あの時のときめきを、二人はけして恥じない、誇りにすら思う、だから、


「……その、今更であるが」


 レインは――覚悟する。


「私はもう、お前への気持ちを言葉にしてしまってる」

「は、はい」

「だから、今からする告白も、必要無いかもしれない、けど」


 そこでレインは、一歩近づく代わりに、

 ソラの顎に手をあげた。


(――えっ)


 と思う前に、顎をクイッとあげられる。

 レインも頭を下げたから、顔の角度が平行になる。

 ――なんのため


「言葉だけじゃ足らない、私の気持ちを伝える為に、出来る事がある」

「あ……」


 リズムを刻んでいた心臓が、ドクン! と一気に跳ね上がった。

 それは、今からされる事を察したから。


「――いいだろうか」

「レインさん……」


 胸の鼓動はやかましいくらいだけれど、それでも表情は穏やかなままに、

 ソラは、目を閉じた。

 するとレインも薄く目を閉じて、ゆっくりと体も近づけながら、

 顔を、そして唇を、

 彼の元へ――




 ――次の瞬間

 ブロロロォッ! と、けたたましくエンジンの吼える音がして、

 振り向けば眩しいライトと供に、


「えっ!?」

「なっ!?」


 バイクが二人の間を文字通り割って入り、

 ――告白を、二人の恋を

 引き裂いた。




「うわっ!?」

「くっ!?」


 バイクに当たる直前、二人は思いっきり後ろへ飛んだ。だが当然そのまま、アスファルトの上へ転がってしまう。


「な、なんだ!?」


 そう言いながら立ち上がろうとしたレインの体に、

 ――バシュン! と


「なっ!?」


 体に何かゴム状のリングが巻き付く――それを見てソラが駆け寄ろうとした時、

 ――バイクに乗っていた男が、平べったい棒状のものをソラへ投げた


「あっ」


 それが体にあたった瞬間、形状記憶合金の力で強力に、腕ごと銅を縛り付け、


「うあっ!?」


 ソラを拘束し、転ばせた。

 ……二人が立ち上がるのにすら難儀する様子を見てから、バイクを降りる男。

 そのヘルメットを被った姿は、


「じゅ、十字架?」


 レインが戸惑う中で、ソラは、


「――クロス」


 ゲーム上で彼の名を呼んだ後、


「クロ!」


 幼馴染みの名前を、叫んだ。

 ……まだ、クロスがクロだとは、確定していない、だけど、

 ヘルメットの男は淡々と、レインに近づき手足まで拘束バンドで縛り付けながら、


「久しぶりだな、ソラ」


 そうはっきりと、認めてしまった。

 ――訳がわからない

 灰戸が、近々会いたいと言っていたのは聞いている。

 だけど幼馴染みは、レインから己への告白ファーストキスを、バイクで無理矢理中断したかと思えば、余りにも手際よく二人を拘束し、そして、

 両手足まで縛ったレインを、


「――白銀レインは連れて行く」


 誘拐しようとしていた。


「――なんで」


 起こっている事は解っても、


「なんで、なんで、なんで!」


 なぜこんな事をするのか解らない、それでも、


「なんで!」


 ソラは、ただ叫ぶだけでなく、両足だけでレインを助けようと飛んだ。

 ――常人ならばそこからの蹴りを叩き込まれる場面、だが

 クロはその蹴りにヘルメットでの頭突きをして、


「あっ」


 宙で逆さになった所で、両足もまた拘束バンドで縛る。


「うあっ!?」


 そしてうつ伏せにおちた瞬間に、両手も後ろに縛った。そうしてから、さっさとレインを――暴れる彼女を軽々と持ち上げて――バイクの乗り込む。


「な、なんだ、何故だ、何が目的だ!?」

「答えてよクロ、何をしてるの!?」


 今の二人の感情は、恐怖や怒りよりも、ただただ戸惑いが優先する。当たり前だ、神の悪徒という仲間である彼が、こんな事をする理由がわからない。

 だけどそれに対して、クロは、


「――俺はただ」


 二人が望まぬ答えを告げる。


「アイさんの命令オーダーに、従うだけだ」


 ――虹橋アイの名が出た途端

 絶句する、二人の前で、


「1時間後、アイズフォーアイズにログインしてくれ」


 そう告げたクロは、バイクにまたがり――騒ぎを聞きつけたリクヤとウミが、裏口を開いたタイミングで、


「そこからアイさんが案内エスコートする」


 そのままバイクを、虎のように走らせた。人間一人を、片腕で抱えた状態で。


「ちょっと、ソラ、何があった!?」

「レインさん、浚われた!?」

「――すぐに警察へ連絡して」


 ソラ、


「灰戸さん達にも連絡、あと、ウミは、僕の拘束を外せる手段を検索」


 叫びたい気持ちを抑えて、必死で押し殺して、いつもの怪盗業のように、今できる最善の方法を組み立てていく。

 だけど、それも、


「――なんで」


 保つわけがない。


「なんでだよ!」


 やっと自分に、正体を明かしてくれた幼馴染みが、


「なんでこんな事をするんだよ、クロォ!」


 自分の大切な人を、奪っていったのだから。







 ――アイズフォーアイズ社長室


「クソ!」


 大きな机リアルコライダーを思いっきり叩きながら、灰戸ライドは歯軋りをした。硬質の飴を砕く力が、ギチギチと音をたてさせる。

 そんな中で、ジキルは、


『――ごめん』


 狂気に、正気で、謝った。


『私のせいだ、これ……まさか今日の内になんて』

「……ふざけるな、責任は俺にある、悠長に観察などに留めず、無理矢理でも保護しとくべきだった」

『――解析も何もすんでないけど』


 ジキル、視線を横にやりながら、


『100%、久透リアが関わってるし、こんなの』

「……世界に絶対は無し、精々99%だ」


 だが、そうだと仮定した場合、


「問題はその方法だ、彼女は、明らかにこちら側の人間だ、だが」


 問題は、


「どうやってリアは、彼女を操っている!」


 ――ブラックパールの事が頭によぎった

 だけど、彼女がそれに屈しない力の持ち主グラットンモードは最強のも、良く把握している。

 そうなれば、


『ねぇ、もしかしたら、真実ほうほうなんて』


 ――ジキルの推理は


『私達が嘘だって思うくらい、シンプルなんじゃね?』


 それが一番バカげていて、

 それが一番、恐ろしい。

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