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F-3 彼の日の夢が叶う場所

 アイズフォーアイズ、中心街で繰り広げられる、最先端の黒金の怪盗ナイトゴールドVS時代遅れの白金の怪盗スカイゴールドの戦いは、

 色以外は同じ姿でありながら、全く、鏡合わせではない。ナイトゴールドが、すり抜け、無限増殖、強制装備、データ呼び出し、データ破壊、というあらゆるグリッチを駆使するのに対し、スカイゴールドはただひたすらに避けて、その間に徒手空拳や偶に銃弾を叩き込むくらいである。

 しかし、ゆえに、だからこそ、


「うわぁ、凄っ! 全部、さばいてる!」

「ええ、今のどうやった!?」

「なんか位置がズレなかった!?」


 未来の技術を昔の技が虚仮にする様は、実に物語的で痛快であった――ナイトが二つの燃える剣で、頭上へと打ち上げた巨大な瓦礫、それを増殖バグで増やして、そのままスカイを生き埋めにしようとしたのだが、

 ――レインよみふぃが軌道を計算して


「今だ、飛べ!」


 そう、スカイに指示を飛ばせば、


ファントムロード怪盗舞道!」


 その瓦礫を足場にして、上空へと駆け上がっていく! そのまま、スカイはナイトへと、銃を乱射しながら、鷹のように急襲する!


「くっ!?」


 二つの剣の腹でその銃弾をガードするナイト、おかげで、スカイはそのままナイトの懐へと飛び込めた。そしてそこから、


「行くぞ!」


 スカイの口から、キーボードのタイピング音とゲーミングマウスのクリック音が激しく響いた。まさか、2025年のゲーミングPCで、今の怪盗スカイゴールドが操作されているとは思わない者達は、なにこれ!? 壊れちゃった!? と焦りを見せた。

 だが、周囲の者達よりも、焦っているのはナイトゴールド――郷間ザマであった。


「な、なんだ、お前、なんなんだよお前はぁっ!」


 何せ今自分が相手しているのは、”訳の解らない相手”だからだ。自分のようななんでもありに、旧式のパソコンで作ったキャラで挑むなんて、とんだ舐めプ、縛りプレイだ。

 だが、本人は笑っている。3Dモデリングで、そうなるよう固定した顔だろうと笑っている。

 その姿に対して、ザマは、


「くそ、くそ、くそっ!」


 自分を支配していた、リアへの愛と恐怖だけでなく、


「くそがぁっ!」


 スカイゴールド本人への憤りを覚えた――リアに見放されない為ではなく、ただ目の前の存在に憎しみを覚えた、

 二つの剣で斬り掛かる――怪盗はそれを、銃一つで受け止めてみせる。銃身と燃える剣の鍔迫り合いが行われる中で、


「なぁ、郷間ザマ」


 怪盗は、言った。


誰かの力チートを借りずに、自分の力グリッチで戦うのも楽しいだろ?」

「――は?」


 ナイトゴールドが、その言葉に呆気に取られた瞬間、スカイは銃を放つ。それを眉間で受けてしまい、HPを削りながら後ろへとのけぞるのに会わせて、スカイもバックステップで距離を置いた。

 スカイの頭上のレインinよみふぃが、口も動かさないままに語り出す。


「お前のそのグリッチは、チートではなく、リアに怒られたくない一身で練習して身につけたものだろ?」

「元々ゲームの才能はあったんだよ、チートなんてものに頼ったから、それが育たなかっただけで」


 ザマは、二人の言葉に呆然としている。

 何を言い出すんだ、と。

 今更自分をおだてて、どうするつもりだ、と。


「怪盗ナイトゴールド、いや、郷間ザマ」

「お前がキューティに、……レインさんにした事は絶対に許さない、だけど」


 スカイは、


「お前と遊ぶのは、楽しいよ」


 言った。

 ――その言葉は


「……ふざけるな」


 郷間ザマのプライドを、死んだはずのプライドを、


「ふざけるなよなぁっ! 僕以下の、クズがっ!」


 深く、傷つけた。距離を保ったまま仕掛ける事も忘れて、感情任せに二本の剣で斬り掛かってくる。


「なんだよその上から目線は! 心が広いアピールか!」


 だが、最初こそ乱暴だったが、剣の動きは精度を増していく。


「そうやって、僕を見下すな! 見下すのは僕だ、這いつくばれよ、土下座をしろよ、生意気言ってすいませんでしたって泣き叫べよぉ!」


 激しい口調の中で、正確性を増していく攻撃、スカイはその剣圧で徐々におされていく、後退っていく。


「――何が怪盗スカイゴールドだ」


 グドリーのような小悪党とは違う、誰からも愛されない外道は、悪故に、それ以上の悪久透リアに利用されていた外道は、

 プライドを粉々になるまでに砕かれていた、青年は、


「お前は僕から!」


 ――完璧なタイミングで


「何も、奪えない!」


 アスタリスクロスト――三重の一撃、

 データ破壊グリッチを、スカイへと直撃させた。

 ――0と1へと分解されていく

 10万ポリゴンの、白金の怪盗、そして、

 次の瞬間、




「クロスゥ!」


 その名が、叫ばれた時にはもう、


「行けぇっ!」


 ――巨大な女神の胸の中央部

 その前の空間に亀裂が走り、

 中から飛び出てきたブラッククロスは、

 肩の上のリアが何かを言う前に、

 そして、巨神から引き離されてしまった、ナイトが向かう前に、


一閃お待たせ、アイさん


 データ破壊グリッチで、

 巨神の胸を、切り裂いて見せた。




「うわっ!?」

「なに!?」

「眩しい!」


 切り裂かれた胸元から、激しい虹光プリズムが溢れ出す。それは、世界中を眩く包む程に凄まじい。

 だが、その光の中で、ブラッククロス――黒素クロだけが、

 巨神の女神の胸中に閉じ込められて居た、虹橋アイの姿を見た。


「アイさん」


 そのまま手を伸ばすクロだったが――直ぐに、巨神の胸のキズが塞がれていく。

 完全に、虹橋アイを愛の女神から分離させるつもりだったが、届かなかったらしい。だが、


「ありがとう」


 その露出した時間を――久透リアの支配から逃れた時間を、最大限に使ってアイは、


「待ってるわね」


 ――自分に出来る事をする

 ……やがて光がおさまり、巨神の切り裂かれた胸の傷は治り、クロスは女神の足元へ着地する。

 その時にはもう、血相を変えたナイトが、ファントムステップで飛んできていた。

 怪盗スカイゴールドの作戦にのって、愛の女神から離れてしまったという失態、


「怒られる見放される愛されないやだやだやだやだやだやだやだ!」


 それを挽回するために、クロスを切り裂こうとしたナイトゴールドの体が

 ――何かへめり込む


「え?」


 自分の体を受け止める、柔らかいゴム状のものの正体は、


「――マスコットバルーンソングよみふぃ巨大風船の歌


 データー呼び出しグリッチで呼びだされた風船で、

 それで、真上に打ち上げられた黒金の怪盗を、


シックスパックボルケーノ!腹筋大噴火


 容赦無く焼く、筋肉の燃焼! だが燃えても尚、ブラッククロスへ向けて剣を構えるナイトゴールドの、

 更にその上へと飛び上がった二つの影が――無限増殖バグで増やした足場を、すり抜けバグを使って駆け上がった二つの影が、

 蹴り落とす!


「「ファントムミラージュ!怪盗双舞」」


 ――轟音と供に地面へと叩き付けられるナイトゴールド


「がはぁっ!?」


 かつて、昇天竜マドランナを屠った一撃は、ゲームの中であるというのに、痛みと衝撃をナイトゴールド郷間ザマに与える。立ち上がる事すらもままならない苦痛の中で、

 声が、聞こえた。


「うおおお、俺、完全復活!」

「おおきによぉみんな! なんか寝てる? 間? 頭ふわふわして、怖かったぁ!」

「礼ならアイさんに言ってくれ、それに」

「解っている、まだ私達の仕事は終わっていない」

「でも先に、する事があるよ」


 そう、マスクを被った怪盗は――ゲーミングヘッドホンのマイクではなく、

 虹橋アイの力で、ハッキングされず、眠る事も無くなったデバイスを通して、ログインした状態で、

 言った。


「――名乗ろう」


 その提案に4人は笑って、そして、

 朗々と、己の名を謳う。




「スカイゴールド!」

「シルバーキューティ!」

「ブレイズレッド!」

「ブルーオーシャン!」

「ブラッククロス!」


 五人揃った怪盗達は――愛の巨神がしゃがみ込みながら放ってきた突きを散らばりながらかわして、

 肩の上に乗っている久透リアに視線を向けて、

 叫び、告げる。


「「「「「罪には罪を! 世界奪還の時来たり!」」」」」




 ――虹橋アイのプログラム修正によって

 勢揃いした怪盗達の前に、リアはぽつりと呟く、


『汝等に、罪無し、罪有るは、地球ほし


 と。

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