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F-2 対峙するモノクローム

 ――VRMMO、アイズフォーアイズ

 世界中の人々が、続々と強制ログインさせられ、そして次々と捕食されていく状況。

 それを止める為にやってきた怪盗は、


「――シャルウィダンス踊ろうか


 30メートルの背丈から放たれる、振り下ろしの拳の連撃を、


ファントムステップ怪盗舞踏!」


 次々と、紙一重でかわしていった。しかし、その動きは普段とは違う。


「うわぁ、な、なんか何時も以上に挙動がおかしい!」

「バグりすぎじゃない、怪盗スカイゴールド!?」


 周囲が言うように、スカイゴールドのキャラクターは、ローポリ10万ポリゴンである以前に、背は常に直立しているし、走る姿は固定されているし、全く、現実らしくない。

 それもそのはず、コントロールが脳波ではなく、キーボードとゲーミングマウスを通してなのだから、動きが昔のFPSのように、予め用意されたモーションになるのは当たり前だった。

 しかしだからこそ、2089年のゲームに、無理矢理2025年の仕様で乗り込んだからこそ、

 ――愛の女神の一撃を


「当たった!?」

「のに、当たってない!?」


 その判定すらおかしくバグさせる。この事態に、巨神の肩の上に乗る久透リア汎用アバターは、無表情のままに、こう叫んだ。


『虹橋アイ、お前、は!」


 スカイ達にではなく、直ぐ側にある彼女の耳へと。すると、ただ淡々とスカイを攻撃するだけであった愛の女神の顔が、

 にこりと、一瞬だけ笑った。

 ――すぐにまた自分と同じ無表情になる

 しかし、こんな馬鹿げた方法で、デバイス経由の眠りを妨げられるとは思えなかったリアは、カクカクとした動きで、巨大なこぶしを弾ける瓦礫ごと躱すスカイに、叫び問い質す。


『どう、やって、アイの妄想を、実現、した!』


 それに対して――脳波ではなく、ゲーミングヘッドホン骨董品のマイク越しに、スカイの中の人白金ソラは返事した。


「1から作ったんだよ、リアさんが昔、やったように」

『――1から』


 今の時代――ゲームキャラの3Dモデルなぞ、AIを使えば、まるで粘土細工のように作り出せる。だが、2025年はそうはいかない。そもそも昔のパソコンは、でかい図体をしてる癖に、cpuは光速に遠く、グラフィックボードは白の201色目を作れず、メモリは銀河の星々よりよりも少ない。そんな時代遅れの遺物で、


「イラストソフトのClap Studio で下地やテクスチャを描いて、モデリングソフトのGlenderで3Dモデルを作って、ゲームエンジンのUmityでこの世界で動けるコードを組んだ」


 無論、スカイとキューティだけの力じゃなく、アイズフォーアイズのスタッフも協力した。クラシカルによる潜入劇は、こうして果たされた。

 そして、今、このパソコンからにはもう一人、

 有線USBケーブルにて、予備キーボードと予備ヘッドホンを使っての侵入者がいる。


「スカイ!」


 唐突に響いたその声は、


「ハッキングが出来た、あの巨人の胸の中央部に、アイさんの本体がある! そこを【スティール】すれば、奪える!」


 キューティの声――だがその姿は、


「え、よみふぃ!?」

「なんか凄いカクカク!?」


 10万ポリゴンにすら及ばない、128ポリゴンの所為で、四つ耳三つ目二つ眉一つ口も、カックカクである。ゲームに例えるとピーSである。一つのPCでダブルログインという無茶、こっちの容量は削減せざるを得なかった。だけど、


「これはこれでかわいいだろう!」


 と、自慢の手作りを笑いながら誇った後、


「行くぞ、スカイ!」


 そう発破をかけたあと――よみふぃから|1ヶ月で習得した物理キーボードカタカタカタカタ!のブラインドタッチという、異様な音が聞こえてきたので、周りはビビった。

 ――それは久透リアにとっては懐かしい音であると同時

 止めなければならない音。


『この、無茶を、支えているのは、お前、か!』


 キューティ白銀レインは、GMであると供にプログラマー、異分子である自分達を、エラーとして弾かれないログアウトされないように、リアルタイムでハッキングをしている。

 その事に気付いたリアは、女神の拳をカクカクよみふぃへ向けたが――スカイが素早く飛んできて、そのままよみふぃを自分の頭上にのせた。


「キューティ、このままでいい!?」

「ああ、つっこめ!」


 ――次の女神の攻撃が来る地点を予測したキューティ

 今のスカイなら、振り切れると答えを出す!


ファントムステップ怪盗舞踏!」


 だから一直線に、女神の懐へ――虹橋アイが眠る胸中へ、

 古き良き怪盗がミサイルのように近づいた、

 その時、




 巨人の女神、その胸元の前に、黒い球体が滲み出るように現れて、

 ――それは一瞬で膨張し

 スカイと全く同じ姿を取りながら、

 色は正反対の漆黒へと染めて、

 怪盗ナイトゴールドは、


「――アスタリスククロス三重ノ一閃


 立ちふさがると同時に、二つの燃える原始の剣クラマフランマプロトタイプで、

 三重の一撃を放った。




「くっ!?」

「ああっ!?」


 飛んでいる所を文字通り撃ち落とされるスカイゴールド、BANこそされなかったが、HPがごっそりと半分くらい減った。

 そのまま地面へと落ちたスカイを追うように、すたり、石畳に舞い降りる漆黒金の怪盗。


「うわ、来たぁ!?」

「スカイとナイトが同時にいるってことは、ほら見ろ、やっぱり別人だったんだ!」

「そんな事言ってないで逃げるんだよぉ!?」


 周囲が騒ぎ、そして離れる中で、二本の剣をぶら下げたナイトは、ゆっくりとスカイに近づく。本来ならすぐに追い討ちにかけるべき場面であるが、ナイトは、


「失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した」


 一発でスカイを消せなかった事に異常な程の不安を覚え、それを建て直すための時間を必要としてしまった。おかげで、ゆっくりと立ち上がるコマンドを入力出来たスカイ。


「――偽者と対峙か」


 キューティinよみふぃonスカイの頭、


「お前にとって、燃えるシチュエーションではあるがな」

「遊ぶなって言うのかな、キューティ」


 スカイの言葉通り、この状況は、世界人類の運命がかかっている状況である。

 どれだけ心が躍ろうと、けして、笑って楽しむような場面ではない。

 だが、だからこそ、

 こんな追い詰められた状況だからこそ、世界がたった一人の手によって、変えられようとする状況でこそ、

 怪盗は、

 不敵に笑う。

 ――今のように


「私がお前に、そんなものを望むものか」


 ゆえに、よみふぃは、スカイゴールドを最も愛する者は、

 目の前の存在への打倒ではなく、


Let’s Play!遊べ!


 ただ、彼が楽しむ事を祈ったpray

 元からそうするつもりだったけど、改めて、彼女の言葉を受けて、リアに脅える黒金の怪盗に――苦しみ泣いている郷間ザマに、

 この世界ゲームの楽しみ方を思い出させるように、

 笑みを浮かべながら、ステップを踏んだ。


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