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最終章 愛と喜びのセブンシンス

F-1 Pray Game : Play Game

 生まれた事が罪であるならば、

 ――その罪に出来る事は




 傲慢な侭に、ここに在る事そのものを誇り、

 強欲の侭に、そこから更に良きものを目指して、

 嫉妬の侭に、他者への憧れを己の道導にして、

 憤怒の侭に、怒りを喜びの糧になるよう歌って、

 色欲な侭に、愛しさと供に体を重ね合って、

 暴食の侭に、無味にこそ味という意味を与えて、

 怠惰な侭に、偶には心身を空へと委ねる。




 悔い改めるべきは罪、

 受け入れるべきは原罪、

 生まれた時から、心にあった"君達"に、

 "僕達"が出来る事は、

 ――約束すべき事は

 たった一つ。




最終章 愛と喜びのセブンシンス




 ――2089年10月15日ワシントンD.C.

 日本との時差マイナス14時間、早朝5時過ぎのホワイトハウスの戦略会議室にて、第六十三代目のアメリカの大統領は、ARを使わないままに、部下達の報告を受けていた。

 多くの者達が円卓の騎士のように集う中で、寡黙に、席に座る姿は頼もしく見える。だがその心の内は、疑問、動揺、呆然、と、全く定まっていない。

 しかしそれでも、一国を預かる身として、強がりプライドを保ったままに口を開いた。


Use ARARを使う

「Mr. President, pleaseお、お待ち下さい大統領 wait」

Don't worry案ずるな.I've never played私はVRMMO未経験者だ a VRMMO」


 そう言って彼は、ポケットにいれていたデバイスを左耳に入れれば、こめかみを中指二回人差し指一回タップして、目の前にARによる数多の画面を展開してみせた。

 もたらされる画と、情報は、


「……My god神よ


 言うなれば、静かな地獄。




 今、この世界に起きている事は、

 アイズフォーアイズを初めとした、VRMMO経験者の昏睡である。

 眠るように気絶した者達が溢れた世界は、

 隕石衝突や、宇宙人襲来のような、派手さもない癖に、

 確かに、世界の終わりを感じさせていた。




 アジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、オーストラリア、南極、

 世界中のライブ映像は、一人一人と眠っていく者達を映していく。

 この事態が起きてから12分、聞き及ぶだけで既に人類の5%が、”日本で起きていたあの事件の被害者達”のように、眠りについているとの事である。

 それも少なくとも最小予想であり、実際はそれ以上に多くの者達が、眠りに落ちている可能性が高い。

 ただしそれも無差別という訳では無く、例えば、電力会社や警察といった、眠られたら困る者達は、ゲームの経験者であっても昏睡には至らない。

 そもそも、昏睡に至るのも突然ではなく、限り無く安全が保証された状況になってからだ。

 これだけの事態に、誰一人死んでいない可能性絵空事がある事こそに、大統領は驚きを隠せない。


「It's like a reqまるで子守歌だなuiem」


 限り無く優しく、だからこそ恐ろしい。

 ――明確な意志は感じるが、目的は見えない

 とはいえ、この件が、”VRMMO連続強奪事件”と無関係な訳がなく。

 しかし、対策なんて全くしていなかった。世界規模とはいえ、VRMMOの乗っ取り劇が、世界の危機に繋がる可能性なんて想像していなかったからだ。

 いや正確には、想像してもどうしようもない事だった、と言うべきか。終末のラッパが明日響くという情報があったとしても、それに出来る事は少ない。

 アメリカ大統領という立場ですら、打つ手が無いのだ。


President大統領


 黙すばかりになった大統領に、ただ、その肩書きを部下は呼んだ。

 大統領は、世界のルールが変わる予感を覚える。

 いやもしかすれば、世界そのものが変わる事すら想像する。

 だけどそれを、今この場で言ったところで、


「――Nothing何も出来ない


 ……それでも何か、

 大統領という、己の名よりも重い肩書き責任に出来る事は無いか、

 絶望の光景に、希望は無いか、その瞳でARを通しての情報を、ひたすらに貪り続け、そして、

 ――一つのURLに気付く


This isこれは


 まるで何かに急かされるように、そのURLを指先でタッチすれば、再生されるのは、

 ――WeTubeの配信画面




 VRMMOアイズフォーアイズ、

 淡い光を全身から放つ、巨大な女神の前に立つのは、

 ――怪盗スカイゴールド

 その、余りにも粗が目立つ、不出来な姿ポリゴン足らずでありながら、

 悠然と佇む姿であった。




 WeTubeの怪盗は、時代遅れの姿2025年の3Dモデルだ。

 しかし、ただ彼がそこに立っているだけで、WeTubeのコメント欄は勿論、ゲーム内での歓声も加熱しているのが見て取れる。

 巨大な存在に、ただ一人の小悪党が、世界中の期待を受けて降臨した様子。それは、大統領になる為に、敢えてVRMMO最新のゲーム体験をスルーしてきた者にも、

 Play Game楽しそうに、感じられた。


P,President!だ、大統領! Just Nowたった今――」

I Agree把握している


 とはいえ、その配信の様子は、希望というよりは悪夢かもしれない。

 ――今まで集めてきた情報から推察すれば

 世界の命運は、この怪盗がこの女神を、どうにかすればなんとかなる、と推測出来るからだ。”ゲームのプレイヤーが世界の命運を握っている”のだ。

 そんな非現実、本来なら、政治家リアリストはけして受け入れるべきではない。

 ――それでもだ


祈ろうLet's pray


 大統領という肩書き関係無く、そう思った。そして世界中の多くが、その行為に続いた。

 ――仮想空間の怪盗はここに来て

 世界で一番、有名なGame Player として、その名を轟かす事になった。







 ――アイズフォーアイズ、メイン都市


「ス、スカイゴールドが来たのは嬉しいけど」

「なんかかフリーズしてない!?」


 周囲の者が言うように、肩の上に、汎用アバター姿のリアを乗せた巨大な女神の前で、怪盗スカイゴールドは微動だにしない。

 いや、正確には動かない。

 昔のVRSNSと同じく、フルトラッキングで無いのであれば、肩で息をする事もないからである。今、リアが見下ろすのは、

 ――2089年のVRMMOに

 2025年のゲーミングPCで乗り込んできた大馬鹿者――


『……有り得、ない』


 仮にそれが出来る技術があったとて、わざわざ1からモデリングして乗り込んで、


『有り得、ない!』


 それで一体何が出来るのか、VRMMOにフルダイブもしてない状態で、


『十全に、戦う、事が、出来る、ものか!』


 怪盗スカイゴールドが、まともに動けるはずもない――リアは、最早、激昂も隠そうともせずに吼えた後、叫んだ。


『やれ!』


 すると――観衆の中から、武器を手にした剣士達が飛び出し、スカイへと斬り掛かる。


「え、ちょっと!?」

「何してるんだおまえら!?」


 そんなギャラリーの戸惑いの声も聞きはしない。彼等は不老不死を望んでいるリアの仲間達だ。自ら愛の女神に捕食されようとしていた者達は、その前に、リアの命令通り、この不出来な怪盗を倒そうとする。だが、

 ――スカイは微動だにしないまま


ファントムステップ怪盗舞踏!」


 そう、直立したまま、まるでロケットが射出するように真上へ飛ぶ!


「ええ、何その挙動!?」

「立ったままジャンプ!?」


 慌ててスカイを見上げるリアの仲間達、だが、その瞬間スカイの放った弾丸が、リアの仲間達に正確に命中した。過半数が倒れる中で着地し、まだ体力が残ってる者達が突っ込んできたのなら、最小限の動きでかわしていく。


「うおおお、すげぇ!?」

「怪盗様、やっちゃってくださぁい!」


 これら全てが、キーボードとゲーミングマウスによる精密動作である事を、ギャラリー達は知らない。この場でそれに気付いてるのは、リア一人だけである。


『なぜ、どう、やって、そんな』


 今やゲームというものは、十字キーとボタンでプレイするものじゃない。無論、レトロゲーの愛好家は未だにいるが、スカイの正体、白金ソラにその趣味はなかったはずだ。

 いくらセンスがあるとはいえ、たった一ヶ月でここまでいにしえのプレイスキルを身につけられるはずがない――それがリアの常識だった。

 だが、


「ありがとう! リアさん!」


 この時、いきなりスカイは、敬称を以てさん付け感謝を伝えた。

 理由はとてもシンプルで――


「こうやって遊ぶのも、とても楽しいよ!」


 ――楽しいから

 ギターの天才にとっての練習が、ただの遊びのように、その気持ちこそが、白金ソラが古のゲームスキルを習得した理由。

 キーボードをピアノのように打鍵し、マウスをチェロの弦のように滑らせ、背後のソーサラーが放った攻撃魔法をバク転でかわし、そのまま逆に背後を取って、ファントムステップで加速した蹴りを叩き込む。

 その一撃で、HPが0になったソーサラーは、うつ伏せに倒れ込んだ。


「うおおお、全部倒した!」

「なんかカクカクしてるけど動きが神ィッ!」


 キーボードを叩き、マウスを動かす、そんな、ソラの世代にとっては余りにも遠回りな入力方法こそが、新鮮に感じる理由、魅力を覚える訳。

 そう、この時において、世界の存亡がかかっているような戦いにおいてですら、スカイゴールドは、

 楽しそうに、笑っている。


「さぁ、遊ぼうか」


 ――そう告げる怪盗に

 リアは、


『……遊びは、終わり、だと、言ったろう』


 怪盗とは対照的に、一つも笑わないままに、


『やれ、アイ!』


 今度は、実の娘に、攻撃の命令コマンドを出す。


「もう一度、予告させてもらうよ!」


 それに対してスカイは――ゲーミングヘッドホンのマイク越しに、


「貴方から世界を奪い返す!」


 叫びながら、走り出したShift+W

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