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―第六十二章 助太刀―

 ランディを見上げ、そのままふらついて後ろに倒れそうになった拓真は、誰かに支えられて天を見上げた。


「おいおい、こんなところで倒れていられないよな?」

「ジ、ジオも……!」


 メファールの村での戦いの際に共に行動した、ジオが支えてくれていたのだ。


「毒状態になってんのか? なら、オレの出番だろ!」


 ジオは拓真の額に手をかざし、小さく呪文を唱える。すると額から紫色の光が抜けていき、空気に溶けていった。


「解毒魔法か……? 楽になった、助かったよ」

「それがオレの仕事だからな! さあ、立てるか?」


 ジオの手を借りつつ、拓真は立ち上がる。先ほどのようなふらつきは一切なく、身体の中に感じていた淀みは完全に消えていた。

 隣に立つランディは、拓真を見てぐっと何かを堪えたように微笑んだ。


「無事でいてくれてよかったよ」

「ああ、そっちも……もう大丈夫なのか?」

「君とロザリン嬢がいなくなってから、かなり精神的に参っていたけど……もう大丈夫さ」


 そう言って、ランディはロザリンへも振り向く。倒れ込んでいたロザリンは立ち上がっており、ロダンの後ろから今にも泣きだしそうな表情でこちらを見ていた。

 そして、ランディの目はへたりこんでいるオーマを見つける。


「……オーマ!」


 弟へ駆け出したい気持ちをぐっと抑え、ランディは少しばかり距離を取ったガルトールを睨みつけた。


「再会の喜びを分かち合うのは……全て終わってからにしよう」


 細剣を構えるランディに、ガルトールは忌々しいという感情を隠さず、視線を向けた。


「ふん、害虫が一匹や二匹増えた程度……っ!」


 そう言ったガルトールの胸に、大きな剣が勢いよく突き刺さってさらに距離を広げた。拓真はその大剣に、見覚えがある。


「人を害虫扱いするとは、少々品がないのではないか?」


 馬から降りつつ、王都アダルテの女王であるミルフェムトが拓真の後ろにまでやってきた。いつも一緒にいるはずのオークスは、今回は共にいないようだ。


「ミルフェムトっ……様!」

「ふふ……無理はしなくてよい、タクマよ。よくぞ生きていてくれた。ロダンからの知らせを受けた時は、胸が震えたぞ」


 ミルフェムトが魔法の大剣をいくつも自身の周りに出している間、さらに後ろからバタバタと馬から転げ落ちる人影が見えた。


「ポム……アクロさんまで!」

「あ、どうもタクマさん! お久しぶりですー!」


 ランディの仲間である丸い身体のポムと、細身のアクロがそれぞれ武器を構えて隣へと並んだ。ジオはそろりと後方へ下がり、ロザリンやロダンの方へと向かい、怪我人の介抱へ向かったようだった。


「責任を果たしにここへ出向いたわけだが……どうやら事態は深刻なようだな」


 周りの様子を見て、ミルフェムトは頷く。


「ガルトールは一度倒したはずなんですが、どういうわけか復活したようで……」

「わかっておる。ロダンからの手紙に、そなたらの奮闘ぶりが仔細に書かれていた。そして、エルヴァントの支配者から魔力を施されていると……」


 ミルフェムトが拓真からの言葉に応えると同時に、胸に突き刺さった魔法で作られた大剣を握りつぶしたガルトールが両手を広げた。何事かをぶつぶつと呟いている様子で、だんだんとガルトールを中心に空に暗雲が広がっていく。朝だというのに夕暮れのような暗闇に包まれると、村の周りに立てられた墓標が小刻みに動き出した。


「次から次へと……邪魔者どもめ!」


 ガルトールが何かを持ち上げるような動作をすると、墓標の下から膨大な魔力によって蘇った死者たちが起き上がる。


「ひいっ! おばけだっ……」

「やめろ、ポム。彼らは無理矢理起こされたんだぞ」


 アクロは現代日本でいうところのクナイのような小さな刃物を両手に持ち、ポムは震えながらも大きなハンマーを手に持った。


「周りの敵は俺たちにお任せを。ランディさんとタクマさんは、親玉に集中してください」


 拓真たちに迫る死者の群れに、アクロは真っすぐに突っ込んでいった。ポムは怯えつつも、むやみやたらとハンマーを振り乱し、道を開いていく。


「おおおおっ! スペシャルスキル、“腕白乱爆わんぱくらんばく”!」


 地面に何度もハンマーを叩きつけながら、広い範囲で衝撃波を巻き起こすポムのスペシャルスキルは、死者を地面から跳ね飛ばしていった。身体の一部分が吹っ飛んで動きが取れない死者もいれど、それでもポムに向かう死者はいる。


「わっ! わあっ! アクロー! たすけてー!」

「落ち着け、馬鹿! スペシャルスキル、“常闇百刃とこやみひゃくば”!」


 アクロの足元の影が伸び、そこから細かな刃が射出されていく。それらは死者の身体を貫き、地面へと伏せさせていった。

 二人の奮闘ぶりを見て、ミルフェムトは口元を抑えて楽しそうに笑った。


「ふふふっ……私が指示を出す前に動くとは、あの者らもなかなかやるようだ」

「一気にあれだけ倒せるなんて……すごいな」


 拓真も二人の働きぶりに感動していたのだが、そこをミルフェムトに小突かれる。


「見惚れている場合ではないぞ。そなたには、奴を相手にしてもらわねばならないのだからな」


 ミルフェムトの見据える先には、死者の波の奥にガルトールが控えている。ガルトールは魔力で次から次へと死者を蘇らせているだけではなく、近場にあった魔獣の死体すらも蘇らせているようだった。

 アルバは元々迫ってきていた人ならざる者と戦い、ロダンは各方面へ魔法で援助している。ジオは他にも来ていた王都医療協会の人々と共に、怪我をした人や毒状態の人たちを治していた。

 ロザリンとコウテツは、すっかりへたれてしまっているオーマを後方へ連れて行き、介抱しているようだ。その様子をランディは心配そうに見つめたが、ガルトールへと視線を戻した。


「ミルフェムト様。あなたがメファール村の作戦の立案者として責任を取りにきたように……僕も、ガリオン家の者として責任を果たします」


 一歩前へ出たランディの隣に、拓真も並ぶ。


「俺もガルトールを倒しきれなかった責任を取る。それにあいつは、俺を狙っているみたいだしな」


 並んだ拓真を見て、ランディはふわりと微笑んだが、すぐに鋭い表情へと戻した。


「……共に戦ってくれ、タクマ殿」

「もちろんだ。いくぞ、ランディ!」


 そして、二人の戦士は死者の波へと駆けだした。

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