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第62話 神を貫く槍

 決闘はクリスティーナの勝利で終わった。


(クリスティーナの最後の一撃……、あれは光魔法の片りん)


 クリスティーナの最後の魔法。

 あの一撃は、フェリックスの最大火力の攻撃魔法を吹き飛ばし、フェリックスの防御魔石を打ち砕いた。

 あれはロンギヌス。あらゆるものを貫く攻撃と防御を兼ねた光魔法だ。

 しかし、完全なものではないため再現できるようになるのは、まだ先の話になるだろう。


「今回の決闘はクリスティーナの勝利のため、フェリックスは周年の集いでミランダ・ソーンクラウンと踊ること。いいですね?」

「はい」

「では、互いに礼」


 フェリックスとクリスティーナ、互いに礼をし、二人の決闘はクリスティーナの勝利で終結した。

 観客席にいた校長が拍手をした。

 校長に続いて、教頭、アルフォンスが続く。

 拍手を終えると、校長は観客席を立ち、フェリックスたちのほうへ歩み寄る。


「見事な決闘じゃった」


 校長は先ほどの決闘をそう評価した。


「クリスティーナ嬢が最後に放った魔法……、伝記にある”神を貫く槍”のようじゃった」

「神を貫く槍……」

「磨いて行けば、そのうち聖女の称号を与えられるかもしれぬな」

「わ、私が聖女!? そ、そんな冗談を――」


 校長に絶賛され、クリスティーナはおろおろとしていた。

 フェリックスは二人の話をうんうんと頷きながら聞いていた。

 校長の話は、後に現実となる。

 光魔法を極めたクリスティーナが悪魔を打ち倒し、その功績を称えられ”聖女”となる。

 国の危機を救った者として、国民に称えられるのだ。


「私は、フェリックス先生の魔法をどうにかしようと必死で……」


 クリスティーナは偶然できた魔法だということを校長に正直に告げた。


「四属性の魔法を合わせた”なにか”をぶつけたいという気持ちでやったら、上手くいったんです」

「そうか……。四属性の魔法を合わせようとしたのか」

「はい」


 校長とクリスティーナの会話を聞き、フェリックスは光魔法覚醒へのヒントを得られたのではないかと思った。


(光魔法は四属性を合わせた複合魔法なのかもしれない)


 フェリックスは光魔法について推測する。

 ほとんどの魔術師は一つの得意属性を軸に、他の属性魔法の習得をする。

 稀に二つの属性魔法を合わせ、派生した”複合魔法”を主体とする魔術師もいる。

 光魔法は後者の複合魔法に値するのかもしれない。


(クリスティーナが四属性の魔法を平均的に扱えるのも、光魔法が適正だからなのかもしれない)


 推測のままでゆくと、クリスティーナが四属性の魔法を扱える謎も解ける。


「”なにか”を具体的なイメージに出来たら……、さっきの魔法を意図的に打ち込めるかもしれないですね」

「そうじゃな」


 フェリックスのぼやきに校長が賛同する。


「具体的なイメージ……、校長が言った”神を貫く槍”みたいなものを想像すればいいんでしょうか?」

「うむ。その調子じゃぞ、クリスティーナ嬢」

「ありがとうございます! 同好会でいっぱい練習します」


 クリスティーナの新たな目標が出来た。


(おっ、光魔法体得へのフラグが立ったんじゃないか!?)


 フェリックスはクリスティーナに期待の眼差しを向ける。

 今まで、どうやってクリスティーナに光魔法を体得させようか悩んでいたが、今回の決闘でその糸口が見えた。


(校長が伝記って言ってたな……、クリスティーナをサポートできるように読んでおこう)


 このまま同好会の活動を続けて行けば、そのうち光魔法を体得してゆくだろう。

 質問されてもいいように、フェリックスは伝記に目を通しておこうと思った。


「周年の集いはもうすぐじゃ。フェリックス、ミランダ嬢とよい思い出を作るのじゃぞ」

「はい!」

「では、ワシらはここで退散する。外で結果を待っている者たちに伝えるとよい」


 校長たちは、決闘場から出てゆく。

 彼らが出てゆくのに変わって、同好会のメンバーたちが決闘場に入る。



「クリスティーナ、結果は!?」

「勝ちました!」


 ミランダが真剣なまなざしで決闘の勝敗をクリスティーナに問う。

 クリスティーナはニッと白い歯を見せて笑い、笑顔でミランダに結果を告げた。


「だから、ミランダ先輩、フェリックス先生と周年の集いを楽しんでください!!」

「えっ、どういうこと?」

「ミランダ先輩とフェリックス先生が周年の集いで一緒に踊ってほしいなあとおもって、私、フェリックス先生に決闘を挑んだんです」


 クリスティーナの勝利条件を聞いても、ミランダは状況が理解できず、首をかしげている。


「ミランダ先輩、フェリックス先生と一緒に踊ってください!」

「わたくしが……、フェリックス先生と一緒に?」

「はい! これが私の感謝の気持ちです」


 クリスティーナはミランダをぎゅっと抱きしめた。


「ミランダ先輩が私に属性魔法の使い方を教えてくれたから、私はマインとの決闘に勝って、トーナメントで準優勝して、フェリックス先生との決闘に勝ちました」


 クリスティーナは震える声で、ミランダに感謝の気持ちを伝える。彼女の瞳からぽろぽろと涙が落ちた。


「全部、ミランダ先輩のおかげなんです」

「クリスティーナ」


 ミランダはクリスティーナの身体に腕を回し、ぽんと彼女の背を優しく叩いた。


「わたくしのために、決闘を挑んでくれてありがとう。あなたはわたくしの大切な後輩よ」

「う、うう」


 ミランダの一言に、我慢していた感情が弾けたのかクリスティーナはミランダの腕の中で大泣きした。


「ミランダ先輩、卒業してほしくない!! もっと一緒に魔法の特訓がしたいよお!!」

「もう、わがまま言わないの」

「だって、だってえ」


 クリスティーナはミランダが卒業することを嫌がった。

 彼女にとって、ミランダとの特訓の日々はかけがえのない思い出なのだろう。


(ああ、尊い。尊すぎる……)


 フェリックスはミランダとクリスティーナの美しき先輩、後輩の青春に心打たれていた。

 クリスティーナに釣られて涙が出てしまったので、ハンカチでそれを拭き取る。


「クリスティーナはミランダ先輩のことが大好きだったもんね」


 クラスメイトのヴィクトルは、クリスティーナとミランダの関係を見てフェリックス同様、感動していた。


「妹のことを大切に思ってくれるクリスティーナ殿……、とても素敵だ」


 ライサンダーは妹のミランダの事を想って大泣きしているクリスティーナに惹かれているようだ。


「……」


 レオナールだけは二人のやり取りを静観している。

 しばらくしてクリスティーナが泣き止み、同好会の活動を再開する雰囲気になってから口にする。


「そうか、そうか」


 レオナールはクリスティーナに近づき、彼女の手を取った。


「君は、僕のパートナーになりたかったんだね」

「へ?」


 レオナールの発言に、クリスティーナは思わず声を漏らす。


「決闘をしてまで、ミランダをフェリックス先生とくっつけたのは、そういうことだろう?」

「いや、違いますけど」


 レオナールは自身満々に持論をクリスティーナにぶつけるも、それは違うと彼女は即答した。


「でも、君が僕のパートナーを強引に奪ったから、僕は一人になってしまった」

「そうですね」


 クリスティーナの冷たい声。

 普段の明るい彼女の性格からして、考えられない声音だ。

 どうでもいいと思っているに違いない。


「周年の集いはあと一週間を切っている。パートナーはほとんど決まっていて、衣裳を決めている時期なんだけど」

「大丈夫ですよ。一週間あるんですから。レオナール先輩だったら、すぐにパートナーを見つけられますよ」

(うわっ、女の子にここまで言われたら、心折れちゃうよ)


 クリスティーナの辛辣な言葉の数々に、部外者のフェリックスが傷ついていた。


「……そうかい、君は責任を取らないつもりだね」


 声音からして、レオナールは無責任なクリスティーナの発言に、怒っている。

 いつも飄々としているレオナールが怒りの感情を露わにするのは、とても珍しい。


「フェリックス先生、先に約束を破ることを謝罪します」

「えっ、約束を破る?」


 不意にレオナールに声をかけられたフェリックスは、反応が遅れた。

 フェリックスに謝罪の言葉を告げた直後、レオナールがクリスティーナの身体を強引に引き寄せ、彼女の唇を強引に奪ったのだ。


「っ!?」


 キスされたクリスティーナは驚きで身体が硬直しており、レオナールにされるがままキスに応じていた。


(うわっ、レオナールとクリスティーナがキスしてる!!)


 レオナールとクリスティーナのキス。

 ゲームのスチルで見たことがあるものの、目の前で繰り広げられているものは生々しい。

 息苦しくなったクリスティーナが口を開けたところに、すかさずレオナールは自身の舌を彼女の口内に滑り込ませ、大人のキスへ移る。

 その場にいる全員が、止めることなく二人の濃厚なキスに目を奪われていた。

 少しして、レオナールの顔が、クリスティーナから離れた。


「レオナール……、先輩?」


 きょとんとした表情のクリスティーナがレオナールに声をかける。

 クリスティーナの身体は先ほどのキスで腰の力が抜けてしまっているようで、レオナールを支えにしてやっと立っているという状態だ。


「クリスティーナ、大事な話をしよう」

「大事な……、話?」

「僕は本気だ。僕はもう、君以外の女性に目移りすることはない」

「その、さっきのキスは……」

「信じられないというなら、僕はあの口づけを何度も君に捧げよう」

「へっ!? そ、それはだめです」


 真っ赤な顔でクリスティーナはレオナールのキスを拒否する。

 腰が砕けるほどのキスだ。とても気持ち良かったに違いない。

 それを再び受けたら自分がどうなるか、クリスティーナは理解しているのだろう。


「僕の周年の集いのパートナーは君だ、クリスティーナ」

「……わかりました」

「僕は君を心から愛している。卒業しても、それは永遠に変わらない」

「わかりましたから、その、恥ずかしいことをみんなの前で口にしないで!」


 キスの効果が解け、平常に戻ったクリスティーナはすぐにレオナールから離れ、彼に抗議した。

 ミランダの傍にくっついていることから、レオナールの不意打ちはクリスティーナにとって相当なものだったことがうかがえる。


「明日は休日だから、一緒に周年の集いで踊る衣装を選びにいこう」

「……うん」

「市場が開く三十分前に君を迎えに行くから」

「わかった」


 レオナールの言葉に、クリスティーナは素直に従う。


(……これはヴィクトルルートじゃなくて、レオナールルートに落ち着きそう?)


 フェリックスは目指していたヴィクトルルートではなく、レオナールルートに向かうのではないかと考えた。


(まあ、僕との決闘でクリスティーナが光魔法に目覚めそうだし、相手が誰でも問題ないか)


 結論、当初の目標であるクリスティーナの光魔法の覚醒が果たせそうなので、彼女の相手が変わろうが問題ない。介入してヴィクトルルートに修正する必要はないとフェリックスは判断した。


「フェリックス先生」


 クリスティーナがミランダから離れ、同好会の活動が始まる直前。

 ミランダがフェリックスの名を呼ぶ。


「わたくしたちも、明日、周年の集いで着用するドレスを選びましょう」

「うん」

「周年の集いが楽しみですわ」

「そうだね」


 フェリックスとミランダは互いに微笑み合った。



 そして、周年の集い当日。

 フェリックスはミランダのパートナーとして、二人で選んだ衣装を身に着け、共に会場へ入った。 




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