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第10話

 電脳空間の海を潜って、セーブポイントのプルーンのきた俺は、早速アリスを探した。ちゃんと生存しているだろうか?

 集落には街灯はなく薄暗い。テントの光以外での光源は、ゲーム内での移動不可オブジェクトとしてある再現で作られた月明かりくらいだ。


「アリス?」

「カケル!!」

「よかった……」


 名前を呼んですぐに駆け寄ってくるアリス。元気そうでよかった。そんな彼女に今日の出来事を聞く事にした。


「なあ、アリス。今日は何してたんだ?」

「えーとね。フォルテとバレンとわたしの3人で戦闘練習してた」

「そうか……」

「カケルは? なんか目が泳いでるよ?」

「え?」


 そういえば確かに焦点が合ってない。できるだけ現実世界の有栖とは別人と認識するように意識をしているが、何故かできない。

 お姉さんキャラの有栖と違って、ホワイトゴブリンのアリスは妹キャラ。

 どっちも俺の好みだが、片方選べと言われたらきっと選べないだろう。


「あ、カケルにちょっと見せたいものがあるの。待ってて」


 そう言ってアリスは一人テントの方へ戻っていった。俺は、どう反応するのがAIにとって正解なのか? を考える。

 出されるものの内容にもよるが、素直に喜ぶのがいいのか。それとも少し批評して落としてから受け取るのがいいのか?

 しかし、それは起こった。


『カケル!! 助けて!!』

「アリス!?」


 テントの中からアリスのSOS。俺は走って駆け付けると、サイの姿をしたアバターがアリスを拘束していた。


「おまえ、アリスをどうする気だ!!」

「それよりも、名乗るのが先じゃないかしら? 貴方翔斗よね?」

「ッ!?」


 このサイ。俺のことを知っている? しかもこの口調。この声。聞いたことがある。それは、俺が通ってる学校での話だ。



 ******



「あたしとタッグを1回以上――」



 ******



「もしや、おまえ。坂東美玲!?」

「その通り。なかなかフレンド申請が来ないから、直接来てあげたわ」

「それよりも、アリスを返せ!!」

「へぇ。この子がゲーム世界のアリスなのね……。ただのゴブリンじゃない」


 俺は彼女のプレイヤー名を見る。そこには"アウトヤサイダー"と書かれていた。ダメな野菜のサイダー? 正直飲みたくもない。

 アウトヤサイダーというプレイヤーは、アリスにランスを突きつける。サイのアバターの

主武器はランスのようだ。

 しかし、そんな悠長に考えてる暇はない。俺はすぐにケイからもらったグローブを装備する。


「へー。兎アバターはグローブなのね。それで武器固定なの知ってたかしら?」

「そんな……」


 そんなの知らない。知ってたけど知らない……。つまり、兎アバターって? そうか、だからバレンは俺を無能って言ってたのか!


「カケル。惑わされないで!!」

「残念だったわね。アリスちゃん。彼にはもう既に彼女がいるのよ。貴方と同じ有栖って子がね……」

「そんな……。そんなの嘘だよ……。カケルが嘘をつくはずがない!!」


 アウトヤサイダーの発言にアリスが取り乱す。でもなんでこんな名前なんだ? アリスのことよりも、坂東先輩のネーミングセンスの悪さに困惑する。


「カケル!! 本当のこと言って!! あなたの世界にありすって人はいるの!?」

「すまない……。それは本当だ……。でも、2人とも好きなんだ!! だから、美玲!! いや、アウトヤサイダー。今すぐアリスを解放してくれ!!」

「貴方。この私がすぐに返すと思ってる?」


 アウトヤサイダーが挑発してくる。もうアウトヤサイダーって考えるだけで吹き出しそうだ。ここからはヤサイダーって呼ぶことにしよう。

 そうしているうちにも、ヤサイダーは怪人みたいにアリスを人質にしたまま。俺は至近距離戦しかできない。


「相当戸惑ってるようね……。なら、これならどうかしら? みんな出てきなさい!!」

「!?」

『イェッサー!!』


 ヤサイダーの号令で、全てのテントからプレイヤーが出てくる。それも全員集落に住んでるゴブリンを身動きが取れない状態にしていた。

 人数はざっと30人から40人。対してこっちは俺一人。圧倒的に不利すぎる。それにヤサイダーは俺がまだ初心者プレイヤーということを知っている。


『番長!! こいつらどう処刑しますかね?』

「とりあえずそのままで頼むわ、決して怪我をさせないようにしてちょうだい」

『イェッサー!!』


 アリスはホワイトゴブリンの要的存在。失ったら全員が悲しむ。俺はそんなことをさせたくない。だが、戦闘能力も安定していない無力な俺では、助けられない。

 ここには【アーサーラウンダー】のメンバーがいない。合流時間まであと5分もある。この勢力差に俺は戦意喪失していた。

 そうして、助けられないと思って崩れ落ちそうになった時……。


「ったく、これは一体どういう状況なんだ、アァン!?」

「カケル、何があったのか説明できるかな?」

「【アーサーラウンダー】最強部隊登場!! てな!!」


 この3人の声は……。俺はすぐさま後ろを見ると。まず見えたのはケイの顔だった。そして、その後方には、長いローブを着けたバレンとフォルテ。


「誰よ? アーサーラウンダー? 聞いた事のない名前ね……」

「そうかな?」


 ケイは俺から離れると、ヤサイダーのところへ詰め寄る。


「フォルテ、バレン。戦闘態勢へ移行!」

「おうよ!」

「喧嘩売ってるやつはとことん買いまくるってもんだ。覚悟しとくんだな!! コラァ!!」


 バレンがものすごい喧嘩腰で挑発する。これには敵プレイヤーも怖気付いたみたいだ。だけど、ヤサイダーはビクともしない。


「みんな。相手はたった2人よ。勝機はまだあるわ!」

『で、ですが……。彼らはあの伝説のギルドっすよ!!』

「伝説のギルド?」

『ゲーム界で無敵のプレイヤーと呼ばれる、ルグアが設立したギルドっすよ。そのメンバーは全員が最強。勝ち目は無いに等しい……』

「ぅぐあ!! グチグチ言わない!! さっさと対峙しなさい!!」

「は、はい……」

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