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第9話

 ◇◇◇翌日◇◇◇



 俺はマスクをした状態で高校に登校した。寝る前に課題の復習をして、内容を頭の中に叩き込んできたがなかなか覚えられない。

 やはりまだ本調子じゃないみたいだ。そして、グダグダ勉強しているうちにお昼休みになった。俺は学校内にある購買エリアでトンカツ弁当を購入。空いてる席を探す。


『あ! 翔斗じゃん! 体調大丈夫だったか?』

『ちゃんと身体休めたんだよな?』

「ま、まあ……。熱は下がってるし、大丈夫……かな?」


 それよりもアリスのことがものすごく気になる。ちゃんとテントで身を隠しているだろうか?


「ありす……。だいじょ……」

「翔斗くん呼んだ?」

「い、一ノ瀬有栖いちのせありす先輩!?」

「もう。なんでそんなに驚いてるの? もしかして、また幻想に浸ってたんでしょ?」

「い、いやぁ……」


 一ノ瀬有栖先輩。俺の一つ上の高校3年生。そして学校いちのお姉さん的存在だ。ハーフということもあり、髪の色は綺麗なブロンド。

 いかにも外国出身の女子高生という感じで、日本の制服があまり似合わない。と言うと侮辱的なことになるので、ここまでにしておく。


「先輩、幻想じゃないんですよ。今ビースト・オンラインっていうゲームをやっているんですけど。そこにアリスっていうAIがいて……」

「ありえない。もしかして、私のこと嫌いになったんでしょうね?」

「ち、違いますって。たしかにゲーム内のアリスも好きだけど。一ノ瀬先輩のことも好きです。浮気なんてするはずもない」

「それって、本当かしら?」


 どこからか、一ノ瀬先輩とは違う声が聞こえてくる。そこには黒髪ロングの女子生徒がいた。


坂東美玲ばんどうみれい先輩……」


 坂東美玲。有栖と同じ高校3年生で生徒会の元会長。今年度で満期を迎えて卒業するので、そこは安心なのだが……。

 相手の思考を突っついてくるような発言が特徴で、彼女の言葉を聞いた人は必ず従ってしまうという都市伝説がある。


「あたしはゲームというものでの恋愛は認めないわ。そもそもゲームで得できるのは限られてるはずよ。もっと言えば、貴方。大人しく寝ないでゲームをして悪化させてたんじゃないでしょうね?」

「ご、ごもっとも……です……」

「やはりね。貴方には1週間ゲーム禁止令をだすわ」


 そんな……。今日ケイたちとアンデスの偵察に行くのに……。でも坂東先輩の発言には続きがあった。それは、俺でも予想できないもので……。


「ところで、飛鳥さん。貴方が遊んでいるゲームをもう一度教えて貰えるかしら?」

「び、ビースト・オンラインだけど……」

「ビースト・オンライン……。奇遇ね、あたしも同じゲームを持ってるわ」

「じゃ、じゃあ……」

「撤回しましょう。その代わり、1回以上あたしとタッグを組むことを条件として出しておくわ」


 え? それだけ? それに坂東先輩っも同じゲームを持ってるなんて、先輩はどんなアバターを使っているのだろうか?

 やっぱり。バレンやケイと同じ狼か? それともフォルテと同じ熊か? いやそれ以外の可能性もあるだろう。


「はい。これ。あたしのフレンドコード」


 そう言って坂東先輩は1枚の紙切れを俺に渡す。さすがは元生徒会長。字体がとても綺麗で読みやすい。

 美文字選手権では1位確実なんじゃないか? っていうくらい整った字。それを凝視している俺に対して、周囲からの視線が痛い。


『あいつ、坂東先輩と仲良いのか?』

『さあ?』


 そんな噂話に俺は混乱する。確かにこの状況はどう考えても自然じゃない。むしろ想定外だ。

 バレンさんよりはマシだけど、同じくらい強烈に言って絶対服従させる坂東先輩が、発言を撤回した。そんな妙な展開に、購買エリア一帯はざわついている。


「翔斗。どうするの?」

「そりゃ、俺は今日の夜にギルドメンバーとアンデス行くから……」

「アンデス……。つまり貴方。始めたばかりという事ね」

「はい。ちなみに坂東先輩、アンデスの次の街はどういう名前なんですか?」

「第3の街は、スターよ。スターフルーツから名前を取ったみたいね」


 スターフルーツ……。知らない果物だ。俺はスマホを取り出して検索する。すると黄色い実のついた木の写真が出てきた。

 切断した断面は確かに星の形をしている。これがスターフルーツ……。意外とシンプルな形状なのにどこかかっこいい。


「そういや。一ノ瀬先輩はゲームしているんですか?」

「ううん。私、ダイブギアでプレイするとすぐ酔っちゃうから、遊んでないよ」

「そっか……」

「2人とも。そろそろ午後の授業が始まるわ。さっさと教室に戻りなさい。これは命令よ」


 坂東先輩が教室に戻るよう促す。服従癖は健在のようだ。一ノ瀬先輩はすっと席を立ち、会釈すると教室に向かっていった。

 対して俺は昼食を少し食べただけでお腹を満たせていない。ササッと箱を閉めて、制服の中に隠した。

 急ぎ足で教室に戻ると、俺と坂東先輩のやり取りの噂は完全に浸透しきってたらしく。購買エリアでの視線と同じ熱線が俺を貫く。

 その後。俺は授業が終了し部活が終わるまで、気まずい空気の中活動することになってしまった。


 帰宅後。俺は夕食を勉強机の端に置いた状態で課題を終わらせ、20時になる20分前にダイブギアを装着。


「ゲームアクティベート!!」


 そして、ビースト・オンラインに入っていった。

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