【山梨県/某所】
「南蛮武大佐! 配置準備完了しました!」
「よし。後は合図を待つだけだな?」
50代にして陸軍最強の南蛮武葬兵。
この任務が無事終われば、将官級准将を飛ばして少将昇進を約束されている。
だから気合を入れて対応している、と言う訳ではない。
これから襲撃をかけるのは、未曽有のテロを慣行予定の信長真理教総本部。
テロとは、大統領官邸と国会議事堂を狙った爆破テロ。
だが、そのテロとは核爆弾を使った未曾有のテロ。
計画成功は当然、誤爆でも国が終わる核爆破。
内部告発だが、イタズラにしては証拠が多すぎて、到底無視出来ない告発。
核爆弾は第二次世界大戦でも使用寸前だったが、核実験で散々な恐ろしいデータを誇る核爆弾をテロ組織が持っているのは脅威だ。
入手経路は、ユーラシア大陸にあったS連邦共和国が崩壊した時、核技術も流失したと言われるが、それが証明された形である。
そんな核を手に入れたといわれる信長真理教は、全国に支部があるが、教祖がテロを目前にして今月はここの本部に居るとの情報を掴んでの行動だ。
「内部告発者の北南崎……。絡はまだありませんね。ガセならガセで安心ですが……」
白洲御中佐が確認をとる。
これから核がある場所へ襲撃をかけるのだ。
信長真理教の教祖逮捕は当然、
内部告発の資料には実物の写真と、仕様書、その他、核反応に必要な技術書まで含まれていた。
これと材料さえ手に入れば、誰でも核爆弾を作れてしまう驚異の機密資料。
「元々黒い噂もあった信長真理教だ。それが本当かどうか確認できる」
「……内部告発者にハメられていたら、我々は終わりですね」
「あぁ。だが、あの資料で核爆弾は作れるとのお墨付きがあった。こんなのは真っ黒すぎるわ! だから成功すれば少将に昇進。昇進はオマケだが、失敗は除隊で御の字、最悪爆心地で死ぬ!」
南蛮武が、待機している車両で怒鳴った。
信長真理教――
初代皇帝織田信長を神として祀り、善良な宗教団体として活動している。
仏教等の他の宗教とは違い、極楽や地獄の概念は特になく、とにかく信長の理想を追求研究する、むしろ信長学会の一面が強い。
活動も癖が強いのは確かだが、信長が孤児の保護に積極的だった事に習い、信長真理教でも身寄りの無い孤児を引き取り、面倒を見る慈善活動も行っている。
そこで養子縁組を希望する親を募集し、厳正な面談と共に、子と義親の双方が納得すれば、晴れて親子として成立し卒業していく。
別に宗教観を押し付けることもしない。
安心安全な養子縁組である。
また運悪く、義理の親に恵まれなかったとしても、学校にはきちんと通えるし、就職も手厚いサポートがある。
独り立ちサポートも充実だ――というのは宗教団体上の表の顔。
過剰なお布施回収や、怪しげな壺を買わせる事も無い。
だから黒い噂が絶えない。
カルト宗教なのにカルト臭がしないのだ。
臭いはしないが、当然というかやはりカルトで、裏の顔は『日本に今一度織田信長の思想を叩き込む』事だ。
とは言っても信長本人不在で真の思想など、自分達が都合よく考え捻じ曲げた思想に過ぎない。
単に日本を牛耳る事、もう一度、信長の理想を知る自分達で天下を取る事が目的で、孤児の面倒も、戦力を集める名目に過ぎない。
そこで不合格の烙印を押された者は、養子縁組に出され、信長真理教の表の顔として役立ってもらう。
しかし優れたものは合格として、組織の戦力となる。
合格不合格のラインは定期的な身体検査や、運動測定、学業の成績で決められており、また特殊な能力を持つ者等も対象となる。
孤児はまさか鑑定されている等とは夢にも思わず、感謝して養子縁組を受ける。
もちろん、不合格者だという事は知らずに。
故に、信長教は入る孤児に対し、出ていく孤児は少ない。
この出ていく孤児が少ないというのが、黒いうわさの根拠で、実は、不合格でも社会不適合者の烙印を押された者は、臓器密売としてバラされたり、系列病院での危険な治験の検体として利用される。
信者の寄付は月1000円もあれば多い方で済んでいるのは、こう言った事情があった。
そんな事情も核爆弾情報とともにリークされてきた。
政府も、疑いの目を掛けてはいたのだ。
怪しいのに怪しくないのが怪しすぎた。
絶対叩けば誇りが舞い上がるのに、宗教法人として完璧すぎて叩けない。
この国には全宗教団体に対し監査が定期的に入るが、信長真理教は一度も是正勧告すら受けた事がない。
昔ながらの宗教寺院でさえ、多少の是正を求められる事があるのにだ。
「……北南崎からの連絡はまだか!?」
「無いですね」
怒鳴った南蛮武に白洲御が冷静に答えた。
「北南崎と名乗った信徒が、教祖と核が一緒にいる時に信号連絡があるようですが。
「もちんです。電源設備は数日前に細工済み。そしてサイレントキリングは我らの得意分野。暗闇こそ我が領分」
「相手のフラッシュグレネードも暗視スコープを使っていなければ関係ありません。大佐含め我ら3人突破口を開いて見せましょう」
南蛮武大佐が作戦立案と指揮を取るが、取りながら突入する。
外での指揮は白洲御中佐が引き受ける。
南蛮武大差が突入するのは現場を見て臨機応変に指揮する為と、信徒の裏切り者である北南崎とやらを判別できるのも南蛮武だけだからだ。
目冥木大尉、馬琉麒中尉はそのお供にして梅雨払い。
彼ら3人と白洲御に暗視ゴーグルは必要ない。
気配と音の反響で全てを察知する。
他の隊員には暗視ゴーグルは必要だが、3人が片付けた信徒の拘束が主な任務だ――ガガガ ガーガーガー ガガガ
トランシーバーの奇妙な音に南蛮武が反応した。
「ッ!! 来た! いくぞ! 白洲御中佐! あとは任せた! 外に逃げた信者は全員捕らえろ!」
「お任せを」
こうして完全武装の南蛮武小隊が、闇夜を突き進むのであった。