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第110話 本棚作り

「お待たせ、ゆーしっ! お茶持ってきたよ〜……って、何してるの?」


「ん? ああ、せっかくだから本棚作って行こうかと思ってな……」


 由那の部屋で一人。数分にも満たない時間だったけど、案外その状況は落ち着かなくて。


 何かしていないと悶々とした気持ちが高まってきそうな気がした俺は、ホームセンターから運んできたレジ袋の中身を取り出していた。


 彼女と二人で選んだ本棚。まとめられてコンパクトにビニールで巻かれているその材料はたったの板五枚と、それらを固定するためのネジ。そして安物の簡易的なドライバーだけだ。


 サイズ感がサイズ感だし、これくらい簡素でも充分な気がする。あまり複雑な作りをされても組み立てる側としては面倒だしな。


「そんなにすぐ出来ちゃうの?」


「おう。これなら五分もあれば作れると思う。自分で作りたいなら由那がやるか? 簡単だぞ」


「う〜ん……ヤダ♡」


「だと思ったよ」


 と、いうわけで。ビニールを開けて、俺は淡々と本棚作りの準備を進めていく。


 由那はしばらくその様子を見つめていたが、やがて。「あ、じゃあ私はこの後ゆーしと色々イチャイチャできるように今のうちに着替えとこっ!」と言い出して、ゴソゴソと衣料棚を漁っていた。


「ゆーしも着替える? 私が前に借りて帰ったパーカーあるから、上だけなら寝巻きになれるよ〜」


「え? 俺着替える必要あるのか……?」


「むふふっ、私は着替えておいた方がいいと思うけどにゃ〜?」


「そ、そうか。分かった」


 一体何をする気なんだ、と少し不安になりつつも、ベッドの上に置かれたパーカーに手を伸ばす。


 由那曰く俺の匂いが深く染み付いているとのことだったパーカーだが、一回由那が着て洗濯されているからか。そこからは甘い、良い匂いがふわりと漂ってくる。


 ずっと前から思っていることだが、由那からは何故こんなに良い匂いがするのだろうか。香水なんかを付けているという感じではない。もしそれが元なら、部屋からも同じ匂いがしてくるのは少し違和感があるしな。


 まあ部屋で化粧をしている人ならあり得なくもない話だろうが、見渡す限りこの部屋にはそう言った化粧品類が一切無い。素の状態であの可愛さと良い匂いを維持しているというのは、もはや才能だな。美少女でいる才能。


「……って、オイ!? ちょっと待てなんでもう制服脱ぎ始めてるんだ?」


「ほえ? あ〜、もしかして彼氏さんはちゃんと私の制服の下、見たかった? ごめんね後ろ向いてて。ムッツリさんのためにちゃんとそっち向────」


「向かなくていい! 向かなくていいから!! というか俺も後ろ向くからな!!!」


「……ぶぅ。素直じゃないなぁ。でも、そんな可愛いところもしゅきっ」


 しゅきっ、じゃないが!? 


 ダメだコイツ、最近どんどん遠慮がなくなってきてる。いや、ダメではないんだけど。決してダメではないけども。


 ただこれ以上は俺が持たないというか。見たくないわけではないけど見たら持たないわけでつまりそれは男の性というわけで俺は彼氏だから彼女さんのを見ても問題ないわけでァァァァァ。


「? ゆーし? おーい。私もう着替え終わったよ? ゆーしは?」


「へ!? あ、ああおぅ。終わっちゃったか……」


「なんかちょっと残念そう?」


「い、いや。その寝巻き、死ぬほど似合ってる」


「えへへ〜、でしょ? お気に入りなんだ〜!」


 くそう、もこもこ彼女さんめ。なんだよその格好可愛すぎか? 水色の上下セットもこもこパーカーとか。可愛いのポイント押さえすぎなんだよなぁ。


「お、俺も着替えるか」


「わわっ!? ちょ、ゆーしはダメ! 私ちゃんと後ろ向いてるから!!」


「なんでそうなる? 俺半袖までしか脱がないけど」


「に゛ゃーっ!! ゆーしの変態! えっち!!」


「本当になんでだ!?」


 何故か初々しい反応で速攻後ろを向く彼女のフード付きな背中を見て「なんなんだよ……?」と、呟きつつ。




 由那の色々イチャイチャとやらに対応できるよう、俺もパーカーへと着替えるのだった。

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