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第120話 文化祭

「あ〜、え〜……みんなよく頑張ったなぁ。明日はいよいよ待ちに待った文化祭。まあ私から言えることはあれだ。ハメを外しすぎないこと。あと後悔のないように、な。ルールの範囲内で死ぬほどはっちゃけちまえ〜!!」


「「「「おおお〜っ!!」」」」


 珍しくそれっぽいことを言った湯原先生の号令に、クラスが沸き立つ。


 今日は文化祭前日ということで、準備期間として授業が休みである。


 というわけでクラス全員で最後の装飾や食べ物の事前準備に取り掛かり、日が落ち始めた今。ようやくそれが終わったところだ。


「ゆーしゆーしっ! 盛り上がってきたね!!」


「だなぁ。俺はちょっと不安もあるけど」


「え? なんでぇ?」


「接客経験ないからだよ。なんやかんやでお前とウエイトレスするわけだけどさ」


 高校一年生。当然まだバイトもしたことがない俺は、ちゃんと接客マナーが自分にあるのか。それが不安だった。


 まああと、学外からの客も来るとのことで由那に悪い虫がつかないか、とか。正直不安な箇所を挙げ出したらキリがないわけだけど。


「なんとかなるよ! ゆーしには私がついてるもん!!」


「……そうだな」


 横にいるハイテンションのおかげで、そんな悩みは霧散していった。


 なんとかなる。その一言を由那から貰えるだけでここまで心が凪いでいくなんて。さすが好きな人の言葉は違うな。


 教室での自由解散を終えてから、俺達はいつも通り二人で帰路につく。


 一度由那を家まで送ってから俺の家へと戻る順路。今日は帰りが若干遅くて日も落ちてきているから、寄り道は無しだ。


「文化祭、楽しみだなぁ。ゆーしと色んなとこまわって、色んなもの食べて。お店の接客も……」


「欲張りだな」


「だって一年に一回しかないもん! 後悔しないよう、ゆーしとしたいことは全部するんだぁ〜!!」


 えへへ、と呟いて密着しながら、満面の笑みを見せる。


 したいこと、か。俺も由那としたいことがいっぱいある。一緒に食べ歩きをしたい。お化け屋敷に行きたい。占いも行きたいし、写真撮家だって。文化祭の出店パンフレットを見て、楽しみは膨らんでいくばかりだ。


 勿論接客だって。不安はあるし、由那のウエイトレス姿を人に見せたくないという気持ちもまだ、少し。


 けど全て、楽しみで上塗りできてしまう。何気に一番浮かれてるのは俺なのかもな。


「全力で楽しもうな。二人で色んなところ行こう」


「うんっ!」


 夕焼けに照らされながら、のんびりと歩いて行く。


 どこへ行って何をしよう。どんな順番で回ろう。LIMEグループに共有されたシフト時間を眺めながら、二人で明日の予定を決めていく。


 結局行きたいところが多すぎて時間はギチギチになってしまったけれど。そんな予定表を見て苦笑するのもまた楽しくて。テンションは静かに最高潮へと昇っていた。


(楽しみだな、本当に……)


 恋人と迎える、初めての文化祭。


 昂る心は由那と別れてからも途絶えることはなく。早く寝なければいけないのに、気づけば二人で深夜まで通話をしてしまって。






 お互い寝不足のまま、当日を迎えた。

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