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第128話 女帝と恋人2

 ゴクリ、と息を呑む。


 含みのあるこの人の言い方に、薄らと冷や汗が出てきた。


 い、いやでも……な。占いなんてあくまで迷信だし。占い部の皆さんのやつとはいえそんな簡単に当たるわけがない。


「ではまず女帝のカードの説明からいきましょうか」


 そうだ。由那のことを女帝とか言ってる人だぞ。子供っぽくて甘えんぼなコイツに女帝なんてキャラが似合うわけ────


「この女帝のカードは、女性が持っているポジティブな面を表しています。心の余裕や優しさ、あとは豊かな実り。衣食住のバランスが取れており幸せを享受している方に出るカードと言われているんですよ」


「なっ!?」


 ポジティブで衣食住が取れていて健康。その上豊かな実り……だと?


 実り……実り、か。当たってるな。精神的な意味でも、身体的な意味でも。


「女帝の正位置が示すのは庇護される、守られる愛。そして包み込まれる愛に包み込む愛。ふむふむ、どうやら隣の彼氏さんによく愛してもらい、また愛をしっかりと伝え合えているようですね。まあ……そんなことはお二人を見ていれば誰でも分かることかもしれませんが」


「えへへっ、愛だって! 確かに私はゆーしのこと大好きだし、ゆーしも私のこといつもしゅきしゅきってしてくれるもんね!!」


「お、おいやめろ。恥ずかしいこと言うな……」


「あ〜、恥ずかしがってるぅ。もお、ゆーしだって嬉しいくせに〜♡」


 なんだこれ。女帝のカード……由那を示すカードとして完璧すぎないか? というか女帝とか言うからてっきりもっと性格的にキツい感じの女の人の特徴が出るものかと思っていたが。その名前とは裏腹にめちゃくちゃ子供っぽくて愛らしいキャラじゃないか……。


「女帝のカードが出た方が今後幸せになるためには、とにかく愛の積み重ねが大切です。感情を生み出し、それを愛へ変換。変換された愛を積み重ねていくことで二人の仲はより安定していき、繁栄へと繋がります。逆に気持ちを隠すと悪影響ですから、生まれた愛は全て伝えてください」


「は〜いっ! じゃあゆーし、これからも私いっぱいしゅきしゅきするね? 私のしゅき、これまで以上にいっぱい伝えちゃお〜!!」


「は、はぁっ!? こ、これ以上伝えられるのか……というか今までの、全力じゃなかったのか!?」


「全力だよ! でも今までの全力以上に、もっともっと愛を生み出してイチャイチャしちゃう!!」


「お、お手柔らかにお願いします……」


「だ〜めっ♡ 絶対手加減なんかしないよ〜」


 さっきまで行儀よく膝の上に乗せていた手を、そっと俺の方に移動させてくる。


 占ってくれている人に見えない机の下で優しくそれを繋ぐと。由那はにまにまとした笑顔で指を絡めた。どうやら早速遠慮のない愛を伝えることを実践しているらしい。ああもう……可愛いぞこの野郎。


 というかこの人の占い、冷静に考えてめちゃくちゃ凄くないか? てっきりこう、誰にでも当てはまるようなふわふわした言葉でそれっぽくまとめてくるものだとばかり思っていたが。ここまでピンポイントで由那の特徴を把握し、この先どうすればいいかを言い当てるなんて。もしかしたらこの人、かなりの実力者なのかもしれない。


「さて、では問題の彼氏さんの方にいきましょうか」


「へ? 問題の……?」


「ふふっ。きっと彼女さんは苦労されてきたのでしょうね」





 妖艶な笑みと共に、俺のカード「恋人のタロット」について、説明が始まった。

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