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第130話 嫉妬に駆られた彼女1

 時は遡り、一時間前。


 俺は勇士と別れると、有美と待ち合わせ場所として指定していた教室前へと向かった。


 相変わらず俺達のシフトが終わっても店は大盛況なままのようで、これは売り上げにも期待できそうだ。クラスのみんなで打ち上げに、それも無料で行ける機会なんてそうそうないと思うから是非とも一位を取りたいところだな。


 なんて考えていると、既に着替え終わっていたらしい有美は制服へと戻り、俺よりも早くそこにいた。


「お待たせ。有美早いね、俺も結構急いだんだけどな」


「……なにそれ。それじゃまるで私が大急ぎでここに来たみたい」


「はは、ごめんって。それじゃ行こっか?」


 なにか悪いことを言っただろうか。有美はすこし不機嫌なように見える。


 もしかしたら有美と全部一緒に合わせて入るはずだったシフトを、在原さんに頼み込まれて一時間変えてしまったからか。


 有美はこれで寂しがりやだし。ここに急いで来たのも早く会いたかったからかも……なんて、なんかこの考え方ナルシストみたいでちょっと嫌だな。


「……んっ」


「? なに?」


「んっ!」


 綺麗で細い手の甲が、そっと伸びてくる。


 有美の顔を見ると、ほんのり赤くて。どこか恥ずかしがっている様子だった。


「手、繋ぎたいの? いつもは恥ずかしいからって二人きりの時にしか繋がないけど」


「う、うるさいな……もう。寛司が他の女の子にデレデレして私から離れていかないよう……仕方なく、だから。いいから黙って繋いでよ」


「で、デレデレって。俺一度でもそんなのしたことあったっけ……?」


「い•い•か•ら!」


「いでっ。分かった、分かったから! 脇腹小突くのやめて!!」


 そういえばさっき、ホールで入ってた時。やたらと女子から声をかけられたり、こっそりと連絡先を渡されたり。あとは彼女がいるのか聞かれたりしたけど……。


 もしかして有美に見られてて、嫉妬で怒っているのだろうか。


 いやまあ確かに、俺も有美が同じ目に遭っていたら少なからず嫌な気持ちにはなるな。うん……完全に俺が悪いか。


 どの道有美と手を繋いで歩けるのなら役得だし。せっかく寂しがりやな彼女がこうやって甘えてきてくれてるんだしな。素直に受け入れよう。


 きゅっ、と伸ばされた手を掴む。


 いつもは指どうしを絡める恋人繋ぎだけど、流石に人前でそこまでする勇気はなかったのか。普通の繋ぎ方で強く手を握り返してくると、有美は隣に並んで。少し満足げに口角を上げていた。


(寂しがらせた分、いっぱい甘やかしてあげないとな……)


「今日はずっと二人でいよう。行きたい所、いっぱいあるんだよね?」


「……うんっ」


 コクリ、頷くと、彼女はまず一店舗目に行きたいところを広げたパンフレットで指さし、俺に伝えてくる。


 教室的にはここから割と離れた所だけど、どうせ最終的にはある程度全部回ることになるだろうし。途中で他に行きたいお店を見つけたら先にそこへと入ってしまえばいいだけのことだ。


 手を繋いでようやく自分の元に俺が戻ってきたからか、ご機嫌な様子で可愛らしい有美と。決めた目的地に向けて、同時に足を踏み出す。


「ほんと可愛いよね、有美って」




「は、はぁっ!? うるさい、バカ……」

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