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第134話 薫とひなちゃん1

「っあ゛あ゛あ゛ぁ!!! クッソ、もう一回だこの野郎!!!!」


「ふふっ、望むところです。ここまで骨のある相手は久しぶりですよ……っ!!」


 PC画面に映る「LOSE」の文字。それと共に発狂する私を見て、ゲーム同好会会長はニヤりと笑う。


 それはいつも通り有美を追って盗さ……温かい目での見守りをしていた時のこと。PC室に貼ってある「ゲーム部同好会 ゲーム好きの挑戦者求む」の文字が目に入ってしまったことから始まった。


 流石同好会を名乗るだけあって置いてあるゲームの種類は多いわ実力もあるわで。ついつい会長とやらを名乗るメガネ野郎に挑発されると、私は数多のゲームで勝負を挑んでいた。


 勝手は負け、勝手は負けを繰り返し。なんやかんやで一時間ほどが経っただろうか。私以外全く人が来なかったらしいここでは一つの熱狂が起こり、私と会長の勝負の行末を同好会メンバー全員が見守っている。


「在原薫さん。まさかあなたのような逸材がこの学校にいたとはね。どうです? ここに入って私達とこれからも切磋琢磨していきませんか?」


「はっ、誰が入るかよバーカ!! 私はなぁ!! キラキラした!! ピチピチ現役JKなんだぞッッ!! オラ地獄の三連コンボォォォ!!!」


「ぬぐっ!? このっ、相手の嫌がることをよく分かっている攻め方をしてきますね……」


「こちとらなぁ……普段から鍛えてんだよォォォォォォ!!!!」


 ドシュッ、ダダダダダダッ、ガキインッ。


「っしゃぁぁ!!」


「うそ、本気モードの会長が負けた!?」


「凄いぞこの人。あの本気キャラを使っている会長相手に勝ち星を上げるなんて!!」


「ぐっ。不覚を取りました……」


「ハッハー! スッキリしたぜぇ!!」


 ようやく手汗の滲んだコントローラーを話すことができた私は、PC室特有の下にキャスターがついたコロコロいすを後ろに引いて、思いっきりもたれかかる。


 凄い達成感だ。いつもは一人でやっているゲームだが、たまにはリアルで人と顔を合わせてするのも悪くない。少なくともコイツとするゲームにはそう思わせるほどの熱狂があった。


「在原さん。改めてどうですか、うちの同好会に入るというのは。私どもはもう大歓迎ですよ?」


「あーん? だからぁ、入んねえって言ってるだろうがよい。私は忙しいんだ。ここでの活動に時間を割けるほど暇じゃねーな」


「そう、ですか……」


 ああオイ、何寂しそうな顔してんだ。捨てられた子犬か。


 全く……まあ楽しかったのは事実だし。仕方ないな……。私はその顔に弱いんだ。


「分かった。じゃあ入りはしないけどたまになら顔出してやるから。お前らぁ、サボって弱くなるんじゃないぞ? 私がビシビシしごいてやる。あと会長! 次は一勝じゃなくて全勝してやるからな。首洗って待ってろ!」


「ふっ、勿論です。楽しみにしていますよ」


「可愛くないな、ったく。じゃあ私はそろそろ出るから。またな〜」


 芽生えた謎の友情。案外それに心地のいいものを感じた自分を不思議に思いつつ、私は教室を出る。


 部活なんてしてこなかった私だが、もしかしたら中学で何か一つくらいしてみるのもよかったかもな、なんて。


「…………って、私は何やってんだァァァ!? やべ、有美見失った!! 私がゲームしてる間にシャッターチャンスがあったかもしれないのにッッッ!!!」


 相当な時間が経ってしまった。流石に周りを見渡しても有美の姿はなく、今やどこに消えたのかも分からない。


「はぁ、マジかぁ……。って、ん? あれって……」


 そんな時。みんなが友達やら恋人やらとワイワイしながら歩いている廊下の先で一人。角からひょっこりと顔を半分だけ出してこちらを見つめる、一人の女の子の視線に気づく。


「……声かけてみるか」


 どうせ暇すぎて親友の尻を追いかけている身だ。せっかくだし、と。




 私は彼女の視線に当てられながら、颯爽と近づいたのだった。

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