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第137話 薫とひなちゃん4

 向かい同士で席に座り、発泡スチロールのような物でできたお皿に乗せられたそれを見つめながら、割り箸を割った。


「本当にオムレツっぽいな。とてもじゃないけどポテチが入ってるとは思えないや……」


 ただ、それの存在感を感じたのは半分に割ろうと箸を押し当てた時。


 見た目によらず、中はしっかりと固い。案外割ることはできず、同様にひなちゃんも困惑した様子でいた。


 初めに半分に割ってしまえば交換も楽かなと思っていたのだが、仕方ない。


「ごめんひなちゃん、多分これ箸で割るのは無理だ。自分で半分食べてから残り交換する感じでもいい?」


「へ? は、はひっ!」


 ひなちゃんは間接キスとか気にするタイプだろうか。いや、するよな絶対。百パーする。


 ちなみに私は全く気にはならないんだが。まあ本人がどうしても嫌だと言ったら交換するのをやめればいいだけの話か。


「んじゃ失礼して。いただきま〜〜す」


「い、いただきますっ!」


 卵の感じはふわとろというよりは若干硬め。中身が硬いから合わせているのか。


 切り取るのは不可能なため約十五センチはあろうかというそれを箸で摘み上げ、端からかぶりつく。


「んっ、これは……っ!」


 思っていたよりオムレツじゃない。けど、美味い。


 まるで刻んだジャガイモをこれでもかというくらいに突っ込んでそれを卵で巻いたかのような。見た目の小ささとは裏腹に食べ応えのある感じに仕上がっている。


 ケチャップをかけて、もう一口。マヨネーズをかけてもう一口。お腹が空いていたこともあり、気づけばあっという間に半分。分かりやすく食べかけという歯形を残して、ひなちゃんとの交換タイムを迎えた。


 ひなちゃんもお腹が空いていたのか、少し急ぎ気味で食べていた気がする。さて、のり塩味はどんなふうに味変されているのか。かなり楽しみだ。


「はいひなちゃん。交換こ」


「ど、どうぞ!」


 皿ごとオムレツを交換して、互いに目の前へ置く。


 のり塩味というだけあって断面からはじゃがいもの黄色だけではなく緑もまばらに含まれていた。


「ははっ、ひなちゃんの食べかけも歯形付いてる。ちっちゃくて可愛いな」


「ひゃ、ひゃひぁっ!? へ、変なこと言わないでください……か、可愛いだなんて……」


「いやいや、ひなちゃんは可愛いぜぇ? 見ろよ私の歯形。女の子らしからぬ大きさだろっ」


 食事中もひなちゃんからはなんというかこう、慎ましさのようなものが見てとれた。


 おとなしめな性格と比例するように小さく開ける口と、幸せそうにする咀嚼。はい美少女。


 ま〜あ私も顔面だけなら負けない自信があるんだけどなぁ。いかんせんこんなんだから女子力がないというか。


「か、薫さんは……女の子、でしゅ。わ、わわ私は凄く大好き、ですからッッ!!」


「はえ? お、おう? ありがとう?」


 コラコラ、年頃の女の子がそんな気軽に大好きなんか言ったらいけませんぞ。ひなちゃんなりのフォローだというのは分かるけども。


「か、薫しゃんの食べかけ……間接、キスっ。私が薫しゃんとキス……えへへっ。今日はいい事ばっかりだぁ……っ♡」


「? ひなちゃん、なんか嬉しそう?」


「へひっ!? い、いえ!」


 いい子だなぁ、ひなちゃん。うちのクラスにこんな隠れ有料株が眠っていたとは。





 こりゃあ、そう簡単に男子にやるわけにはいかないな。

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