「へぇ、まりちゃんからそんなこと言ってもらったんだ」
「そうなの! やっぱり友達っていいね。悩んでたのがバカみたい」
翌日。また唐突に私の家に上がり込んでいたしおりお姉ちゃんに、昨日のことを話した。まりにVTuber活動がバレたこと、それを受け入れてくれたこと、その後活動のことについて話し合ったこと。
それが嬉しかったということも全部。しおりお姉ちゃんも、昨日のまりと同様に優しい顔をしながら聞いてくれた。しおりお姉ちゃんは、私がこうやってまりとのことを話すのをいつも微笑ましそうに聞いてくれる。それがなんだか気恥ずかしいけど、でもやっぱり嬉しかった。
「かなちゃんが苦しそうなのはわかってたからそれが解決したようでよかったよ」
「しおりお姉ちゃん……」
「まりちゃんが受け入れてくれたのは、きっとかなちゃんの人徳だね」
「そ、そんな大層なもんじゃないと思うけど」
でも、しおりお姉ちゃんにそう見えているなら、きっとそうなんだろう。私は私なりに、まりとの仲を深めてこれたのだろう。
しおりお姉ちゃんは、私の頭を優しく撫でてくれる。それが心地よくて目を細めると、しおりお姉ちゃんはまた微笑んだ。
「これからもコラボとかはしていくの?」
「そうだね。普段のまりともVTuberのまりんちゃんとも仲良くしていきたいからね」
「うんうんかなちゃん、いい顔になったね」
「そ、そう?」
「うん。前より元気そうでよかった」
確かに、まりとの仲が深まった今、私は前よりも元気になったかもしれない。
でもそれはしおりお姉ちゃんのおかげだっていうのも大きいと思う。しおりお姉ちゃんが私の側にいてくれるから、私は私らしくいられるんだ。
しおりお姉ちゃんは、私のためにいつも頑張ってくれる。だから私も、そんなしおりお姉ちゃんに恩返しをするために頑張りたいと思う。
「かなちゃんはいつも頑張ってると思うよ」
「……え?」
「自分じゃそう思ってないかもしれないけど、私はかなちゃんのことをちゃんと見てるからね。だからかなちゃんが頑張ってるのわかってるよ。ちゃんと偉いね」
そう言ってしおりお姉ちゃんは私を抱き締めてくれた。しおりお姉ちゃんの温もりが体中に伝わってきて、それがとても心地よかった。
「……それでまりの話に戻るけど、しおりお姉ちゃんのことも改めてまりに紹介しようかなって」
「あー、確かにその方がいいかもね」
私のVTuberとしての身体を作ってくれたしおりお姉ちゃん。まりの身体もしおりお姉ちゃんが作っている。私とまりにとってVTuber活動の上で欠かせない存在。だからそんな繋がりのある人も紹介しておきたいと思った。
こんなすごい人が幼なじみなんだぞ、と自慢したい気持ちもあった。自慢される側からしたらたまったものではないのかもしれないけど。
「かなちゃんとまりちゃんの活動これからも支えていくよって、ボクも伝えたいし」
「ありがとう、しおりお姉ちゃん」
「前にも言ったけど、ボクが好きでやってることだから気にしないで」
しおりお姉ちゃんが私のために色々やってくれているのを、私は知っている。お仕事の面ではもちろん、ファンアートを見つけて「この絵師さんいいね」と共有してくれたり配信タグを巡回して「この人かなちゃんのこと褒めてくれてるよ」と教えてくれたりする。
他にも、私の配信のネタを一緒に考えてくれたり、私がVTuber活動で不安な時に励ましてくれたり。しおりお姉ちゃんは私のために、本当に色々なことをしてくれるのだ。
「だからかなちゃん、これからも無理せず頑張ってね」
「うん!」
しおりお姉ちゃんがいてくれるから私は安心してVTuber活動をすることができるんだ。しおりお姉ちゃんがいなかったら、私はきっと潰れてしまっていただろう。
「かなちゃん」
しおりお姉ちゃんが、私の名前を呼んでくれる。
「ボクがずっと側にいるからね」
しおりお姉ちゃんがそう言ってくれるのが、私にはたまらなく嬉しかった。しおりお姉ちゃんにそう言ってもらえるだけで、私はどこまでも頑張れる気がする。
私はしおりお姉ちゃんをぎゅっと抱き締め返す。それがなんだかくすぐったくて、二人で顔を見合わせて笑い合った。
「かなちゃんはかわいいね」
「えへへ……」
しおりお姉ちゃんは、私が今まで出会った人の中で一番一番素敵な人だと思う。しおりお姉ちゃんと一緒なら、これからもずっと上手くやっていける。そう思……
――ぐぅぅ〜
「あはは……お腹空いちゃった」
「もう、しおりお姉ちゃんは……」
しおりお姉ちゃんは、こんなときにでもお腹が鳴る。それがなんだかおかしくて、私は声を出して笑ってしまった。
二人並んでキッチンに立って準備をする。しおりお姉ちゃんが手伝うと言ってくれたので、その言葉に甘えさせてもらおうと思う。今日はカレーだ。昔お母さんに教えてもらったレシピで作ると美味しくできるからよく作っている。
ジャガイモやニンジン、玉ねぎを切って炒める。鍋の中に水を入れて沸騰させたら具材を投入する。煮込んでルーを入れれば完成だ。簡単で美味しい私の得意料理。
しおりお姉ちゃんも気に入ってくれるといいな。
「おー、いい匂い」
「そろそろ完成するよー」
カレーのルーを入れた辺りから部屋中がスパイシーな香りでいっぱいになって、私もお腹が空いてくる。私はお玉で鍋の中をぐるぐるとかき混ぜる。カレーがぐつぐつと煮えて、具材はルーの中に溶け込んでいった。
「できた!」
私はお皿にご飯をよそって、その上にカレーをかける。そこに冷蔵庫から取り出した福神漬けを載せる。
目の前には美味しさ満点のカレーライスが完成だ。これがしおりお姉ちゃんにも気に入ってもらえたら……そう思うと胸が高鳴るのを感じた。
「わー! 美味しそうだね」
「えへへ……」
しおりお姉ちゃんは、目をキラキラさせながら完成したばかりのカレーを見つめている。喜んでもらえたようでよかった。私はスプーンにご飯とルーを掬い口に運ぶ。
「かなちゃん、あーん」
しおりお姉ちゃんはスプーンでカレーを掬って私の口元に差し出してきた。私は反射的に口を開いてそれを受け入れる。口の中でルーとご飯が混ざっていく感触がした。
「んー! 美味しい! ……って、同じものなんだからわざわざシェアしなくても」
「いいじゃんいいじゃん。その方が楽しいでしょ?」
「……まあ、新鮮ではあるかな」
私もスプーンにご飯とルーを掬ってしおりお姉ちゃんの口元に持っていく。すると、しおりお姉ちゃんは嬉しそうにそれを口に含んだ。
それを見ていた私もなんだか嬉しくなって顔が綻ぶのを感じた。なんだかんだ言って、楽しい食事の時間だった。