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第39話 ゴミ問題


 家へ帰るとエントランスの所で、管理人に呼び止められた。

「あ、瀬守さん、ちょっと」

「あ、管理人さん、こんばんは」


 普段、管理人は夕方には、管理室から去ってしまう。高齢だから夜遅くなると辛いのだろうと思っている。今は、二十二時だ。遅くなってしまった。思いのほか、仕事に手間取ってしまったのだった。


「あんた、いつも、こんなに遅いの?」

「あー……ここまで遅いのは、そんなに無いですよ」

「そうなの? あんたに話さなきゃならないから、今まで残ってたんだよ」


 管理人が溜息交じりに言うのを聞いて、思わず、達也は「済みません」と謝ってしまった。管理人のこの調子からして、そんなにいい話でないのは確かだろう。


「それで、お話しってなんですか?」

「ああ、ちょっとね、最近、瀬守さん、ゴミ、ちゃんと縛って捨ててないでしょう? 困るんだよね、ちゃんとしてくれないと……」


「え、もしかして、うちのゴミ、散らかってたりするんですか?」

 ゴミの収集は週二回。


 マンションの共同集積所に置くのかルールだ。回収前日の夜から、当日の朝までの間に出しておくのがルールだった。達也は、毎回、夜、シャワーを浴びる前にゴミ出しをしていたが……。


(おかしいな、ちゃんと、ゴミ袋の口を縛っていたと思うんだけど……)


「そうだよ、本当に、ひっくり返したみたいになってるから、こっちも毎回片付けるのが大変だったんだよ」

「そうだったんですね、済みません、次回から気を付けます」


「ええ、そうして下さいよ。もし、改善されなかったら、退去勧告出しますからね」

「えっ? ああ、済みません……」


 退去は、困る。引越は面倒だ。今から、どこかに家を探すというのも面倒くさい。とにかく、毎日面倒な事ばかりが増えて困る。しかし、今回のゴミの件は、全面的に、達也が悪そうなので気を付けなければならないだろう。


 管理人にはしっかり謝って、部屋に戻る。


 ゴミは、もし散らばったら迷惑だからと、口を固く縛っていたと思っていたが……まだ不十分だったのだろう。遅くに帰って、管理人に怒られるというのも、中々、凹む感じがしたが、とりあえず、軽く夕食を食べることにした。


 冷食のミールセットを通販で購入したモノがあるので、それを温める。味気ないような気にはなるが、それなりに美味しいのがありがたい。気に入って注文している冷凍ミールは、主食を用意する必要があるが、おかずはメインに副菜が二、三個付いている。なんとなく、管理人に怒られて気分が凹んでいたので、今日はスープも付けるとして、冷凍していたご飯を温め、冷食のミールを温め、味気ないので皿に盛り、フリーズドライのスープにお湯を注げば、それなりにちゃんとした一食ができあがる。肉メインで選択しているが副菜で野菜も取れるので、健康には良いような気もするし、コンビニ飯や外食よりは身体に良いような気がする。


 スマホで動画を流しながら、夕食を食べていると、LINEに着信が入った。


『達也さん、こんばんは。まだ起きてます?』


 凪だった。


 返信はしなかったが、既読が付いたので、寝ていないことだけは解っただろう。


『今日は、俺のほう、かなりあちこちでトラブル続きでした。会社の方のメールに、詳しい内容は入れておきましたが、明日の朝一に届くようにタイマーで送信かけてるので、リモートでアクセスしようとしても無駄ですよ』


 どういう言い分なんだか、とすこし笑った。


『大変だったんだ』


 俺も大変だった―――とかは書かないようにする。書くと痛い人のように思えるからだ。


『本当ですよ、大変でした。だから、すこし、達也さんの声が聞きたいんですけど、ダメですか?』


「えっ」と思わず声が出た。今、丁度食事中なんだよなあと思って、その通りにメッセージを返す。


『俺、今メシなんだけど』


『遅いですね。外食ですか?』


『家飯』


『ちなみに、今日のメニューは?』


『冷凍ミール。ポークジンジャーと付け合わせ三種類』


『へー、なんか美味しそうですね』


『興味があるならお友達紹介キャンペーンコード送るけど』


 送った方も送られた方も、キャンペーンコード使用で一割引されるクーポンが常時出ているのだ。


『あ、じゃあ、あとでお願いします。じゃあ……三十分後、電話します。ゆっくり食事してください』


 勝手に決めてしまう凪だったが、今日は、達也の方も、すこし、凹んでいるらしく、抵抗感が薄かった。


(まあ、どうせ、今からメシ食い終わったら、シャワー浴びて寝るだけだし……)

 その前に、少し、凪と会話するくらいの時間はある。


 三十分後、ということは、食事をして片付けて、歯を磨く時間くらいはある。


 ゆっくりとポークジンジャーを突いていると、不意に、管理人の言葉が脳裏を過った。



『ひっくり返したみたいになってるから、こっちも毎回片付けるのが大変だったんだよ』



 おかしいな、と達也は思った。

 今まで、収集日の前日夜に出していたこともあって、ゴミはしっかり縛って出していたはずだった。


「うちのゴミ……って解る感じだったって事だよな……」

 それはどういうことなのだろう。


 と思った時、一瞬嫌なことを考えた。

(誰かが、うちのゴミを漁っている……?)


 その可能性は、ゼロではない。

 だが、だとすると、一体何のために……。


「やめやめ……そう言うことは考えない。ただの嫌がらせかも知れないし。嫌がらせだったら、むしろ、そっちのがマシだって……」


 ただ、対策は考えなければならないというのは、よく、理解出来た。


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