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第35話

「お疲れさん。よくがんばったな。しばらく休憩にしよう」

「「はい……」」

「あーい……」

「長かったわね……」

「ん……」

 オレたちは、無事ダンジョンを脱出することに成功した。クロエたちはよほど疲れたのか、声に元気がない。ジゼルなんて、そのまま地面に座り込む始末だ。こりゃクロエたちの体力作りも課題だな。

 しかし、まだまだ各々いろいろな課題はあるものの、クロエたちの実力はオレの想像以上だった。今後の成長次第だが、次はレベル3のダンジョンの攻略に乗り出してもいいだろう。

「ほれ、水だ」

 オレは、【収納】から取り出した小さめの水差しとコップをクロエたちの真ん中に置く。

「ちゃんと水分補給して休んどけよ。休憩が終わったら、今度はキャンプの設営だ」

「うへー……」

 ジゼルの嫌そうな声を後ろに、オレはクロエたちから離れて深い森の中へ入っていく。このあたりでいいだろうか。慎重過ぎる気もするが、なにせ初めてのことだ。なにが起こるか分からんからな。

 オレは【収納】の中へと意識を向ける。注目するのは、2本の矢だ。

「まだ飛んでやがるな」

 イザベルを庇った際に、偶然【収納】の中に入ってしまったゴブリンアーチャーが放った2本の矢。矢を放ったゴブリンアーチャーを倒した後も、ダンジョンから出た後も、2本の矢はオレの【収納】の中に残り続けた。

 オレの【収納】の中に入れた物は、時間の流れが止まる。熱い物は熱いままだし、冷たい物は冷たいままだ。そして、2本の矢は推進力を少しも落とさずに【収納】の中に納まっている。

「これを出したらどうなるんだ……?」

 【収納】から出した矢は飛ぶのか、それともただ地面に落ちるのか。ダンジョンのモンスターのように煙となって消えるのか、残り続けるのか。

 オレは早速試すことにした。柄にもなく興奮していることが自分でも分かる。当たり前だ。今まで気が付けなかったギフトの新能力が明らかになるのだからな。

「アレにするか」

 もしかしたら飛ぶかもしれない矢を出すのだ。狙いを定めた方がいいだろう。オレは適当な木に右手を向けて、狙いをつける。そして、【収納】している矢を1本出してみると……。

 コンッ!

 子気味いい音を立てて、矢が狙いをつけていた木を穿つ。飛んだ!?

 予想はしていたとはいえ、まさか本当に矢が飛ぶとは……。この力はどう活用するのがいいか……。

 そんなことを考えていたら、ポフンッと白い煙となって消える。なるほど。まるで倒したダンジョンのモンスターのようだ。

「ふむ……」

 オレの【収納】のギフトは、飛び道具を勢いそのまま収納できるらしい。そして、【収納】から出せば、勢いそのまま飛ぶことが分かった。

 飛び道具ならなんでも【収納】にしまえるのだろうか? それが可能なら、オレは相手の飛び道具に対する対処法を得ることができるんだが……。この力は、飛び道具にのみ有効なのだろうか? 例えば、魔法なんかも【収納】可能なのか? それとも、この力はダンジョンのモンスターという特殊な存在のものだったから可能だったのか? 普通の飛び道具、例えば、オレがヘヴィークロスボウで撃ったボルトも勢いそのまま【収納】できるのか? 疑問は尽きない。次から次へと浮かんでくる。

「まぁ一つずつ検証していくしかねぇか」

 面倒な作業ではある。だが、オレの心はウキウキして止まらない。

 まだこの力がどんな能力なのか、ハッキリと分かったわけではない。もしかしたら、なんの役にも立たないゴミ能力かもしれない。だが、今よりできることが増えるのは確かだ。

『悔しいか? 悔しいよなぁ? コイツはお前の倍は物が入るぜ? しかも、給料も必要ねぇし、いちいちオレたちに指図しねぇ。完全にお前の上位互換だ。宝具とはいえ、タダの道具以下に成り下がった気分はどうだよぉ?』

 いつかのクロヴィスの嘲笑を思い出す。そうだ。今のオレはマジックバッグの下位互換でしかねぇ。だが、この能力次第では、オレはマジックバッグを超える存在になれる! そうすれば、もう捨てられることはない!

「我ながら、女々しいなぁ……」

 これまで考えないようにしてきたが、どうやらクロヴィスの言葉は思った以上にオレの心を傷つけたらしい。

「だが、それも今日までだ」

 オレは必ずこの新しい能力をモノにしてみせる!

「まずはこれから確認していくか」

 オレは【収納】の中から愛用のヘヴィークロスボウを取り出して構える。狙う先には、まるでそこだけきりとられたかのような、どこまでも深い黒い穴。【収納】の穴だ。

「頼むぞ……」

 オレは神に祈りながらゆっくりと引き金を引いていく。

 ブォン!!!

 お馴染みの重低音が響き渡り、ヘヴィークロスボウから特注して作らせた極太のボルトが射出された。

 どうだ? オレは急いで【収納】の中を確認すると、1本のボルトが凄まじい推進力を保ったまま収納されていることに気が付く。成功だ。やはり飛び道具の【収納】に成功した!

 これができれば……。

 オレの頭の中で無数の策が展開されていく。もしもこれらが実現可能ならば、オレは強大な戦闘力を獲得できるかもしれない……!

「ふぅー……」

 自分を落ち着けるために溜息を吐くと、オレは踵を返してクロエたちの居るダンジョンの入口へと向かうことにした。

「飛び道具は問題なく【収納】できた。じゃあ、魔法はどうだ? イザベルに頼んでみるか」

 もし、魔法も【収納】が可能ならば、オレは……。

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