会話が終わり、気まずい沈黙が流れる。それを破ったのはユモトだった。
「あ、あのー。他の勇者の方ってどんな方達なんでしょう?」
「そうだな……」
宙を見上げてアシノは答える。
「この国に現役の勇者は、私以外に3人居るんだが……」
「3人も居るんですか」
モモが言うとアシノは頷いて続けた。
「そうだ、1人は私の後輩みたいな奴で、マシっちゃマシだな。コイツは私の狙っていた魔人を最終的に倒したし、実力もある」
「なるほど……」
ユモトも病気でふせっていた為にあまり世間のことは詳しくない。
「もう1人は正義感の強い人だ」
「それは心強いですね」
「そして、1番問題なのはもう1人だ。コイツは勇者だが、目的のためなら手段を選ばない」
「何故そんな人が勇者になっているんですか?」
ユモトが疑問をぶつける。
「結果だけは出すんだよ。そりゃまぁ、この国の王には気に入られるだろうな」
「そういう事ですか……」
他の勇者達の事を聞いたムツヤ達だったが、正直不安しか残らなかった。
部屋にノックの音が響くと、アシノが頷いてムツヤは音の妨害魔法を解除する。
「どうぞ」
「失礼します!」
扉が開くと衛兵が3人立っていた。
「近衛兵長が勇者アシノ様とお仲間の皆様に魔人についてお話を聞きたいとの事ですので、恐れ入りますがご同行を願えませんでしょうか」
「わかりました」
どうせ部屋に居ても暇だしなとアシノは返事をする。
「はっ、ではご案内いたします」
衛兵に連れられて城の中を歩く。すれ違う兵士は皆慌ただしく走っていた。
「カミト様!! アシノ様をお連れいたしました!!」
大声で衛兵が叫ぶと扉が開く。その奥には先程王の近くに居た大剣を持つ男と、魔人ギュウドーに魔法攻撃を仕掛けた魔法使いの女が居た。
「アシノ様、お呼び立てしてしまい申し訳無い」
大剣を持つ男はその無骨な見た目に似合わず、礼儀正しく立ち上がって深々と頭を下げた。
「お久しぶりです、近衛兵長カミト殿」
どうやらカミトとはこの男の名前らしい。アシノと一緒にムツヤ達も頭を下げる。
「皆様お初にお目にかかります。私は近衛兵長のカミトと申します。こちらはイズミです」
イズミと呼ばれた魔法使いは頭を下げた。
「どうぞおかけください」
アシノ達は上座へと案内され、カミト達と対面する形で座る。
「さて、無礼ですが率直にお聞かせ願えませんか、あの魔人の事を」
「私達も話せることは少ないと思いますが、わかりました」
そうしてアシノ達はイタガの街であったことを思い出しながら話し始めた。
「私達はキエーウを追うためにイタガの街へ滞在していました」
目を閉じて思い出すとアシノは語りだす。
「そこで人々が山賊に襲われるという話を聞き、討伐に向かったのですが。そこに居たのはトロールの群れでした」
近衛兵長カミトと魔法使いのイズミは、アシノの言葉一字一句を聞き逃すまいと真剣な眼差しで話を聞く。
「そのトロールは先程の魔人ギュウドーが操るもので、突如その場に現れたギュウドーは我々に宣戦布告をしました」
アシノはそこで区切って、続けて言う。
「明日トロールの群れで街を襲うと。ちょうど今、この時の様に」
「なるほど……」
イズミはあの魔人のことを思い出しながら言った。
「そして、治安維持部隊と冒険者ギルドの皆さんの協力もあり、なんとか退けることができました」
「私達が治安維持部隊から受けた報告とほぼ同じですね」
カミトがそう話すと、アシノは頷く。
「えぇ、治安維持部隊には全てをお話したので、申し訳ありませんが、改めて私からお教えすることの出来る情報は無いかと思われます」
「左様ですか……。1つどうしてもお聞きしたい事があるのですが」
「何でしょうか?」
アシノとルーは直感的に嫌な予感がした。
「治安維持部隊からの報告と、冒険者での噂になっている通称『青い鎧の冒険者』をご存知でしょうか?」
「えぇ、私達も彼…… いや、彼女…… どちらかすら分かりませんが、正体を知りたいと思っています」
カミトの言葉による動揺を悟られないようにアシノは会話をする。
「青い鎧の冒険者が居なければ、正直あの戦いは厳しいものでした」
「やはり、相当な実力者だったのですか?」
「そうですね、見る限りでは。ですが」
ふぅーっとカミトはため息をついて頭をかいた。
「勇者の皆様が居れば充分に心強いのですが、戦力は大いに越したことはありません。素性が分かれば協力を要請したいのですがね……」
「私も同じ気持ちです」
あくまでしらを切るアシノはカミトにそう返した。
「お時間を頂いて申し訳ありません。アシノ様達も今は休み、体力を温存して下さい。我々も城の警備へと戻ります」
「承知しました。ご武運を」
アシノは立ち上がり、それを見てムツヤ達も席を立つ。
そして、先程居た部屋へと戻る。
「あの、本当の事を言った方が良いんじゃないですか?」
部屋に戻るなりムツヤが言った。皆がムツヤの方を振り返る。
「それだけはダメだ。やるとしても本当に最後の最後の手段だ」
ふぅーっと息を吐いた後アシノは続けた。
「確かにお前の力と道具があれば戦局は有利に進むだろうが、王の目に止まればお前も道具も戦争の手段になる」
アシノにまた同じことを言われてムツヤは下を向く。
「ムツヤっちには多分また『青い鎧の冒険者』になって暴れてもらうことになるわ。その時にも正体がバレることだけは絶対に避けてね」
「はい……」
「まぁ、そう難しく考えんな。お前が本気で走り去るだけで、誰も追いつけるやつなんざ居ないからな」
その後は夕食の時間までそれぞれ道具の手入れをしたり、ウトウト仮眠をしたり、取り留めもない話をしたりして時間を潰した。
こんな非常事態だと言うのに夕食は豪華だ。食堂ではなく部屋で食べることにはなったが、流石は城と言ったところか。
「さぁ、考えてても仕方ないし寝るわよー」
「そうですね」
ルーがあくびをして言うとユモトが相槌を打つ。今日も1日色んな事があって疲れていた。
「私達着替えたいからムツヤっちとユモトちゃんは部屋の外に出ててねー。まぁどうしても出たくないってんなら出なくても良いけど?」
「ルー殿!?」
「冗談よ冗談」