「俺だけじゃない、皆も逃してあげたいんだ」
ナツヤが言うとフユミトは頷く。
「わかった、部屋まで戻ろう」
2人が部屋に戻ると皆起きてざわついていた。
「皆!! ここから逃げられるぞ!!」
ナツヤが言うと、1人の鉱夫が聞いた。
「お前、何やったんだ!?」
「現場監督と護衛は死んだ!!」
聞いた鉱夫は驚いて目を丸くする。そして、その言葉に更にざわつく部屋。
「お、お前が殺したのか!?」
「違う、いや、そうかもしれないけど……」
「僕が説明しようか?」
フユミトの助け舟にナツヤは乗った。フユミトは照明魔法を使い、部屋を明るくしてから説明を始める。
「そ、そんな話信じられるか!!」
説明が終わると1人の鉱夫がそう言った。
「外に行けば分かりますよ」
フユミトの言葉に部屋が静まり返る。
「そ、それに逃げるったって、どこにだ!? 俺みたいなのがどこで何をして生きていけば良いんだ!?」
鉱夫達の心にあったのは、自由になれるという甘い誘惑と、ここから逃げ出したとして生きていけるのかといった不安だ。
「皆さん。ここの鉱脈を支配している貴族が憎くありませんか?」
フユミトが喋る度に部屋が静かになる。
「貴族を襲撃して、今まで奪われた分を奪い返すのです。ナツヤの力があればそれが出来る」
全員を見渡してフユミトは続けて言った。
「金品を奪ったら、他の国にでも逃げて、そこで暮せば良い。このまま鉱脈で死ぬまで生きるか、可能性に賭けるか、どちらか選んで下さい」
しばらく沈黙が続いた後、オークの鉱夫が立ち上がった。
「俺は!! 俺は行く!! こんな惨めな人生は価値がない!!」
「俺も、もうこんな場所懲りごりだ!!」
「俺だって、騙されてここに来たんだ!!」
次々と立ち上がる鉱夫達。それを見てナツヤにも熱い感情が湧き上がる。
そうだ、俺達は奪われたんだ、金も時間も、人生も尊厳も、それらを奪い返す。
「僕達は外に行きます。付いていきたい人は付いてきて下さい」
フユミトが外に出ると、ナツヤも続いて出ていった。その後を1人、また1人と付いていく。
結局、部屋に居たほぼ全員が付いてきた。そして外に出ると魔物達と黒い鎧の騎士を見て驚く者、腰を抜かす者が居た。
「彼らは仲間です。危害を加えてきません」
フユミトの話を信じていなかった訳では無いが、実際に目にすると恐怖が出てくる鉱夫達。
「騎士さん……。そう言えば名前を聞いてなかった、名前は?」
ナツヤが尋ねると、騎士は言う。
「我々魔物には名がありません。人間は私のことをデュラハンと呼んでいるそうですが」
聞いたことがある。首と胴体が繋がっていない騎士だ。そう言われるとナツヤは納得した。
「デュラハン、俺達をここから連れ出してくれ!!」
「かしこまりました!」
デュラハンは馬を
「ナツヤ様。それでは他の方々が乗る魔物の馬車をお出し下さい」
「それは、どうやって?」
「杖を握り、願えば良いのです」
言われるがままナツヤは杖を握り馬を想像した。すると、杖が光り、馬車が何体も現れる。
「流石はナツヤ様です」
本当に自分がやったのかと、今だナツヤは信じきれていない。
「それで、どちらまで行かれますか?」
ナツヤにデュラハンは尋ねる。
しかし、何処までと言われても何も思い浮かばなかった。外の世界なんて十数年知らない。
「ナツヤ、貴族の城だよ。ここから南西にずっと行くんだ」
フユミトに言われてハッとした。そうだ、自分達は貴族の城を襲うんだ。
「そうだった。デュラハン、南西の貴族の城へ!!」
「はっ!! 私が先導いたします!!」
ナツヤとフユミトが馬車に乗ると、恐る恐るだが、付いてきた皆も乗りだした。
「それでは行きます」
デュラハンが南西に向かって高く剣を掲げる。
「進めー!!!」
ガラガラと馬車が揺れ、憎き労働部屋から遠ざかっていく様を窓から見てナツヤは心臓がバクバクとしていた。
心地よい風が頬をかすめる。
貴族の城が見えるぐらいの距離になり、デュラハンは隊列を止める。
「敵陣が目前です。ナツヤ様、魔物の召喚をお願い致します」
山の中から、あの遠くに見える立派な建物。あの中に自分達を奴隷のように扱った者が居る。
ナツヤは憎しみから杖を強く握った。そして、強い魔物と想像する。
一匹、また一匹と魔物が生み出され始めた。
「こんなにも早く杖をお使いこなすとは、流石はナツヤ様。感服いたしました」
デュラハンに褒められ、今まで誰にも褒められたことなんて無いナツヤは、少しだけむず痒く照れる。
見るからに強そうな魔物達がデュラハンを先頭にして隊列を組む。
「そろそろ、よろしいかと」
そう言われ、ナツヤは召喚を辞めた。
「ではナツヤ様。ご命令をどうぞ」
「あの城を……。貴族を殺せ!!」
「はっ!!」
弾かれたように魔物の軍勢が山を下っていった。