ムツヤ達がレイード地方へ向かう数日間の間、魔物を召喚し、操る杖を手にしたナツヤ達は激動の時間を過ごすこととなった。
別の鉱脈で強制的に働かされていた鉱夫達も開放し、何人かはナツヤ達の組織『黎明の呼び手』に加わる。
「さて、これからどうしよう」
フユミトが言うと、ナツヤは答えた。
「決まってる。弱い立場の人々を解放して、最終的に国を、優しい国に変える」
「いいね、ナツヤ。でも、その為にはもっと仲間を集めなくちゃいけない」
確かにそうだとナツヤは思う。
「ここから近い貧しい街へ行ってみようか。賛同者が現れるかもしれないよ」
「わかった」
魔物に引かせた荷車に乗り、ナツヤ達はその街へとやって来た。
大勢の魔物の襲来により街はパニックになったが、ナツヤは大声で話す。
「皆さん、心配いりません!! この魔物は俺達の仲間です!!」
そして荷車から取り出した金や金目の物を地面に広げた。
「こちらを差し上げますので、どうかお話を聞いて下さい」
置かれた財宝に何人かの住民は目が眩んだ。そして、人が集まりだす。
「僕達は、貴族の城を襲い、この財宝を奪いました」
フユミトもナツヤと同じく大声で話した。
「こちらのナツヤは、選ばれた者です。この魔物達を操ることが出来ます」
いつの間にか人々が数十人も集まり、話を聞いている。フユミトはそれらを眺めて言う。
「皆さん、生活に不満はありませんか? 金持ちが憎くはありませんか?」
「我々は『黎明の呼び手』というレジスタンスです。生活を、人生を変えたくありませんか?」
次にナツヤがたたみ掛ける。
「俺達と一緒に国を変えたい人が居たら着いてきて下さい。俺達は明日の朝までここに留まります」
そこまで言って、ナツヤは続けた。
「仲間に加わるのが恐い方は、俺達の組織『黎明の呼び手』の事を広めるだけでも良いです! 一緒に国を変えましょう!!」
演説に拍手は起こらなかった。だが何人かの心には突き刺さったらしい。
「お疲れ様、ナツヤ」
フユミトは笑顔でナツヤを
「あの、アンタ達ちょっと良いか?」
若者が数十人集まってきた。
「俺達は、俺達はこんな生活もう、うんざりだ。アンタ達と一緒に、このチャンスに賭けてみたい」
「俺も、もう限界だ!!」
俺も俺もと声が上がる。ナツヤは仲間が増えた事に胸が満たされた。
「はい!! 一緒に革命を起こしましょう!!」
ナツヤ達は、貴族や大金持ちの家を襲い、仲間を増やしを繰り返していた。
半ば暴徒と化した『黎明の呼び手』の勢いは止まらずにいる。噂が広まり、数日の内に百人規模の組織へと変貌した。
「ずいぶん人が沢山になったね」
「あぁ、そうだね」
虐げられた人々、亜人は皆、楽しそうに笑いながら酒を飲んでいる。そんな夜、彼らの元へ遠くから松明を持った行列が近づく。
「ナツヤさん、やべぇよ!! 軍隊が来た!!」
仲間の一人が血相を変えてナツヤの元へと走ってきた。その報告にナツヤは一瞬ゾッとしたが、フユミトは落ち着いて言う。
「来たね」
軍隊に向かって走るフユミト、その後ろをナツヤも追った。
向かってくる軍隊の先頭まで行くと、拡声魔法を使った軍隊長が叫んだ。
「抵抗をするな!! 抵抗すれば殺す!! 首謀者を出せ!!」
ナツヤは恐怖を感じていた。そんな肩にフユミトが手を置く。
「大丈夫だよ、魔物達を召喚しよう」
「あ、あぁ!!」
ナツヤは杖を握り締めて魔物達を召喚した。ありったけ強い奴と祈りを込めて。
「ナツヤ様!! お下がり下さい」
デュラハンが出てくると、軍隊を睨んでそう言った。
次々と現れる魔物達、軍隊がそれらを照明弾の魔法で照らす。
「あいつは……、やはり魔人なのか!?」
魔物を従えるナツヤを見て、軍隊長は言った。
「もっと、もっとだ!!」
ナツヤは目を見開いて杖に念じる。すると、上空でバサッバサと羽ばたく音が聞こえた。
「なっ!!」
兵隊は思わず声を上げて、動揺が広がる。巨大な翼竜が現れたのだ。
「流石はナツヤ様です!! 皆、進めー!!!」
デュラハンを切り込み隊長として大勢の魔物が列を成して突撃する。翼竜も空を羽ばたき、軍隊へと向かっていった。
「怯むなー!! 行くぞー!!!」
軍隊長はそう言ったものの、軍隊の士気は最悪だ。ただの盗賊団の討伐と聞いていたのに、竜まで出てくるとは。
デュラハンが軍隊へ突っ込み、次々と兵士を斬り捨てていく。魔物達も一匹一匹は弱いが、次から次へとやって来るので兵士は苦戦している。
「く、来るなー!! あああああぁぁぁぁぁー!!!!」
一人の兵士が魔物に食い殺された。その上から翼竜が炎を吐いて急降下してくる。
「くそっ、何なんだこれはっ」
言いかけた軍隊長はデュラハンに首を刎ねられ、言葉を紡ぐとこが出来なかった。
いよいよ軍隊長がやられ、兵士たちは散り散りに逃げ出した。だが、腹の空いた魔物達はそれを許さない。
「ぐああああ!!!」
「来るなああああ!!!」
あちらこちらで兵士たちの断末魔が聞こえる。その光景を見てフユミトが言う。
「すごいね、軍隊もこのざまだよ」
大きな力を手にしたことを改めて実感したナツヤ。今なら自分は何でも出来る気がしていた。