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黎明の呼び手

黎明の呼び手 1

「はい、私どもは人生に、社会に、世界に不満を持っております。全てを壊したいという思いがあります」


 膝を着き、頭を下げる三人の男女にミシロは声を投げた。


「どうして? どうして壊したいの?」


 そう尋ねられると、一人の女が頭を上げて返事をする。その顔にはおびただしい傷跡があった。


「恐れながら、私は両親に捨てられ、身を売られました。そのゆく先々で痛めつけられ、尊厳を踏みにじられました。そんな世の中に、人間に、復讐がしたいのです」


「そう……」


 ミシロは興味があるのか無いのか、短く返すだけだった。


「辛いなら、私が今ここであなた達の人生を終わらせてあげようか?」


 魔剣ジャビガワを引き抜き、ミシロは言う。


「魔人様の糧になるならば、命など要りません」


 三人は微動だにしない。それを見てミシロは剣をしまった。


「分かった。でもね、私も世界の壊し方を知らないの」


 そうだ、ミシロも世界をメチャクチャにしたいという気持ちがあったが、そのやり方を知らない。


 すると、男が話し始める。


「まずは、この国の軍隊と勇者を殺し、絶望を与えてはいかがでしょう? この国が終われば、次は他国に、世界中に絶望と混沌を」


 その話を聞いてミシロは無邪気な笑顔を見せた。


「良いね、それ。やっと、やらなくちゃいけないことが分かったよ」


 そのままくるりと一回転して夜空を見上げる。


「私はね、この世界が嫌い。大嫌い。壊したい」


「その思い、我らも同じでございます」


「まずどうしようか、勇者の首でも刎ねに行こうか?」


 フフッと笑うミシロ、だが、男は待ったをかけた。


「ミシロ様。ミシロ様のお力を信じていない訳ではありませんが、勇者は強い力を持っています」


「それじゃどうする?」


 そう聞かれ、男は話を続ける。


「まずはラメル様の残した武具を集めるのが良いかと。そして『黎明の呼び手』も力を付け、共に戦います」


「ラメル様の……」


 ミシロは思い出していた。ラメルから預けられたカバンを守れなかった自分を。


「そうね、今度こそ私はラメル様との約束を果たす」


 両手をばっと広げてミシロは深呼吸する。何だか今日は気分が良い。


 偽物勇者、ジョンと出会ってから二週間が経った。


 ムツヤ達は裏の道具を順調に集めている。そして今日も赤い玉を使った勇者たちの談合が始まった。


 そこで、勇者イタヤから気になる情報が入る。


「そういえば、最近『黎明の呼び手』を名乗ってる連中が、冒険者が拾った裏の道具を横取りしてるって噂がありますね」


 それを聞いて元勇者のトチノハも話す。


「その噂、確かに聞き及んでいます」


「黎明の呼び手ですか……」


 魔人と化したナツヤが作った集団は、元は革命軍のような物だったが、形を変え魔人を崇拝する者達の総称になり始めていた。


「一刻も早く裏の道具を回収せねばなりませんね」


 アシノが言うと皆が頷く。




 話し合いが終わり、寝るかと思った頃。ギルスから連絡が入った。


「皆、夜遅くにすまない。遠い場所だが、動く裏の道具の反応が複数あった」


 アシノがその報告に言葉を返す。


「動く裏の道具、冒険者が見つけて所持している可能性は?」


「いや、近くの冒険者ギルドへ向かっている感じではないね。黎明の呼び手かもしれない」


「まずい事になったな……」


 アシノが考え事をしている横でルーが騒いでいた。


「もー!! せっかく休もうとしてたのにー!!!」


「仕方がないな。その反応の元へと向かうか」


「やー!!!」


 アシノが言うとルーは駄々をこねる。


「ムツヤ、悪いが先に行って偵察してきてくれ」


「わがりまじだ!!」


 風のようにムツヤが飛び出し、アシノ達は馬車に乗ってその後を追った。




 ムツヤは探知盤を取り出して、その反応へと向かう。千里眼で見える距離まで詰めると、相手を観察した。


「アシノさん、見つけました!!」


 連絡石でムツヤはアシノと話す。


「どんな奴だ?」


「黒いフードを被った人達です!! 数十人は居ます!!」


「冒険者……、ではなさそうだな。ムツヤ、充分に注意しながら戦ってみてくれ」


「わがりまじだ!!」


 ムツヤは一気にその集団へと突っ込んだ。

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