「はい、私どもは人生に、社会に、世界に不満を持っております。全てを壊したいという思いがあります」
膝を着き、頭を下げる三人の男女にミシロは声を投げた。
「どうして? どうして壊したいの?」
そう尋ねられると、一人の女が頭を上げて返事をする。その顔にはおびただしい傷跡があった。
「恐れながら、私は両親に捨てられ、身を売られました。そのゆく先々で痛めつけられ、尊厳を踏みにじられました。そんな世の中に、人間に、復讐がしたいのです」
「そう……」
ミシロは興味があるのか無いのか、短く返すだけだった。
「辛いなら、私が今ここであなた達の人生を終わらせてあげようか?」
魔剣ジャビガワを引き抜き、ミシロは言う。
「魔人様の糧になるならば、命など要りません」
三人は微動だにしない。それを見てミシロは剣をしまった。
「分かった。でもね、私も世界の壊し方を知らないの」
そうだ、ミシロも世界をメチャクチャにしたいという気持ちがあったが、そのやり方を知らない。
すると、男が話し始める。
「まずは、この国の軍隊と勇者を殺し、絶望を与えてはいかがでしょう? この国が終われば、次は他国に、世界中に絶望と混沌を」
その話を聞いてミシロは無邪気な笑顔を見せた。
「良いね、それ。やっと、やらなくちゃいけないことが分かったよ」
そのままくるりと一回転して夜空を見上げる。
「私はね、この世界が嫌い。大嫌い。壊したい」
「その思い、我らも同じでございます」
「まずどうしようか、勇者の首でも刎ねに行こうか?」
フフッと笑うミシロ、だが、男は待ったをかけた。
「ミシロ様。ミシロ様のお力を信じていない訳ではありませんが、勇者は強い力を持っています」
「それじゃどうする?」
そう聞かれ、男は話を続ける。
「まずはラメル様の残した武具を集めるのが良いかと。そして『黎明の呼び手』も力を付け、共に戦います」
「ラメル様の……」
ミシロは思い出していた。ラメルから預けられたカバンを守れなかった自分を。
「そうね、今度こそ私はラメル様との約束を果たす」
両手をばっと広げてミシロは深呼吸する。何だか今日は気分が良い。
偽物勇者、ジョンと出会ってから二週間が経った。
ムツヤ達は裏の道具を順調に集めている。そして今日も赤い玉を使った勇者たちの談合が始まった。
そこで、勇者イタヤから気になる情報が入る。
「そういえば、最近『黎明の呼び手』を名乗ってる連中が、冒険者が拾った裏の道具を横取りしてるって噂がありますね」
それを聞いて元勇者のトチノハも話す。
「その噂、確かに聞き及んでいます」
「黎明の呼び手ですか……」
魔人と化したナツヤが作った集団は、元は革命軍のような物だったが、形を変え魔人を崇拝する者達の総称になり始めていた。
「一刻も早く裏の道具を回収せねばなりませんね」
アシノが言うと皆が頷く。
話し合いが終わり、寝るかと思った頃。ギルスから連絡が入った。
「皆、夜遅くにすまない。遠い場所だが、動く裏の道具の反応が複数あった」
アシノがその報告に言葉を返す。
「動く裏の道具、冒険者が見つけて所持している可能性は?」
「いや、近くの冒険者ギルドへ向かっている感じではないね。黎明の呼び手かもしれない」
「まずい事になったな……」
アシノが考え事をしている横でルーが騒いでいた。
「もー!! せっかく休もうとしてたのにー!!!」
「仕方がないな。その反応の元へと向かうか」
「やー!!!」
アシノが言うとルーは駄々をこねる。
「ムツヤ、悪いが先に行って偵察してきてくれ」
「わがりまじだ!!」
風のようにムツヤが飛び出し、アシノ達は馬車に乗ってその後を追った。
ムツヤは探知盤を取り出して、その反応へと向かう。千里眼で見える距離まで詰めると、相手を観察した。
「アシノさん、見つけました!!」
連絡石でムツヤはアシノと話す。
「どんな奴だ?」
「黒いフードを被った人達です!! 数十人は居ます!!」
「冒険者……、ではなさそうだな。ムツヤ、充分に注意しながら戦ってみてくれ」
「わがりまじだ!!」
ムツヤは一気にその集団へと突っ込んだ。