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黎明の呼び手 3

 空には背中から羽を生やした少女。魔人と化したミシロが飛んでいた。


 彼女はムツヤを見た瞬間恐ろしい形相に変わる。


「お前は……、ラメル様の仇!!!」


 次の瞬間、ミシロは魔剣ジャビガワを構え、急降下してムツヤを狙う。


 魔剣同士がぶつかり合い、ガキンという音の後に白い湯気がブワッと周りを包む。


 そこからは乱戦だった。ムツヤは何度も飛んでくるミシロの攻撃を避けながら、周りの死霊達も斬る。


 アシノ達も加勢し、次々に死霊を倒していった。


 ミシロの実力は相当な物だったが、ムツヤの方が一枚上手だ。


 飛びかかる彼女に、カウンターで斬撃を当てた。ミシロの腹からは業火が溢れ、確実にダメージを与えている。


「ミシロ様!! ここは私に任せ、お引き下さい!!」


 男が叫ぶも、ミシロは一向に逃げることをしない。そして、叫ぶ。


「ラメル様の仇を逃がせっていうの?」


「違います!! ミシロ様にはもっと力を付け、勇者を倒して頂きたいのです!!」


 ミシロは本能的に分かっていた。眼前にいる仇は、今戦っても勝てないと。


「っく」


 唇を噛み締めながらミシロは飛び去っていった。


「待て!!」


 ムツヤが上空に跳んで行くものの、空を自由に飛べない為、無駄に終わった。


「お前等の相手はこの俺だー!!」


 死霊の軍勢が雪崩のようにやって来る。次々に倒し、裏の道具を持つ者とムツヤは対峙した。


 斧と槍の連撃を受け流し、真っ二つに斬る。業火が死霊を浄化していった。


「ぐっ、クソっ!!」


 死霊を殆ど倒されてしまった男は、やけくそ気味に短剣を引き抜いてムツヤに突っ込むが、いとも簡単に殴られ終わってしまう。


「まだ奥の手が残ってるぜ、奥の手がな」


「負け惜しみはやめろ」


 アシノが言った次の瞬間。男は短剣を自分の心臓めがけて突き刺した。ムツヤは混乱する。


「なっ!?」


「俺が、死霊になる事だ」


 男から黒い煙が溢れ出す。先ほどとは比べ物にならない殺気にムツヤは距離を取る。


「うがあああああああ!!!」


 死霊と化した男は、短剣を持ち、ムツヤに襲いかかる。


 ムツヤのもとに死霊達が一斉攻撃と言わんばかりになだれ込んで来た。


 魔剣ムゲンジゴクを横に構え、業火を吹かせ一気に回転をする。


 次々と灰になる死霊達。仲間の援護もあり、数は一気に減った。


 最後に死霊を操っていた男が襲ってくる。ムツヤはいとも簡単に首を刎ねた。


 だが、男は首がみるみるうちに再生していく。


「ムツヤ!! 細かく刻んじまえ!!」


 アシノに言われ、ムツヤは縦に横に連撃を放つ。


 そして、やっと再生は終わる。アシノ達はムツヤへと駆け寄った。


「終わったな……」


 アシノが呟くとルーは怒りに震えている。


「村の人達を殺した上に、死者を冒涜する死霊術まで使うなんて……」


「悲しんでいても仕方がない。治安維持部隊に連絡して埋葬してもらおう」


 そう言ってアシノは目の前に転がる死体達に手を合わせた。


 その日はやる事ができ、そもそも眠りにつく感情では無かったので、夜通し馬車で移動して、近くの街まで向かう。


 アシノが事情を説明すると、すぐに治安維持部隊は応援を呼んで現場まで向かっていったらしい。




 ミシロは悔し涙を流しながら空を飛んでいた。自分はあまりにも無力だ。


 もっと強ければ、もっと力があれば、ラメル様の仇を取れたのにと。


 強くならなければ、ラメル様みたいに、もっともっと。




「あぁ、ルクコエ様!! どうか、どうか死をお与え下さい!!」


 男は全財産を持ち、ルクコエと呼ばれた女は優しい笑顔を向ける。


「えぇ、良いでしょう。全ての苦しみから解放され、眠りに付きなさい」


 ルクコエは杖を持ち、それでそっと男に触れた。


 瞬間、男はガクリと力を失い、地面へ倒れる。


「あぁ、今日も迷える者達を導くことができました」


 ルクコエは恍惚とした表情で、満足そうだった。

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