「ううぅ……、寒いー」
ルーは厚着をし、帽子もいつもの三角帽ではなく、毛糸の帽子を被っていた。
「裏の道具の反応はここから北にあります」
ユモトはそう言って歩き始め、その後をムツヤ達も付いていく。
途中の魔物はムツヤが適当に蹴り飛ばし、反応まであと僅かと言った距離になる。
そこでムツヤ達は、目の前の光景を見てとっさに身を隠した。
「誰かいますね」
モモが白い息を吐きながら小声で言う。
「黎明の呼び手の連中かもしれないな。ムツヤ、声を集める魔法だ」
「わがりまじだ!!」
ムツヤの魔法によって皆がいる場所に会話が流れ出す。
「こちらが、ルクコエ様です」
「あぁ、あなた様が……」
ルクコエと呼ばれる者がリーダー格かとアシノは推測を立てる。
「えぇ、そうです」
「お願いします。私に永久の安息をお与え下さい!!」
「良いでしょう。辛かったでしょうね。今、楽になりますからね」
次の瞬間、ムツヤがハッと驚く。
「人の気配が……、1つ減りまじだ」
「なっ!!」
アシノはこの会話とムツヤの言葉で察する。
「このルクコエって奴。目的は不明だが、人殺しだな」
「えぇ、そうみたいね」
ルーも同じ考えをしていた。それを聞いてムツヤが飛び出でようとする。
「待てムツヤ!! まだ相手の能力がわからない!!」
「でも、人殺しはダメです!! 止めないと!!」
「そうだが、今は待て!!」
ムツヤは悔しそうな顔をしてアシノの言葉に従った。
「ムツヤ、相手の生命を奪う裏の道具はあったか?」
「人に使ったことはないでずが、魔物相手にだったらありまずけど……」
歯切れが悪そうにムツヤは続ける。
「沢山ありすぎで、わがりまぜん」
「そうか……、まぁそうだよな……」
アシノは腕を組んで言う。また洞窟からの会話が流れた。
「ルクコエ様!! 私も、私もこんな辛い人生は散々です!! どうか死をお与え下さい!!」
「えぇ、わかりました。安らかなる死を……」
また人の気配が消える。
「死んでいく奴ら……、自分から望んでいるのか?」
「わからないわ、心を操られているかもしれないし……」
悩む暇も無く、次の者が名乗りを上げた。
「お、俺も!! 俺もお願いします!!」
「このままじゃ犠牲者が増え続けるな」
アシノの言葉にムツヤは居ても立っても居られなくなる。
「俺が、俺が止めに行きまず!!」
「待て、ムツヤ!!」
アシノの静止も聞かずにムツヤは飛び出す。そんな彼を仲間達も追う。
「お前!! 今すぐやめろ!!」
ムツヤがそう叫ぶが、目の前の人間はガクリと倒れ、絶命する。
「くそっ!! 何が目的なんだ!!」
「あなた達は……。勇者アシノ?」
ルクコエと呼ばれていた女性は長い黒髪に白いローブを身に纏っていた。
黎明の呼び手のメンバー達は武器を構え、ムツヤ達と対峙する。
「私は死を望む者達に死を与えているだけです」
「そんな事!! 許されるわけがないだろ!!」
ムツヤは怒りをあらわにして言う。
「何故ですか?」
ルクコエは冷たい顔をして問いかけた。
「人を殺して言い訳がない!!」
「この者達は自ら死を望みました。私はその手伝いをしただけです」
その言葉にムツヤは勢いで返す。
「だからっで、だからっで、そんなのはダメだ!!」
「何故、ダメなのですか?」
「それは……」
ムツヤは言葉に詰まってしまった。その間もルクコエは続けた。
「悪いのは私ではありません。この者達が死にたいと思うこの世界です」
それを聞いてルーが言う。
「それで本当に殺しちゃうのはあなたのエゴよ」
ルクコエはフッと笑って言葉を返した。
「死にたいものを無理に生かす方が残酷ではありませんか?」
シンと静まり返った中でムツヤが叫ぶ。
「それでも、それでも、ダメだ!! 俺が許さない!!」
「お話になりませんね。そんな感情論こそ本当のエゴです」
そう言うと同時に黎明の呼び手のメンバーがアシノ達に襲いかかる。
ムツヤが圧倒的な力で一人ひとり倒し、吐かれた血で白い雪が赤く染まった。
仲間達の出る幕は無く、ルクコエを睨み続けるだけだ。
黎明の呼び手を蹴散らした後にムツヤがルクコエを見て言った。
「降参しろ!! 後はお前だけだ!!」
「しませんよ?」
ルクコエがニコリと笑い、杖を掲げる。すると喪服に身を包んだ半透明な女性が現れた。
それはムツヤに向かって一直線にやって来る。
「まずい!! ムツヤ避けろ!!」
アシノに言われた通り、ムツヤはそれを飛び退いて避けた。
「あなた達にも死をお与えしましょう」