ムツヤ達は目的地であるモミジという街の前にたどり着いた。
「うー、寒い寒い……」
ルーは手に息を吹きかけてブルブルと震える。
「ここで待機だな」
アシノは言ってから赤い玉を木にぶつけた。
「はいはい、こちらギルス」
「ギルス。目的の街に着いた。裏の道具の反応があったらすぐに教えてくれ」
「了解」
そんな報告を終えると、急いでテントを立て始めた。
ムツヤの持つ家が飛び出る本を使いたかったが、街から近いので万が一にも目撃されるとまずいので使用できない。
「テントヨシッ! 早く中に入るわよ!!」
今回は男女別ではなく、皆で一つの大きなテントに入る。ルーは一目散にその中へと入っていった。
「何この中!! 暖かいじゃない!!」
そこは流石に裏の道具のテントと言うべきなのだろうか、寒い外気を遮断し、中はほんのりと暖かい。
「本当だ、暖かい……」
ユモトも思わずそう呟く。
「ムツヤっちスープ出してスープ!!」
「わがりまじだ!」
ムツヤのカバンからユモトが作っておいたコンソメスープが出てくる。皆はそれを手に取ると、飲み始めた。
「あぁー、生き返るわー!!!」
鶏肉と根菜類。隠し味のしょうがが体を温めてくれる。
「ほんと、ホッとしますね」
思わずモモもそう言った。体が温まると、皆を眠気が襲う。
「あー、眠くなってきちゃったわ……」
「僕もです。すみません……」
ルーとユモトはうつらうつらとし始めていた。
「裏の道具の反応はギルスが見ていてくれる。襲撃があるまで気を抜きすぎない程度にしておけ」
いつの間にかモモとユモトは眠ってしまった。ルーも大の字になって爆睡している。
ムツヤはヨーリィの手を握り、魔力を送っていた。アシノは毛布を
そろそろ夜明けが近い、動きがないかと思った時だ。
「こちらギルス!! 裏の道具が物凄い速さでそちらに向かっている!!」
「来たか」
アシノはワインボトルを手に持って立ち上がった。
「お前ら起きろ」
アシノは皆を起こして回る。ルーでさえも一気に眠気が吹き飛び、立ち上がった。
「来たのかしら?」
「あぁ、私達は外に出るぞ。ムツヤ、鎧に着替えて準備だ」
「わがりまじだ!!」
テントの外へ出ると、思わず寒さで身が震える。
「うー……。真っ暗だし寒い」
ルーはそんな事を言っていた。モモやユモトも同じ気持ちだ。ムツヤは着替えを終えるとテントから出てくる。
「それじゃ、杖とカバンを」
カバンをヨーリィに、四方を囲むと人間を眠らせる杖をその他の皆に渡すと、ムツヤは空を見上げた。
「気配を感じるか?」
「そうでずね」
アシノは無言で頷いて言葉を出す。
「それじゃお前達、やるぞ!!」
それぞれ返事をして配置場所へ向かう。ムツヤはミシロの気配を感じた方角へ走った。
ふわりふわりと雪が舞う中で、ムツヤは暗闇に一人立っている。
「ふーん、ちゃんと来たんだ」
空から声が聞こえた。見間違えようもない、魔人と化した少女ミシロだ。
「カバン持ってたら先に街の人全部殺すから」
ミシロはそう言ってムツヤを観察する。どうやらカバンを持っていない様だ。
「ふふっ、持ってないみたいだね。それじゃ正々堂々……」
剣を抜きながら急降下。
「殺し合おうか!!!」
ガキイィンと魔剣同士がぶつかり合う。そのまま弾かれてムツヤとミシロは距離を取った。
「ははは!!」
高く笑いながらミシロは地面に剣を突き刺す。水の柱が刃となってムツヤへと襲いかかった。
ムツヤは軽やかなステップでそれらを避けると、ミシロに向かって雷の矢を放つ。
「無駄だよ!!」
防御壁を展開して弾き、宙を飛びながらムツヤ目掛けて一直線に迫る。
一般人であれば、目で追うことも出来ないスピードで剣がぶつかり合う。
ミシロは力を溜め、ムツヤ目掛けて上から重い一撃を振り下ろした。
魔剣を斜めに構えて受け止めるムツヤ。剣は受け止められたが、そこから水が吹き出してすり抜けるように攻撃を浴びせた。
間一髪の所で身をよじって躱し、逆に反撃の一打を繰り出す。
ムツヤもミシロも実力者だが、我流で戦うため型はない。まるで獣の殴り合いのようだった。
斬り合いが終わると、ミシロは宙に浮かんで剣を天高く掲げる。
「これならどう?」
水を空に向かって打ち出し、それが高く放物線を描いてムツヤに降り注ぐ。
落下する頃には矢のような速度になり、地面を
「スキあり」
ムツヤの足元から水の刃が吹き出る。右足を貫通させることを許してしまった。
激痛が走る中、回復薬を飲んで傷を治す。それを見たミシロが激怒した。
「ずるいよ!! それ!!」
更に激しく水の矢を降らすミシロ、ムツヤと言えど防御壁が保たないレベルだ。