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覚醒する少女 3

 ムツヤ達は目的地であるモミジという街の前にたどり着いた。


「うー、寒い寒い……」


 ルーは手に息を吹きかけてブルブルと震える。


「ここで待機だな」


 アシノは言ってから赤い玉を木にぶつけた。


「はいはい、こちらギルス」


「ギルス。目的の街に着いた。裏の道具の反応があったらすぐに教えてくれ」


「了解」


 そんな報告を終えると、急いでテントを立て始めた。


 ムツヤの持つ家が飛び出る本を使いたかったが、街から近いので万が一にも目撃されるとまずいので使用できない。


「テントヨシッ! 早く中に入るわよ!!」


 今回は男女別ではなく、皆で一つの大きなテントに入る。ルーは一目散にその中へと入っていった。


「何この中!! 暖かいじゃない!!」


 そこは流石に裏の道具のテントと言うべきなのだろうか、寒い外気を遮断し、中はほんのりと暖かい。


「本当だ、暖かい……」


 ユモトも思わずそう呟く。こごえきった皆は毛布を被り、体を温める。


「ムツヤっちスープ出してスープ!!」


「わがりまじだ!」


 ムツヤのカバンからユモトが作っておいたコンソメスープが出てくる。皆はそれを手に取ると、飲み始めた。


「あぁー、生き返るわー!!!」


 鶏肉と根菜類。隠し味のしょうがが体を温めてくれる。


「ほんと、ホッとしますね」


 思わずモモもそう言った。体が温まると、皆を眠気が襲う。


「あー、眠くなってきちゃったわ……」


「僕もです。すみません……」


 ルーとユモトはうつらうつらとし始めていた。


「裏の道具の反応はギルスが見ていてくれる。襲撃があるまで気を抜きすぎない程度にしておけ」





 いつの間にかモモとユモトは眠ってしまった。ルーも大の字になって爆睡している。


 ムツヤはヨーリィの手を握り、魔力を送っていた。アシノは毛布をまとい物思いにふけっている。


 そろそろ夜明けが近い、動きがないかと思った時だ。


「こちらギルス!! 裏の道具が物凄い速さでそちらに向かっている!!」


「来たか」


 アシノはワインボトルを手に持って立ち上がった。


「お前ら起きろ」


 アシノは皆を起こして回る。ルーでさえも一気に眠気が吹き飛び、立ち上がった。


「来たのかしら?」


「あぁ、私達は外に出るぞ。ムツヤ、鎧に着替えて準備だ」


「わがりまじだ!!」


 テントの外へ出ると、思わず寒さで身が震える。


「うー……。真っ暗だし寒い」


 ルーはそんな事を言っていた。モモやユモトも同じ気持ちだ。ムツヤは着替えを終えるとテントから出てくる。


「それじゃ、杖とカバンを」


 カバンをヨーリィに、四方を囲むと人間を眠らせる杖をその他の皆に渡すと、ムツヤは空を見上げた。


「気配を感じるか?」


「そうでずね」


 アシノは無言で頷いて言葉を出す。


「それじゃお前達、やるぞ!!」 


 それぞれ返事をして配置場所へ向かう。ムツヤはミシロの気配を感じた方角へ走った。






 ふわりふわりと雪が舞う中で、ムツヤは暗闇に一人立っている。


「ふーん、ちゃんと来たんだ」


 空から声が聞こえた。見間違えようもない、魔人と化した少女ミシロだ。


「カバン持ってたら先に街の人全部殺すから」


 ミシロはそう言ってムツヤを観察する。どうやらカバンを持っていない様だ。


「ふふっ、持ってないみたいだね。それじゃ正々堂々……」


 剣を抜きながら急降下。


「殺し合おうか!!!」


 ガキイィンと魔剣同士がぶつかり合う。そのまま弾かれてムツヤとミシロは距離を取った。


「ははは!!」


 高く笑いながらミシロは地面に剣を突き刺す。水の柱が刃となってムツヤへと襲いかかった。


 ムツヤは軽やかなステップでそれらを避けると、ミシロに向かって雷の矢を放つ。


「無駄だよ!!」


 防御壁を展開して弾き、宙を飛びながらムツヤ目掛けて一直線に迫る。


 一般人であれば、目で追うことも出来ないスピードで剣がぶつかり合う。


 ミシロは力を溜め、ムツヤ目掛けて上から重い一撃を振り下ろした。


 魔剣を斜めに構えて受け止めるムツヤ。剣は受け止められたが、そこから水が吹き出してすり抜けるように攻撃を浴びせた。


 間一髪の所で身をよじって躱し、逆に反撃の一打を繰り出す。


 ムツヤもミシロも実力者だが、我流で戦うため型はない。まるで獣の殴り合いのようだった。


 斬り合いが終わると、ミシロは宙に浮かんで剣を天高く掲げる。


「これならどう?」


 水を空に向かって打ち出し、それが高く放物線を描いてムツヤに降り注ぐ。


 落下する頃には矢のような速度になり、地面をえぐる。躱しきれないと思ったムツヤはドーム状の防御壁を展開した。


「スキあり」


 ムツヤの足元から水の刃が吹き出る。右足を貫通させることを許してしまった。


 激痛が走る中、回復薬を飲んで傷を治す。それを見たミシロが激怒した。


「ずるいよ!! それ!!」


 更に激しく水の矢を降らすミシロ、ムツヤと言えど防御壁が保たないレベルだ。

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