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第80話 ドライアドの現状とこれから




 ガラルド君達がシンバードから出発するのを見送って数時間後、サーシャ達ドライアド復興担当組もシンバードを出発した。帝国までの道とは違って路面も踏み固められている場所が大半だ。おかげで移動もスムーズにすみ、西へ300キード近く離れたドライアド跡地に半日もかからずに辿り着く事が出来た。


 ストレングさんは馬を降りてドライアドの入口にある看板に付いた土埃を手で払いながら呟く。


「1度魔獣の襲撃を受けて半壊した後、帝国に民を全員連れていかれたらしいが思ったほど建物は壊れていないし生活感も残っているもんだな。まるで神隠しにでもあったみたいじゃな」


 ストレングさんの言う通り建物の1、2割は穴が空いたり柵が壊されているものの問題なく復興できそうなレベルだ。帝国が迅速に魔獣から街を守ってくれたこと自体はありがたいけれど、その後に街の人を丸ごと連れて行ったことを思うと複雑な気分になる。


 それからサーシャ達は街をぐるりと1周して大まかな復興の見通しを立ててみた。復興計画についてきてくれたレナさんが紙と算盤を見つめながら復興に掛かるであろう日数と費用を計算してくれている。


「う~ん、私の計算だと雑草や道の整理に1日はかかるかな。石壁、石畳、水路、家屋なども思った以上に壊れてなかったから5日ぐらいで最低限の復旧はできると思うよ。土の状態もいいから街の売りにしていた果樹園も遠くない内に再開できると思う。復興にかかる予算も予想の半分もかからなさそうだしね」


 どうやらサーシャ達はかなり運が良かったみたい。ストレングさんもご機嫌だ。道中では「年寄りが何時間も馬に乗るのは辛いわい」とボヤいていたのに今は笑顔を浮かべて号令をかけている。


「よーし! ワシらに追い風が吹いてるぞ。この勢いで早速今から復旧作業を開始するかのう。ほれ、サーシャがみんなに始まりの挨拶をするといい」


「ええ? なんでサーシャが? ストレングさんがいいと思うけど……」


「シンから直々に復興組の中心人物として頑張るように言われたのだろう? だったらサーシャがリーダーとして皆を鼓舞するべきだろう。それに周りを見てみろ。皆がサーシャに期待の眼差しを向けているぞ」


 ストレングさんに言われた通り周りを見渡すと確かに皆がサーシャに笑顔を向けているし、レナさんもこちらへ親指を立ててくれている。皆の期待に応えない訳にはいかない。緊張するけど自分なりの言葉を伝える事にしよう。


「えー、皆さん、シンさんもガラルドさんもリリスちゃんもいなくて心細さはあるけど、あんなに凄い人達がサーシャ達に重要な仕事を任せてくれたことは誇りになるよね? だからシンさん達が帰ってきた時に心身共に元気に暮らしつつ、想像以上の成果をあげている状態でおかえりなさいを言おう。全員一丸となってやり遂げましょう!」




――――オオォォォ――――




 小鳥も逃げ出すぐらいの大きな歓声があがった。その後も各々がサーシャに応援の言葉を掛けてくれた。


「ジークフリートを解放してくれた聖女様の願いとあっちゃ頑張らない訳にはいかねぇよな!」


「サーシャちゃんの言葉、ストレートで胸に響いたよ」


「シンさんとシンバードが嫉妬してしまうぐらいの街にしてやろうぜ」


 どうやら出足は好調みたい。皆の温かさには本当に頭が上がらない。


 それから皆は各々の作業をするべく散っていった。元気な作業員を見つめていたストレングさんがこちらへ向き直り、穏やかな目で話しかけてきた。


「上々の挨拶だったぞサーシャ。やっぱりサーシャの人気は凄いな。皆の目が活き活きしておる。最近じゃファンクラブみたいな組織も出来ているらしいじゃないか」


 え? サーシャはそんなの初耳なのだけど……。確かにジークフリート解放の件やコロシアム優勝者のサポートメンバーだったことが新聞で色んな人に知られてからシンバード内外で声を掛けられることが増えた。だけど、そんな事になっていたなんて。


 その後も2人はファンクラブがどんな物を作っているのを教えてくれた。サーシャ愛用の武具のレプリカ、サーシャ印の古代文字学習本、黒猫サクを模したお饅頭等々、様々だ。


 まずサーシャ印というのがよく分からないし、サクに至っては食べられている始末だ。とは言え生前心ない人達に忌み嫌われていたサクがこんな形で愛されていて家族としては嬉しい限りだ。


 ファンクラブと商品だけでも充分恥ずかしいのにレナさんが更にサーシャを褒め続ける。


「ファンクラブの存在は私も知っているよ。ぶっちゃけ最初はサーシャの見た目が可愛いくて、性格も優しいから男どもが鼻の下伸ばして騒いでいるだけかと思ったの。だけど実は女性ファンの方が多いんだよね。どうやら辛い過去があっても人に優しくし続けたところとか見た目に反して強さと行動力があって実績もあるところが好かれているんだろうね。かっこいい女性像とギャップを内包しているのは大きな強みだよ」


「ガハハハッ、違いない。ワシもそう思うしな」


 褒めるならサーシャのいないところで褒めてほしい……。自分でも分かるぐらい顔が熱くなっているから。その様子に気づいたレナさんが頬っぺたを突いて揶揄ってくるから、サーシャは距離を取って逃げていた。


 余談だけどストレングさんやガラルド君にもファンが多いらしいけど、そのほとんどが男性らしい。ストレングさん曰く漢臭おとこくさすぎて、女性が寄ってこないのではとのことだ。


 サーシャの個人的見解ではガラルドさんの事を好き過ぎるリリスちゃんが番犬の如く威嚇をするから、ガラルド君に色目を使ってくる女性が退散しているだけだと思うのだけれど。


 とにもかくにもサーシャ達復興組は順調に作業を進めていった。合計200人以上が進める復興作業は圧巻の一言でたちまち町が綺麗に整えられていく。2日目には近隣の農業国の技術者とサーシャのお爺ちゃんとボビさんが共同で農具を開発し、更に作業速度がアップしていた。


 シンバードから出稼ぎにきた労働者たちも喜んでいるし、色んな国の色んな人達が手を取り合って笑いながら働いているこの時間が堪らなく愛おしく思える。そんな時間を続けていると復興開始4日目の朝、サーシャが寝ている家にノックの音が響いた。





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