目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第93話 ドライアドの代表




 投票戦が行われるはずだった、あの日から早10日が過ぎようとしていた。俺たちシンバードのドライアド復興組、そして帝国第4部隊復興組は東西を分かつ境界線を基準に東ドライアド、西ドライアドという街名を正式に決めて、自治を開始した。


 境界線はあるものの頻繁に交流は行われている。互いが互いの長所を補い合って街を発展させることが出来ていると個人的には感じている。将来的には境界線そのものがなくなる日がくるかもしれない。


 街が着々と発展していくのを尻目に俺達主要メンバーと復興作業員10数人が本部拠点でこれからの事を話し合おうとしていた。まずはシンバードの代表であるシンが語り始める。


「みんな、ここまで頑張ってくれて本当にありがとう。早速だが正式にドライアドの代表者を任命する任命式をやりたいと思っている。色々とバタバタしていて遅れてしまったが式をする事により一層結束し、活力が漲ることだろう。代表はもちろんガラルド君で構わないな?」


 シンは改めて俺に代表を務めてくれるか尋ねてきた。しかし、俺はここまで復興を進めてきたうえで自分以上に適任な人材がいると思っている。俺はその名をシンに伝える。


「ありがたい話だが、東ドライアドの代表は俺よりサーシャの方が適任だと思っている。だから俺はサーシャを推す事にするよ」


「え? 何を言っているんだいガラルド君。君はシンバードで話し合った際に代表を務めてくれると言ったじゃないか」


「サーシャがいないのなら俺がやるさ。だが、サーシャの素晴らしさは皆分かっているはずだ。俺がいない間のドライアド復興組を見事にまとめあげ、ジークフリートでは熱い言葉で民衆の暴動を鎮めた事もある。きっと皆にとって聖女のように愛され、尊敬される存在になってきていると思う。現に周りを見てみてくれ、俺の推薦に反対する者がいないだろ?」


 俺はシンに周りを見渡すように指をさした。復興作業員だけではない、ストレング、レナ、ヒノミ、リリスまでも俺の言葉に頷いてサーシャを推していた。肝心のサーシャは目を点にして、口を開けて驚いていたわけだが。


 その様子を見たシンは少し考えこんだ後、納得した顔で呟く。


「なるほど、王の務めがある関係上、復興期間中あまりドライアドにいなかった俺には分からなかったがサーシャ君はそこまで慕われていたのだな。まぁ、俺もサーシャ君を信用していたからこそ大陸会議の期間中に復興代表代理を任せていたのだがね」


 最終的にはシンの決定が必要になるから説得できるか少し心配だったが全く問題はなさそうだ。後はサーシャに受け入れてもらうだけだ。俺はサーシャの方に向き直り改めてお願いした。


「見ての通り俺達はサーシャにドライアドの代表を務めてほしい。やってくれるか?」


「…………。」


 サーシャは自信なさげに俯いていた。サーシャの能力を買っている俺達だが肝心のサーシャ自身は自己肯定感の弱い女の子だ、不安になって迷うのも仕方がない。


 しかし、サーシャにとっても俺達全体にとっても、今は新しい事に挑戦して力をつけていかなければいけない時期だ。俺はサーシャが安心して挑めるように自分なりに励ましの言葉を掛ける。


「サーシャよく聞いてくれ。俺達は一長一短だからこそ手を取り合ってここまで来ることが出来た。だからサーシャにだって完璧を求めるつもりはない。失敗したとしても、その時にまた考えればいい」


 そして俺はリリスとサーシャを交互に見つめながら更に話を続けた。


「ガラルド班の3人だって、リリスが起爆剤となり、俺が先頭を走り、サーシャが後ろから支える形でやってきたよな? 誰か1人の力で成し遂げたことなんて1つもないだろ? リーダーとして誰よりも皆の事を理解・観察することができるサーシャ自身がドライアドで1番みんなに甘える存在になればいいんだ」


「甘える存在になる?」


「そうだ、皆の事を理解しているということは誰がどんな強み・苦労・信念を持っているのかを知っているわけだろ? そんなサーシャならきっとサーシャ自身が困った時、頼るべき人に、頼るべきタイミングで頼る事ができるはずだ」


「頼るべき人に、頼るべきタイミングで……かぁ。できるのかな?」


「サーシャの思いやりと観察力があればきっとできる。そして他の誰かが困っているのを見つけたら、その人を1番上手く助けられるであろう人材をサーシャが見つけ出してやればいい。街を立ち上げようとする大仕事なんだ、皆が皆に甘えればいいんだ。上手くやろうとする必要はない」


「ガラルド君は本当に人の背中を押すのが上手いね。なんだか本当にやっていけそうな気がしてきたよ。それでもまだ先頭に立って歩くことが凄く恐いけど……」


 サーシャ自身が抱える能力的な懸念は解消できたと思う。サーシャの不安を全て溶かすまであと少しのところまできている気がする。


 結局サーシャにとって1番の不安は組織の顔になるという点に尽きるのだろう。根っこの部分では控えめな性格だし、今までもどちらかというとサポート側で働く事の方が多かったのだから、不安になるのも仕方がない。


 その不安を解消する為に俺から言える事は1つしかない。俺は張りのある声で自信を持って言い切った。


「心配するな、シンバードもドライアドもジークフリートも全てをひっくるめて俺が1番目立つ英雄になってやる。今まで色んな街を先頭に立って救ってきた俺が今度は死の海を越えてイグノーラと協力関係を結び、全ての魔獣を退けてやる。そんな俺の背中をサーシャはゆっくり自分のペースでついてくればいい。俺が眩し過ぎるぐらい目立てばドライアドの代表なんて目立たない役職になるだろ?」


「ふふふ、ガラルド君の言っている事はめちゃくちゃだけどかっこいいね。なんだか悩んでいるのが馬鹿馬鹿しくなってきたよ。うん、決めた、サーシャがドライアドの代表をやってみるよ!」


 サーシャは一切迷いの無い目で言い切った。その姿はジークフリートで民衆を説得した時を思い出すような頼もしさがあった。俺とサーシャは互いに微笑み合って固い握手を交わす。皆からは温かい拍手が送られた。


 その後リリスが俺にだけ聞こえるように耳打ちで「ガラルドさん、本当は目立つことが苦手なのに大見得を切りましたね。かっこよかったですよ」と呟いた。


 普段からサーシャの前では頑張ってお兄さんぶっているのだが1番付き合いの長いリリスにはバレバレだったようで少し恥ずかしい……。


 ともあれ、これで大事な議題の1つが解決した。場の空気も大分良くなっているから、この機会に俺はまだ皆に打ち明けていなかった、もう1つの提案を伝えることにした。


「新しく代表も決まったことだし、ここでもう1つ話し合いをしておきたい。それは『ビエードの最後の言葉』そして『リリスの記憶』の調査についてだ」





この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?