目次
ブックマーク
応援する
8
コメント
シェア
通報

第129話 疾走

「ボサっとすんな!打ち上げろい!」


 財前の豪快な一声とともに、「ドンッ」という音が連続して響く。数秒後、大輪の花がきらびやかに夜空に咲いた。


「ざ、財前さん!お祭りじゃないんですから!」


 思わず突っ込む私。すると、財前は「お構いなし」とでも言いたげに高らかに笑う。


「アホ!これはなァ、前祝いだ!ミレニアをぶっ倒して仲間を助ける!その景気づけなんだよ!」


 そう──財前たち紅牙組の仲間も、数人ミレニアに捕われている。彼らにとってこの戦いは「打倒ミレニア」だけじゃない。「仲間を救い出す」戦いでもあるのだ。


 と、その時。


「凪さん!焔!こっちへ!」


 突然、天宮の声が飛んだ。私たちは顔を見合わせ、すかさず彼の元へ走る。私たちと入れ替わるように、上木とヤトが最前線へ。敵を迎え撃つために飛び出していった。天宮の元に辿り着くなり、焔が尋ねる。


「どうした?」

「江藤から無線があった。収容棟で瓜生を見かけたらしい」

「瓜生さんを!?」

「最初の爆発に気付いて、様子を見に来たんだろうね。焔、凪さんとヤトを連れてすぐに収容棟に向かって。瓜生から飛石を奪ったら、そのまま過去に…」

「いや、それより先に、この広場の敵をある程度片付けておかないと、後々面倒だ」


 私は身を乗り出して広場の様子を確認する。ざっと見たところ、敵は百人ほど。こちらは紅牙組を含めても三十に届くかどうか。天宮は眉間にしわを寄せ、短く思案した後、口を開いた。


「…三十分。焔、三十分でどれだけ片付けられる?」

「全体の六割は」


 焔は即答した。天宮は頷き、視線を私と花丸に向ける。


「凪さん、ヤト、花丸さん、上木──それに僕が収容棟に行く」

「天宮、財前も連れて行け」

「え?」

「気を悪くするなよ。お前は接近戦では…ポンコツだ」


 ズバリと言われて、天宮は一瞬ポカンとする。が、次の瞬間、吹き出すように笑った。


「…そうキッパリ言われたら笑うしかないね」


 軽快に答える天宮に対し、焔は真顔で続ける。


「接近戦では上木、ヤト、それに凪がかなめだが、飛石の奪取は最優先。あの瓜生相手なら戦力は多い方がいい。見ろ」


 そう言いながら、焔が顎で前方を示す。

 全員が視線を向けると…。


「うおおおぉぉ!!」


 財前が満面の笑みで、雷閃刀を振りかざしながら敵の群れに突撃していた。虎のような豪快な姿に、誰もが言葉を失う。


「あいつは特攻隊長だ。見た目通り生命力も異常に強い」


 一瞬、全員が黙って財前を見つめる。そして、一斉にぷっと笑いがこぼれた。


「確かに、頼れそうな人だね」


 天宮が肩をすくめながら焔に目を向ける。


「本当にいいの?任せて」

「ああ」

「焔さん…」

「大丈夫。みんなを信じろ。三十分後、私も収容棟に向かう」


 私は力強く頷いた。

 すると天宮が再び広場を見渡し、低く呟く。


「…とはいえ、収容棟へはこの広場を突っ切る必要がある。かなり目立つね」

「紅牙組の残りの花火をすべて打ち上げてもらう。それに合わせて、私が陰の気を全開に放出する。敵を一気に引きつけられるはずだ」


 焔の言葉を受け、天宮が即座に頷き、無線を掲げる。


「それでいこう。上木、今の話聞こえた?」

「はい!」


 無線から響く上木の声。戦いながら彼女はこちらの会話に耳を傾けていたらしい。


「上木、財前さんにも伝えて。打ち上げの準備を頼むって」

「すぐ行きます!」


 上木は素早く踵を返し、戦場を駆けて財前の元へ向かった。耳打ちの直後、財前は振り返って焔と視線を交わすと無言で頷いた。

 財前はすぐさま紅牙組の部下たちに手を振って指示を出す。隊員たちは手際よく、残りの花火の点火準備に取りかかった。


「さすが、若頭。話が早いな」


 焔はすっと立ち上がり、柔らかく微笑む。そして優しく、ポンっと私の頭を撫でた。


「凪、また後でな」

「…はい!」


 私は手の温もりに背を押されるように、拳を握った。

 すると──。


 ──ドンッ!!


 ひと際大きな音が夜空に響き渡った。続けて、次々と打ち上がる鮮やかな火花。光が夜の広場を煌びやかに照らす。


 焔は前を睨みつけ、呼吸を整える。彼の全身がうっすらと人狼の気をまとい始めた瞬間、空気が揺れた。


「行くぞ」


 轟音ごうおんと共に、焔が陰の気を全開放する。凍るような気配が辺りを覆い、まるで敵の意識を吸い寄せるように空気が張り詰めた。焔の「気」の気配は凄まじく、敵は一斉に焔を向く。


「今だ!」


 天宮の合図で、私たちは駆け出した。花火の光と陰の気に紛れ、全速力で広場を突っ切る。数体の敵がこちらに気付き、追いかけて来るが…。


「ぴやああぁぁぁ…!」


 空中から舞い降りたヤトが、鋭い羽の刃を放つ。

 ヤトの援護が足を止め、私たちは敵から攻撃を受けることなく、広場を駆け抜けた。


 およそ五分後、私たちは足を止める。目の前にそびえ建つのは、囚人たちの監獄──廃墟となった収容棟だった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?