「ボサっとすんな!打ち上げろい!」
財前の豪快な一声とともに、「ドンッ」という音が連続して響く。数秒後、大輪の花が
「ざ、財前さん!お祭りじゃないんですから!」
思わず突っ込む私。すると、財前は「お構いなし」とでも言いたげに高らかに笑う。
「アホ!これはなァ、前祝いだ!ミレニアをぶっ倒して仲間を助ける!その景気づけなんだよ!」
そう──財前たち紅牙組の仲間も、数人ミレニアに捕われている。彼らにとってこの戦いは「打倒ミレニア」だけじゃない。「仲間を救い出す」戦いでもあるのだ。
と、その時。
「凪さん!焔!こっちへ!」
突然、天宮の声が飛んだ。私たちは顔を見合わせ、すかさず彼の元へ走る。私たちと入れ替わるように、上木とヤトが最前線へ。敵を迎え撃つために飛び出していった。天宮の元に辿り着くなり、焔が尋ねる。
「どうした?」
「江藤から無線があった。収容棟で瓜生を見かけたらしい」
「瓜生さんを!?」
「最初の爆発に気付いて、様子を見に来たんだろうね。焔、凪さんとヤトを連れてすぐに収容棟に向かって。瓜生から飛石を奪ったら、そのまま過去に…」
「いや、それより先に、この広場の敵をある程度片付けておかないと、後々面倒だ」
私は身を乗り出して広場の様子を確認する。ざっと見たところ、敵は百人ほど。こちらは紅牙組を含めても三十に届くかどうか。天宮は眉間にしわを寄せ、短く思案した後、口を開いた。
「…三十分。焔、三十分でどれだけ片付けられる?」
「全体の六割は」
焔は即答した。天宮は頷き、視線を私と花丸に向ける。
「凪さん、ヤト、花丸さん、上木──それに僕が収容棟に行く」
「天宮、財前も連れて行け」
「え?」
「気を悪くするなよ。お前は接近戦では…ポンコツだ」
ズバリと言われて、天宮は一瞬ポカンとする。が、次の瞬間、吹き出すように笑った。
「…そうキッパリ言われたら笑うしかないね」
軽快に答える天宮に対し、焔は真顔で続ける。
「接近戦では上木、ヤト、それに凪が
そう言いながら、焔が顎で前方を示す。
全員が視線を向けると…。
「うおおおぉぉ!!」
財前が満面の笑みで、雷閃刀を振りかざしながら敵の群れに突撃していた。虎のような豪快な姿に、誰もが言葉を失う。
「あいつは特攻隊長だ。見た目通り生命力も異常に強い」
一瞬、全員が黙って財前を見つめる。そして、一斉にぷっと笑いがこぼれた。
「確かに、頼れそうな人だね」
天宮が肩をすくめながら焔に目を向ける。
「本当にいいの?任せて」
「ああ」
「焔さん…」
「大丈夫。みんなを信じろ。三十分後、私も収容棟に向かう」
私は力強く頷いた。
すると天宮が再び広場を見渡し、低く呟く。
「…とはいえ、収容棟へはこの広場を突っ切る必要がある。かなり目立つね」
「紅牙組の残りの花火をすべて打ち上げてもらう。それに合わせて、私が陰の気を全開に放出する。敵を一気に引きつけられるはずだ」
焔の言葉を受け、天宮が即座に頷き、無線を掲げる。
「それでいこう。上木、今の話聞こえた?」
「はい!」
無線から響く上木の声。戦いながら彼女はこちらの会話に耳を傾けていたらしい。
「上木、財前さんにも伝えて。打ち上げの準備を頼むって」
「すぐ行きます!」
上木は素早く踵を返し、戦場を駆けて財前の元へ向かった。耳打ちの直後、財前は振り返って焔と視線を交わすと無言で頷いた。
財前はすぐさま紅牙組の部下たちに手を振って指示を出す。隊員たちは手際よく、残りの花火の点火準備に取りかかった。
「さすが、若頭。話が早いな」
焔はすっと立ち上がり、柔らかく微笑む。そして優しく、ポンっと私の頭を撫でた。
「凪、また後でな」
「…はい!」
私は手の温もりに背を押されるように、拳を握った。
すると──。
──ドンッ!!
ひと際大きな音が夜空に響き渡った。続けて、次々と打ち上がる鮮やかな火花。光が夜の広場を煌びやかに照らす。
焔は前を睨みつけ、呼吸を整える。彼の全身がうっすらと人狼の気を
「行くぞ」
「今だ!」
天宮の合図で、私たちは駆け出した。花火の光と陰の気に紛れ、全速力で広場を突っ切る。数体の敵がこちらに気付き、追いかけて来るが…。
「ぴやああぁぁぁ…!」
空中から舞い降りたヤトが、鋭い羽の刃を放つ。
ヤトの援護が足を止め、私たちは敵から攻撃を受けることなく、広場を駆け抜けた。
およそ五分後、私たちは足を止める。目の前にそびえ建つのは、囚人たちの監獄──廃墟となった収容棟だった。