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第128話 共闘

「ざ、財前さん!?」


 驚きの声を上げたのも束の間、敵の群れが一斉に焔に迫る。

 焔はすでに構えていた。風を切るように駆け出すと、雷閃刀が銀の軌跡を描く。


 だが、焔の背後にはすでに別の敵が迫っていた。その様子を数メートル後方で見ていた天宮は、即座に銃を構える。その引き金に指をかけたその瞬間…。


「だりゃァ!!」


 叫び声とともに、財前が焔の背後にいた敵に飛びかかる。

 財前が雷閃刀を豪快に振るうと、光が波のように刃を包み、敵がド派手に吹き飛んだ。


 勢いそのままに、財前は目の前の敵に正拳一撃。さらに倒れた敵を思いきり踏んづけるという容赦のなさ。それでいて、どこか楽しそうな笑みを浮かべていた。その様子を見て、天宮は銃を構えたまま、苦笑する。


「…なんとも狙いにくいね、この状況…」


 視線の先では焔と戝前が背中を預け合いながら、次々と敵をなぎ倒していた。冷静かつ正確に刃を走らせ、急所を狙う焔と、敵に殴られようが力で押し返し、時には笑いながら敵を踏み潰す財前。対照的な二人だが、不思議と呼吸に乱れはない。援護の入る余地がないほどに。


 焔を見ながら、私はハッとした。早々に人狼化した影響なのだろうか、私が昨日せっせと黒く染めた髪が瞬く間に銀色をまとっていく。彼の髪は夜の明かりに眩く照らされ、一層輝いて見えた。それを見ながら、私はついこんな思いに駆られる。


 ──焔さんの黒髪…もっとじっくり見ておけばよかったァ~…


 その時、天宮の無線が鳴り、上木の声が響いた。


「天宮隊長!三時の方向!焔隊長の死角に三体が迫ってます」

「了解」


 そのひと言と同時に、天宮は再び銃を構え、発砲する。銃口から放たれたのは、雷閃刀と同じく、人狼の力をまとった銀の弾丸──。

 弾丸は流れ星のように暗闇を裂きながら、敵に向かって一直線に延びる。そのまま、敵の脚に直撃し、三体の敵は反応すらせずに地面に崩れ落ちた。


「…凄いね、この銃。想像以上だよ。うちの研究チームに感謝しないとね」


 そう言って天宮は穏やかに微笑んだ。だが、その余韻をかき消すように、無線から上木の鋭い声が飛ぶ。


「天宮隊長!十二時の方向!敵が紅牙組の組員たちに接近中!」


 天宮が前を見る。

 先ほど紅牙組が打ち上げた花火に気付いたのだろう。数人の使徒が組員たちを狙っていた。気づいた組員たちはすかさず雷閃刀を抜き、応戦の構えを取る。その時──。


 ──バンッ!


 耳を裂くような発砲音が私たちの頭上──屋上で響いた。上木だ。敵の動きを見張るため、彼女は廃墟の屋上に潜み、大型のライフル銃を構えながら毅然と前を見据えていた。あのライフル銃にも人狼の力が込められているのだろう。銀色のオーラがうっすらまとうその銃口は、迷いなく敵に向けられている。


「上木、もう一度!」

「はい!」


 天宮と上木は、無線で短く言葉を交わすと、ほぼ同時に発砲した。

 二人が放った弾丸は、まるで示し合わせたかのように一直線に走り、銀の軌道を描いて敵に命中した。その一連の流れがあまりにも鮮やかで、私は思わず目を見開く。


 ──天宮さん、上木さん…カッコイイ!!


 私が目を輝かせていると、どこからか雄叫びが聞こえた。ハッとして前方を見ると、敵がこちらの気配に気付いたのか、物凄い勢いで迫っている。


 私は咄嗟とっさに雷閃刀を抜き、構える。すると、ヤトが私の前にふわりと降り立ち、翼を大きく広げた。そして──。


 ──バチッ!


 赤い閃光が弾ける。次の瞬間、バリアのような赤い結界が私たちを包み込んだ。これは、ヤトの詠唱の力だ。


 敵が動きを止めると、ヤトはその隙を逃さず、勢いよく空へ舞い上がる。


 高く、高く。


 闇夜に浮かぶひとつの影。ヤトは大きく羽を広げると、静かに詠唱を唱え始めた。


──


八咫の羽よ 共に舞え

我が意志を受け 敵を討て

疾風を纏い 光となりて

雷鳴の如き 刃となれ


──


 声が響き終わるのと同時に、ヤトの羽が無数の光刃に変わり、鋭く輝きながら敵に降り注ぐ。あまりの眩さに空が一瞬白く染まり、私は反射的に目を閉じた。


 数秒後、恐る恐る目を開けると、数メートル離れた場所で花丸が腰を抜かしていた。突然の激しい戦闘に、気持ちがついてこなかったのだろう。


 そんな花丸を狙うかのように、ミレニアの使徒が動く。私は大急ぎで雷閃刀を握り返し、花丸へ駆け寄る。


 だが、その前に、敵は短いうめき声を上げ、よろめいた。思わぬ出来事に呆然とする私と花丸。すると、倒れ込む敵の背後から、刀を肩に担いだ財前がニカッと笑いながら姿を現した。


「よォ!久しぶりだな、耕太、凪!」

「財前さん!」


 花丸は目を輝かせながら、財前を見上げる。久々の再会が嬉しいのだろう。私も自然と頬が緩み、歩み寄る。すると、財前が感心したように私を見据えた。


「凪、お前頑張ってるみてえじゃねえか。耕太から色々聞いたぜ。焔と決闘したとかなんとか」

「ええ!?」


 思いがけない言葉に、耳を熱くする私。照れ隠しでうつむく私をよそに、財前はどこか懐かしむように目を細める。


「強くなったんだなァ、お前」


 そう言うなり、財前は突然私の首根っこをガシッと鷲掴みにしてきた。


「財前さん!?ちょ、何を…?」

「俺が許す。さあ、思いっきり……暴れて来い!!」


 そのまま、なんと私は敵の群れのど真ん中に放り投げられた。


「ぴやああぁぁぁ!」


 突然のことで青ざめる間もなく、周囲を敵が囲む。私は慌てて体勢を立て直し、急いで雷閃刀を抜いた。眩しい銀の刃が、夜の照明に照らされる。一呼吸ついて気を取り直した私は、一気に駆け出し、横一閃に雷閃刀を振るう。


「ていや!」


 私の一撃に怯む敵。その隙を逃さず、今度は斜め上から一撃を繰り出す。だがその瞬間、空から三体の敵が襲い掛かって来た。皆、歯を剥き出しにして、食らいつこうといわんばかりだ。私は歯を食いしばり、地を踏みしめて柄を強く握る。


 すると、私の心に呼応するように雷閃刀が光を増した。バチバチと音を立てて電流が走り、刃を雷がまとっていく。


 銀の刃は、私が振り下ろしたのと同時に、一気に力を解き放った。斬撃は稲妻のような不規則な軌道を描き、敵を飲み込んでいく。そしてそのまま、敵は力なく倒れた。


 私は身を屈め、肩で息をつく。だが、休んでいる暇などない。顔を上げると別の敵が私目がけて突進していた。


 数が多すぎる。

 あの金色の光…ソルブラッドの力なら一気に…!


 私は目を閉じ、深く息を吸って意識を集中させる。手に熱が伝ったその時…。


「出すな!凪!」


 突然の声に私は体をビクつかせる。次の瞬間、目の前の敵が銀色の閃光と共に一斉に吹き飛んだ。焔だ。彼は私の前に立つと、鋭く告げる。


「ソルブラッドの力は出すな!」

「え…?でも…」

「無闇に使えば、君が宿主だとバレる!」


 焔の声には、いつになく焦りが滲んでいた。

 そうだった。私の力は諸刃の剣。うかつに使えば、敵から狙われる。


 焔は周囲の使徒たちに目を光らせ、警戒を強める。バレていないか探っているのだろう。一拍置いて、焔はちらりと戝前を見て、苦笑した。


「それにしても…相変わらずめちゃくちゃだな、あの財前は」


 私は焔の視線を追う。

 視界に飛び込んで来たのは、水を得た魚のように雷閃刀をおどらせ、笑いながら敵の群れに突っ込む財前の姿だった。


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