突然の爆発音に、私たちはその場で凍りついた。音がしたのは、収容棟。江藤と丹後の部隊が向かった場所だ。
「丹後!江藤!無事!?」
返ってきたのは無機質な電子音と「ザー」という雑音。どうやら、通信状況が乱れているようだ。数秒後、無線から僅かに声が聞こえた。
「──大丈…が、ミレ…多すぎる…」
丹後だ。
断片的な声を聞いた途端、焔の目が鋭く光る。
「想定以上の敵がいたようだな。やはり、こちらの動きが読まれていたか。どうする、天宮?」
「戦力を分散させよう」
天宮がきっぱり返すと、上木がすかさず声を上げる。
「天宮隊長。例の爆破、ここで実行しますか?」
SPTが用意していた爆弾は、頃合いを見計らって起爆させ、ミレニアの使徒と瓜生を陽動するためのものだった。上木の提案を聞いた天宮は、迷わず即答する。
「うん。ついでに屋上に設置した照明も最大に。この際とことん目立っちゃおう」
「了解です」
上木はそう言うと、間髪入れずに屋上へ駆け上がる。
そして次の瞬間──。
──バンッ!
巨大な照明が点灯し、夜空が昼間のように照らされる。白光の中、上木は爆弾を仕込んだ大きなサイドバッグを空高く放り投げた。
数秒後、頭上で空気を切り裂くような爆発音が
「収容棟から煙が上がっています。やはり爆発物ですね。それと、人影が続々とこちらに向かってきます。数は、およそ二十」
天宮は手元の時計に視線を落とす。
「…ここに来るまで、あと二分ってところかな」
「私に任せろ」
焔が立ち上がるのと同時に、空気がピンと張りつめる。
「二十人なら、十分で倒せる」
本気で言ってます…?焔さん…!?
焔の発言に、天宮も肩をすくめ、笑みを漏らす。
「頼りになることこの上ないね。でも、油断は禁物だよ。僕が銃で援護する。暗闇の射撃は苦手だけど…照明もあるし。一応当たっても大丈夫なように人狼の気を
天宮の軽口に頬を緩める焔。すると、上木が一歩前に進み、天宮に向き直った。
「天宮隊長。私が屋上から無線で敵の動き、方角を正確にお伝えします」
上木の声は冷静で、揺るぎなかった。不意だったのか、天宮は一瞬目を見開く。彼の頬は、先ほどよりもほんの少しだけ赤らんでいた。
「…ありがとう。任せたよ、上木」
「はい」
笑顔で頷く上木の背中を見届け、焔が静かに雷閃刀を抜く。照明の光を受けた刀身は、眩しく銀色に輝いていた。焔は柄を強く握りしめ、闇の向こうを鋭く見据える。
「先に行く」
迷いのない言葉。気付くと私は走り出し、焔の袖を掴んでいた。
「私も…!」
「俺も!俺もォ~!」
だが、焔は一歩も動かず、視線だけで私たちを制した。
「私だけで十分。ヤト、ちゃんと凪を守れよ」
ヤトは「ううう」っと頭を垂れて小さく唸った後、胸を張るように翼を広げ、渋々頷いた。
「わ…私だって、守られてるだけじゃないですし!ちゃんと戦いますし!」
抗議にも似た言葉に、焔はふっと口元を緩ませた。
「頼もしいな」
すると、天宮の声が飛ぶ。
「焔!そろそろ出て!」
「ああ」
焔は小さく頷くと、風のように駆け出した。地を蹴る音も、気配も残さず、影だけが疾走する。向かった先は人影が密集している広場だ。
目を凝らして気付いた。敵──ミレニアの使徒が「人影」に見えたのは、黒装束を身に
それに、移動速度も尋常ではない。目をギラつかせて四足歩行で迫ってくる姿は、まるで血に飢えた狼そのものだ。
焔は、そんな使徒に向かって
「ふ、増えてる!どんどん来ますよ!天宮さん!」
「大丈夫。僕たちもいるから」
そう冷静に言いながら、天宮は視線を前方へ定め、静かに銃を構える。他の隊員たちも同様、無言で銃を構えながら、息を整え始めた。
その時だった。
──ドンッ!
先ほどの爆発とはまるで違う、地響きのような低音が夜の空気を揺らす。
私たちは皆、音の方を振り返った。すると…。
──ぴゅるるるる…
尾を引くような音の後、「パンッ」という乾いた音とともに、夜空に大輪の花が咲いた。花火だ。あまりの場違いな美しさに、誰もが言葉を失う。
ひとつ、またひとつ。
光の花々が次々と夜空に放たれていく。
一瞬どこかの花火大会かと思ったが、それにしては近すぎる。
花火が放たれた場所に目を凝らすと、うっすらと漂う煙の中に、花火に打ち上げ筒がずらりと並んでいた。火薬の匂いが風に乗ってくる頃、筒の列を背に花火の光を浴びながら、だらしなく和服を着こなした男が目に入った。
男は不敵に笑い、持っていた刀──雷閃刀を抜くと、切っ先を頭上に掲げる。その瞬間、再び筒から「ドン」と音がして、夜空にパッと花が咲いた。
男の顔を確かめようと目を細める私。それに気づいたのか、男は肩を揺らし、陽気に笑う。
「おいおいおいおいおい。俺のこと、もう忘れちまったのかァ、凪?」
軽薄で、妙に耳の残る声。
人を食ったような、ふざけた口調。
間違いない、この人は──!
「………この紅牙組のイケメン若頭──財前