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80話 修学旅行8

「行ったか...?」


誠一が耳をドアにつけ、廊下の様子を聞いている俺に静かな声で聞いてくる。

俺は耳を澄ませドアの向こうの音に神経を全集中させる。


エレベーターがこの階で止まる音が聞こえ、その後廊下を歩く音が奥へ消えていくのをしっかりと耳の中に入ってきた。


「なんとかバレずにどっか行ってくれたみたい」


「はぁ...心臓止まるかと思ったぜ」


「それにしても...流石にこの時期でも夜の外は冷えるな...」


太一が周りを見渡しながらぼそっと呟いた。


そう、俺たちが逃げ込んだ先は外の階段である。


外用階段と上に書かれたドアを見つけた瞬間、外へ逃げ込んだのだ。


「で...これからどうするんだ?流石にこのドアを開けるのはリスキー過ぎないか?先生とばったり蜂合わせるかもしれねぇし」


「目的の部屋って何階だっけ?」


「十三階だな」


「じゃあこのままこの階段上がってくか」


そう提案し、一応音を立てないようにゆっくりと階段を昇っていく。

びゅ~と夜風が俺たちの肌を撫でていく。


ちらっと外を見ると遠く先に地面が見えた。


「た...たっけぇ。やば、急に怖くなってきたかも」


「おいそんなこと言うなよ。俺も怖くなってきたじぇねぇか」


俺が一歩ずつ、一歩ずつ震える足を押さえながら丁寧な足取りで階段を上がっていくと、後ろから急にちょん、と押された。


俺がバッと後ろを振り返ると、ニヤニヤした顔で太一がそこに立っていた。


「どう?ビビった?」


父ちゃん母ちゃんへ、人生で初めて殺意というものを覚えたかもしれません。

これも果たして成長というのでしょうか?


俺は後で太一にする嫌がらせを考えながら階段を昇っていると、ようやく上の階にまで辿り着いた。


そしてその時、俺は見知った顔がそこに立っていることに気が付いた。


「え?日奈じゃん。なんでこんな所にいんの?」


「そっちこそなんでこんな所に居んのよ?」


「いやぁ...それは」


「いや待って、当てるから...どうせ違う部屋に行こうとしたら先生を見つけて慌てて逃げて来たって感じ...?」


「すっげぇ、大正解。そっちはなんでこんな所に?」


「私もそっちとほぼ同じ理由よ。廊下の先を確認した瞬間に先生が居て慌てて隠れ始めたの」


「お前はどこに行くつもりだったんだ?」


「私はあれよその...行く当てなんて特にないけどやっぱその...このスリル?を楽しみたくて...」


「なんかお前思ったより変な奴だな」


「変な奴って何よ変な奴って」


俺が日奈と話していると、後ろから背中をトントンと叩かれる。


後ろに立っていた太一がジェスチャーで俺の耳を太一の顔に近づけさせると、太一が俺に聞こえないような小さな声で話始める。


「おいおい、お前日奈さんと知り合いなのか...?」


「知り合いも何も同じ部活だし...」


「だからってあんな仲良さそうに...お前ずるいぞ。日奈さんなんてクラス...いや学年...いや学校中のマドンナだぞ。ていうか俺日奈さんの学校内ファンクラブ入ってるのに...」


長々と太一の話を長々と聞いていたが、太一の話から全く嘘を感じなかったので全て本当なのだろう。


ていうか日奈って学校内にファンクラブあんのか...ていうか学校のマドンナだったんだな。普段の姿を見すぎていていて学校のマドンナになっている姿が全く想像できない。


「ん?どうしたの...?」


俺と太一の会話が気になったのか、ひょこっと顔を出しながら俺たちに話しかける。


「いやそんなたいした会話してないですよ?な?健吾」


「いやまぁ確かにそうだけど....」


ちらっと太一を見ると、顔をみるみる真っ赤にしながら口ごもっている。


これがアイドルの力か...恐るべし。


「あっえっと...太一君だっけ?健吾...じゃなくて健吾君と同じ部屋だったんだぁ」


「あっえっと...そう...ですね」


ニコニコしながら日奈は太一に話しかける。


俺や誠一などに見せる顔を裏の顔だとすると、アイドルで他の学年のみんなに見せるこの顔は表の顔ってやつだろうか。


なんかさっきと違って言葉遣いもどこか丁寧になってるし。

しかし、よく見ると日奈の額には冷や汗が流れていた。


どうせさっきの俺との会話が太一に聞かれてないか今更心配になったのだろう。言葉遣いも別に丁寧な感じじゃなかったし。


今にも鼻血を吹き出しそうになりそうになりながら、顔を真っ赤にしている太一を置いておいて俺は再び日奈に話しかける。


「日奈もここに逃げて来たってことは...つまりこの階の廊下にも先生が居るってことか?」


「大正解。しかも先生はあの鬼瓦先生」


「うわぁ...あの先生滅茶苦茶怖いんだよなぁ」


「健吾...じゃなくて健吾君たちもしかしてこの階の部屋に用があるの?」


「まぁそうだな」


「でもこの階って女子の部屋しかないよ?こういうのって男子の部屋に行くのが基本じゃないの...?」


「あぁそれな。俺もそう思ったんだけどさ...誠一が勝手に連絡取ってたんだよ」


「だってよぉ」


太一の背中からひょこっと誠一が顔を覗き出す。


「だってよぉ。男だけの部屋から男だけの部屋に行ってもなぁって感じじゃね?やっぱ行くなら華があるところだろ」


「いかにも誠一...君らしい理由だね...」


「で、それにしてもこれからどうしようか...」


俺がぼそっとそう呟いた時、誠一が不敵な笑みを浮かべ始めた。

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