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いきなり異世界転移?
いきなり異世界転移?
蛇と酒
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年08月01日
公開日
2,645字
連載中
40歳の会社員、黒島隆志は突然異世界に転移し、周囲の異様な風景に戸惑う。家族とパソコン越しに繋がり、彼らとリアルタイムで話すことができるが、元の世界に戻る手段は不明。家族と協力して異世界と現実生活の両立できるのか?そんな中でも家族の支えを受けながら、異世界での新たな挑戦に向かって進んでいく隆志。

第1話

 陽光が茂密な木の葉を通り抜け、地面に斑模様の光と影を落としていた。鳥たちが木の梢でさえずり、空気には湿った土の香りが漂っている。40歳の普通の会社員である俺、黒島隆志が、ゆっくりと目を開けた。周囲を見回すと、見知らぬ森の中にいることに気づいた。すべてが、あまりにも見慣れない風景だった。

 周りには背の高い木々が立ち、その枝葉は密集して太陽の光を遮っていた。木の葉の隙間から差し込む光が地面に星空のような無数の光点を作り出していた。地面には柔らかな苔が生え、ふかふかとした感触が足元に伝わる。見たことのない植物が茂っており、その葉や花は俺が今まで見たことのない色彩と形をしていた。

 鳥たちのさえずりは心地よく、風に乗って四方八方から聞こえてくる。さまざまな種類の鳥たちがそれぞれのメロディを奏で、そのハーモニーはこの未知の世界の静寂を美しく彩っていた。

 足元を見ると湿った土の香りが漂っている。地面には落ち葉と苔が厚く積もり、その下には黒く湿った土が見え隠れしていた。その香りを深く吸い込み、目を閉じて一瞬だけその感覚に浸った。

 ゆっくりと起き上がり、背中と腰の筋肉を伸ばした。長時間の横たわりからくる違和感を感じていたが、それを無視して周囲の観察を続けた。どこか遠くで水の流れる音がかすかに聞こえてくる。おそらく小川が流れているのだろう。その音に向かって耳を傾け、一縷の望みを感じた。

一度深呼吸をして、自分の状況を冷静に見つめ直す。昨晩のことを思い出そうとするが、記憶は曖昧だ。最後に覚えているのは家族と夕食を共にしたこと、そしてその後は普通に入浴し、就寝したことだ。しかし、目が覚めたときには、この全く見知らぬ場所にいた。

 「これは夢だろうか?」自分に問いかけ、確認するために腕をつねった。鋭い痛みが意識を鮮明にし、これは現実であることを改めて確認させた。 「ドッキリ大成功!」の看板をもって人が出てきた。って、ありえないか。そもそも、一般人に仕掛ける人はいないだろう。

 では、どうして?なんでここにいるのか?ここはどこ??誰かいないのか??

 周囲をさらに観察し始めた。最初に目に入ったのは、大きな耳を持つウサギのような生き物だった。しかし、よく見るとそのウサギのような生き物は、通常のウサギとは明らかに違う。まず、その大きな耳は普通のウサギよりも長く、耳の先端が少し光っている。そして、目が異様に大きく、まるで人間のような知性を感じさせる輝きを持っていた。その体は通常のウサギよりもやや小さく、足が非常に細長い。さらに、尻尾が二股に分かれており、時折その尻尾がまるで意志を持つかのように動いていた。

 次に目に入ったのは、遠くの空に浮かぶ奇妙な雲だ。その雲は虹色に輝き、常にゆっくりと形を変えている。まるで生きているかのように動いているその雲を見て、俺は目をこすり、もう一度確かめた。確かに、その雲は存在していた。俺の知っている地球ではありえない光景だった。

 「もしかして、ここは…地球じゃない?」驚愕しながら呟いた。

次に目に留まったのは、地面に生えている奇妙な植物だった。その中の一つに近づき、慎重に観察する。それは見たこともないような鮮やかな青色の花を咲かせており、葉は光を反射して微かに輝いている。手に取ってみたが、触れると花びらが軽く震え、まるで生きているかのようだった。

 さらに周囲を見回すと、遠くに奇妙な形の山々が見える。その山々はまるで鋭利な刃物のように鋭く尖っており、普通の山とは全く異なっている。その異様な風景に圧倒されながらも、その美しさに心を奪われた。

「まるでファンタジーの世界みたいだ。」自嘲気味に笑ったが、現実の異常さに胸が高鳴った。


 もしかしたらと思った俺、黒島隆志は、ふと胸の中に湧き上がる興奮を抑えられなかった。この状況、まるでライトノベルやアニメのようじゃないか。そしたら主人公の俺も何か特別な力を持っているかもしれない。

「もしかして、俺は選ばれた人間なのかもしれない…」そんな期待が胸に膨らんでいく。

 まず、ステータス画面を開こうと決心した。アニメやゲームの主人公たちがやるように、手をかざして叫んだ。

 「ステータス、オープン!」

 何も起こらなかった。もう一度、今度はもっと大きな声で。

 「ステータス、オープン!」

 やはり何も起こらない。周囲には風の音と鳥のさえずりだけが響いている。

 「くそっ、なんでだよ!」苛立ちを感じながらも、次に魔法を試すことにした。

 「ファイアーボール!」と叫びながら、手を前に突き出す。何も起こらない。今度は両手を使って試みた。

 「ファイアーボール!」両手を突き出しても、やはり何も起こらなかった。

 「なんでだよ、なんで!」苛立ちを抑えられず、今度は    「ウォーターボール!」、「サンダーボルト!」、「ウィンドカッター!」と次々に魔法の名前を叫びながらポーズを取った。しかし、すべて無駄だった。

次に、剣術や体術ができるか試すことにした。近くの木を見つけ、全力で拳を振り下ろした。

 「ハァッ!」と気合を入れて拳を叩きつけたが、木に痛みを返されるだけだった。拳は赤く腫れ上がり、痛みに顔を歪めた。

 「これじゃダメか…」

 次は少し離れてから、全力で走って木に飛びかかる。体を回転させてキックを繰り出したが、結果は同じだった。体が木にぶつかり、地面に倒れ込んだ。

 「いてぇ…」

 痛みを堪えながら立ち上がり、今度は木の枝を剣のように使って、素振りを始めた。剣術のフォームを思い出しながら、空中に向かって切り込む。だが、何の効果もなく、ただの自己満足に過ぎなかった。

 「何もないわけないよね…」そんな不安が頭をよぎった。

最後に、もう一度、ステータス画面を開こうと決心した。今度はもっと集中して、全身の力を込めて。

 「ステータス、オープン!」何も起こらない。

 「ステータス、オープン!」再び何も起こらない。

 「ファイアーボール!ウォーターボール!サンダーボルト!ウィンドカッター!」次々に叫んでみたが、やはり何も変わらない。

 「ちょっとまで、約束と違う。いきなりこんなところに掘りこんで何の説明もないのか?転生者特典はもなし、手ぶらで異世界サバイバルでおかしくないのか?責任者を呼べよ!!おい....」 「くそっ、なんでだよ!」地面に倒れ込み、草を掴んで叫んだ。「どうして俺だけ何もないんだよ!」

 ふと、静寂が戻り、風の音だけが耳に届く。俺は草の上に倒れたまま、目を閉じて深呼吸した。 「家に、帰りたい....」

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