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第八話 演目 縁と結びで縁結び

 結び達が階段を上ると縁が居た、だが雰囲気がぜんぜん違う。

 結びを見てもへらへらと笑っているだけ。

 そして何より、地面には魔法陣と供物の跡があった。

 状況から見るに、縁は何かされたのだろう。


「……」

「お姉様、あれはお兄様ではありません」

「ああ、どうやら憑依されているな」

「お初にお目にかかります、私は七――」

「界牙流初代奥義! 伴侶はんりょ!」



 もはや当たり前の光景だ、結びを前に悠長に自己紹介など自殺行為だ。

 結びは両手からあたたかな光の波動を出し、憑依された縁はあっという間にのまれた。 


 そして、この界牙流初代奥義『伴侶』とは、界牙流の起源でもある。

 初代が悪人に憑依された妻を、手にかけてしまった事で生まれた奥義。 

 子孫に自分達と同じ気持ちをさせまいと、初代の妻の願い。

 自分と同じ様に、愛する者を手にかけさせまいと誓った初代の願い。


 界牙流に憑依なぞ、姑息な手段は通じない。


「ちっ! だが目的は達した!」


 縁の身体から実体の無い女が出てきた。

 みすぼらしい服装をしていて、一言で言えば貧乏神の様だ。

 ただ顔立ちは美しく、妖艶だった。


「縁君!」


 そんな存在よりも、結びは縁に駆け寄った。

 縁の身体は仰向けに倒れている。

 だるそうにしていて、具合が悪そうに見えた。

 結びはさっと膝枕をして、縁の手を両手で握る。


「……君にそんな顔をさせてすまない」

「私が――」

「結びさん……話は後だ、七星了司はまだ生きている」

「わかったどうするの?」

「この間お試しでやった事があるだろ、俺の力を渡すやつだ」

「ああ、あれか」


 それは度々使っていた技、縁の力を結びに渡す。

 今までは力の一部で、全てを結びには渡した事は無い。


「俺と一時的に一心同体となり、新たな神になる」

「え? それちゃんと元に戻る?」

「当たり前だ、俺はこれから人生、結びさんを愛するんだからな」

「お、おおぅ……」


 縁の唐突な愛の告白、いや彼は何時も通りだった。

 今までも、自分が言うべきと思うタイミングで言ってきた。

 その場に合う合わないではない。

 言われる方は、たまったものではないかも知れない。

 結びはより一層、縁の手を力強く握った。


「いくぞ」

「よっしゃこい!」


 絆が目をふさぐ程の、白く強く光を一瞬放った。

 次の瞬間には誰かが立っていた。


 和服には音楽の記号が、風で舞っている様に見える模様。

 長く黒い美しく、うさ耳があるが普通の耳もある。

 顔立ちは結びに近い、その人物は自分の身体を見ていた。


「おお……これが一心同体、なるほどなるほど」

「お姉様……でいいのかしら?」

「今縁の力が弱いからか、私が強く出ているね~」

「その言い方ですと、お兄様の場合も?」

「あるんじゃないかな、よくわからない、後で縁に聞いてみよう」


 一心同体になった結びは、部屋のすみを見た。

 そこには薄っすらと、七星了司が居る。

 絆は結びの視線を動かした後に、その方向を見た。


「……で、お前は何時まで、見え見えのかくれんぼをしているんだ?」

「これは予想外! 新たな神の誕生とは!」

「何だ? 名乗ってほしいのか?」

「ああ、是非とも聞きたいね、あるならばだが」


 七星了司は煽る様に喋った。

 神は人間に信仰され、そこから産まれる。

 正義の願いや破滅の願い、色々とある。

 だがこの神は、縁と結びの一心同体。

 無から産まれた神ではなく、有から産まれ神だ。  


「我が名は風月音かぜつきおと白兎神しろうさぎのかみ縁結えんむすび、長いなら縁結びでもいいぞ?」

「これはご丁寧に、で殺し合うのかい? いや、殺してくれるのかい?」

「まあ待て、正直感心しているんだ、過去、縁に身を滅ぼす幸運を貰ったのに生きているとは」

「当たり前さね、私はそこらの奴と一緒にしないでくれよ? 貰った幸運で自分磨きをしたのさ、結果、現人神と呼ばれるまでになったのさ」

「なるほど」


 縁が昔、自分の幸運が欲しい者達に、無差別に送った幸せ。

 それは身の丈を滅ぼす幸せだった。

 例えるなら、突然巨額の大金が溢れて出たとしよう。

 使っても使っても無くならない、溢れてくるお金。

 悪い癖が付いた時に、そのお金が突然無くなったら。

 まず普通の人ならば破滅するだろう。


 だがこの七星了司はそうではなかった。

 その溢れ出るお金、言わば幸運を自分磨きに使ったのだ。

 これはどういう事か、臨時収入に対してそれに見合う努力をした。

 その臨時収入が無くなった時でも、臨時収入があった時と同じ生活が出来る様に。


 一言で言えば、七星了司は他のおバカさんとは、ちょっとだけ違った話だ。


「いやはや感心する、だが縁の幸運で今更何をするんだ? 神になるのか?」

「正直、燃え尽き症候群ってやつだ、ある意味で私は身の丈合わない選択をしてしまったのだろう」

「ほう?」

「自分の幸せの為に、ここまで来たが……縁の幸運を手に入れた瞬間、目標が無くなった」

「なんだ、目的が無く手段だけあったのか」

「ああ、正直困ったよ、ジャスティスジャッジメント関連とか、名前の無い隷属の神とか色々と頑張ったのにね」


 七星了司は自分の幸せの為に、縁の幸運を必要とした。

 おそらくは、幸運を与えられた時の高揚感、それを忘れてられなかったのだろう。

 例えるならばお年玉、あの気持ちの延長線上。

 そして、今はそのお年玉を手に入れても、自分の幸せ。

 一番最初の衝撃ほど無く、燃え尽き症候群になってしまったのか。


 今七星了司は、安らかに死を悟っている顔をした。


「何か疲れたんだ、殺してくれ」

「嫌だ」


 縁結びが界牙流二代目の奥義を放った、これを止めれる者は居ないだろう。

 七星了司は奥義をくらって消えた、だが縁結びは殺す事を否定した。

 つまりは死んではいないのだろう、そもそも簡単に神は死なない。

 簡単に死ぬのは存在が弱い神だ、神社も無く名前を覚えてもらえない。

 だが七星了司は色々とやり過ぎた、一部で有名になり過ぎた。


 彼女が本当死ねるのは、自分を知っている者が居なくなってからだろう。

 そんな日は簡単には来ないだろうが。


「お兄様、お姉様、お疲れ様です」


 縁結びは一瞬光って、縁と結びにそれぞれ戻った。

 絆から見て縁は右側、結びは左側。

 結びは縁の左腕に自分の右腕を軽く絡めていた。


 そう、まるでこれから、バージンロードを歩く様に立っていたのだ。


「縁君、下で一本槍が怪我してる」

「ああ知っている、行こう」

「はい、お兄様」


 縁達は一本槍達の元へと向かった。

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