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第四話 演目 7色の御神体

 縁の助けるという提案に、多少の不信感は有りつつも田中国政たなかくにまさ

 いつも通りの、良き縁を感じたから助ける、なんてことない何時もの行動。

 ただ、敵対していた相手から言われたら、警戒するのは当たり前だ。

 田中国政は不可解な顔をしながら、縁を見ている。


「それで、助けるとは?」

「貴方は今、人ではなく紛れもない神」

「……ええ、貴方と戦い敗れた後、子供達の信仰心が私を神にした」

「ふむ、まずは名を聞こうか、色彩しきさいの神」

三原色さんげんしょく金糸雀きんしじゃくです、子供達や保護者からは『カナリア先生』と呼ばれています」

「おお~色を扱う神っぽいね~でも縁君、助けるって具体的にはどうするのさ? あ、私達もカナリア先生って呼ぼう」

「ああ……で、どう助けるかだが、俺の神社の敷地内に摂社せっしゃを建てる、本殿とかは後でいいだろ」

「本当に社って大切なんだね」

「名刺代わりだったり、安心感だったり……まあ色々と神様としてのスタートラインなのよ」

「あ~一言で言えば、祀られてないと笑われる?」

「まあそれに近いな、だから祀る」


 あれよあれよと話が進むが、カナリア先生は更に怪訝けげんな顔をした。

 助ける気が満々だからだ、確かに神に社は必要。

 社が必要な理由はシンボルだったり、世間的な安心感だったりと色々ある。

 だがカナリア先生から見れば、やはり自分を支援する理由が見つからない。

 他人の理解出来ない善意、これほど怖いものは無いだろう。


「待て、摂社? 末社まっしゃでは? いやそれよりも、縁の神よ、何故私を助ける? 利益は無いはず」

「ふむ、損得で動く神も居るが、俺はそうじゃない、貴方が居無くなれば子供達が悲しむからだ」

「神がそれだけの理由で動くのか?」

「では聞こう、子供達から授業料を取っているのか?」

「いやまさか、この行為は人間の時からの私の趣味、色の楽しさを知ってほしい」

「ならば徳だ、他の神はどうか知らんが、俺は徳を積む者を救いたい」

「カナリア先生、私の旦那はこうなると、結構ガンコでね、まあ神様らしいというか、時々面倒くさいけど」

「え゛!?」


 縁は普段出さない声で驚いた。

 これまた結びは普段、そういう事は言わないからだ。

 多少お互いに何かあっても流すからだ。

 んな事にちまちまチクチク言っている暇があるなら、相手の良い部分を見よう。

 これが2人の約束事だった、だからこそちょっとした言葉でも、反応してしまう。


 とは言え、恋人同士、夫婦同士、相手を多少なりと面倒くさいと思わない関係は無いだろう。


「面倒くさいにそこまで反応する?」

「……ごめん」

「いやいや、縁君も私を面倒くさいと思う事があるでしょ?」

「ああ……いやまあ」

「それが許せる時は大丈夫だよ、私も気を付けるし」

「ああ」


 そして隙あらばイチャイチャするのがこの2人だ。

 そんな甘い空気……にはならない。

 何故なら絵を描き終わった子供達が来たからだ。


「センセー! 出来たー!」

「あ、はい、お疲れ様です」

「あ、先生! 皆で絵を描いたんだよ!」

「おお、皆の合作ですか」

「はい! これ皆がんばった!」


 子供の一人が描いたをカナリア先生に渡した。

 そこに描かれていたのは、神社っぽい建物だった。

 そして、色合いがぐちゃぐちゃだ。

 おそらくは、子供達のそれぞれ好きな色を塗ったのだろう。


「これは……神社ですね?」

「おお! カナリア先生凄い!」 

「センセー神様になったんでしょ? この間言ってたもんね」

「神社描いた!」

「先生の神社わからないから、皆で描いた」

「いつかセンセーの神社を見たい!」


 カナリア先生は心を打たれた。

 自分には神社が無い、だが、子供達はあると信じている。

 きっと、先生には神社が無い、そんな事を言っては間違いなく傷つける。

 何より、渡された絵には子供達の『信仰心』を感じた。

 噓偽り、欲の無い信仰心、考えは一瞬で固まった。


 この子達との関係をより良い物にしておきたい。

 カナリア先生は縁を、不可解な顔ではなく、少し申し訳ない顔で見る。


「……縁のか――縁さん、この子達の為に、貴方の提案を受け入れよう」

「ああ、わかったカナリア先生」


 子供の一人が縁を見上げた。


「うさみみのおじさん、カナリア先生のお知り合いなの?」

「ああ、お友達だ」

「おねえちゃんもお友達?」

「そうだよ~」

「一緒にお絵かきしよう?」

「お、いいね~」

「俺兎以外描けないんだよ」

「どゆことさ」

「描けばわかる」


 画材……と言っても画用紙と色鉛筆を借りて、お絵かきスタート。

 結びは、人や物を描いて上手かった、カナリア先生が褒めるほど。

 だが縁は本当にダメだったも人や物は破滅的、悪い意味で画伯だった。

 しかし、本人が言うように、兎だけは超リアルに描けている。

 子供達もビックリする上手さだ。


「……何で兎以外下手なの?」

「俺が兎が下手だったら示しがつかんだろ」

「ああ~まあ確かに」


 そんな感じで子供達とお絵かきを楽しんだ2人だった。

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