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第二話 幕切れ 何事も話し合い

 地獄谷と虎毘沙が向かい合っている、技と技の連携の単純明快な奥義だ。

 理屈は簡単だが、それを実戦で使えるかは別である。


「地獄谷殿、これがワシの奈落之底雷神拳だ」

「にゃ、凄い技だにゃ、素早い攻撃で自分の怨み辛み……いや、気持ちに叩き込む技だにゃ」

「そう、言わば『気持ちで殺せる』技」

「私は使えないかもしれない」

「ふむ?」

「理由が無いと恨めないにゃ」

「それはそうか、心が健康な証拠だ」

「にゃ?」


 心が健康と言われて、地獄谷の頭にはハテナが出でいる顔をした。


「ワシは長く毘沙門天様に仕えていた、故に他人を簡単に疑う癖ができてしまった」

「にゃ、守る神様が何かあったら遅いにゃ」

「そういう事だ、普通に考えたら疑う事から」

「そして技を教えると言ったが……極めるのは自分自身だ」

「にゃ、もちろんだにゃ」

「試しにワシの力で一時的に使える状態にしてやろう」

「わかったにゃ」

「手を」

「にゃ」


 お互いに握手すると、地獄谷は猫が獲物を見つけたような目になる。

 そして手を離して自分の身体のあちらこちらを確認した。


「にゃ! これが力かにゃ! まあ、私が強くなった訳じゃないにゃ、やってもらってなんだけど偽りの力にゃ、使い方も自然とわかるにゃ」

「お、だったら私に雷神拳をしてみなさい?」

「にゃ、手加減無しにゃ」

「ほっほっほ、面白――」

「雷神拳!」


 問答無用の神速の攻撃、雷をまとった攻撃に結びは――

 当たり前だがびくともしない、避けてもいない。

 結びは腹部より少し上を殴られたが平然としている。


「おお、やっぱり一瞬の瞬発力は地獄谷ちゃんの方が速いね、一時的とは言えここまで速度の成長の可能性があるのか」

「おおう……結び先生との実力の差は凄いにゃ」

「ほっほっほ、これでもマイナー流派の四代目だからねぇ~」

「え? 界牙流ってマイナーにゃ?」

「まあ世界を1人で滅ぼせるとか眉唾物でしょ」

「まあ……そうにゃ、む? 力が抜けていくにゃ」


 地獄谷は自分の身体から貰った力が抜けていくのを感じた。

 すぐさま次の技に移った、先ほど虎毘沙が使った技の奈落である。

 虎毘沙は足で地面を叩き発動していたが。


「奈落!」


 地獄谷は地面をぶっ叩いた。

 すると赤色のどんよりとして液状の物が広がっていく。 

 そこから現れたのは――


「ニャー」

「ミァ」

「……」

「おお、猫がたくさん出て来た」

「あらあら愛想を振りまいているね~」

「猫というか……ネコ科だな」


 そう、ネコ科のネコ達がワラワワと出て来たのだ。

 もちろん凶暴な種類や絶滅危惧種も居る。

 ネコ科の博覧会が開催されているようだった。


「自分でもわかるにゃ、今のこの場に私が心から恨む人物は居ないにゃ」

「……ワシらを恨まないのか?」


 虎毘沙の足元にもネコ科の生き物達が寄ってきている。

 怨み辛みというよりは、一定の敬意を放っているようにも見えた。

 縁や結びには足元をスリスリとしている。


「にゃ? 誰か恨んで強くなるにゃ? それより自分に有利になる事をするにゃ、また旅が出来る様に」

「……そうか、確かにな」


 実家を壊された地獄谷だが一族の思想である『また旅が出来る様に立ち上がる』を実行するのは難しいだろう。

 この家訓は言わば復讐するくらいなら、自分を磨き立ち上がれと言っている。

 何かされたら仕返しを考えるのが普通だろう、それをしない……いや、いい所で手打ちにする難しい家柄に生まれてしまった。 

 地獄谷は少しづつ、一族の歩んだまた旅が出来る様に準備しているのだ。

 自分の力で自分の幸せは守れるように。


「あ、ネコ達が消えたにゃ、貰った力ね無くなったにゃ」

「だったらまずは雷神拳を極めた方がいいかもね~地獄谷ゃんには心の技は難しいよ」

「にゃ、確かにあれは一朝一夕いっちょういっせきでは出来ないにゃ、そしてどちらの技も力の練り方から身に着けないとダメにゃ」

「いいね~ちゃんと分析出来る事はいい事よ~」

「シーナ先生に鍛えられたにゃ」

「んじゃここからは担任の先生にバトンタッチだね、シーナ先生居るんでしょ?」


 スッと現れたシーナはため息をした。


「そりゃ居るよ、自分の生徒が心配だからね」

「後は任せていい?」

「ああ、そうそう天空原が教室で待っとるぞ? ずっとソワソワしていた」

「あらら、まあそりゃそうか……んじゃ、労いの言葉をかけにいきましょう縁君」

「ああ」


 結び達は自分達の教室へと向かった。

 教室には天空原と一本槍が自分の席に座って話をしている。

 結び達が来たと同時に天空原が立ち上がった。


「縁先生! 地獄谷は――」

「心配しなくとも大丈夫だ、どう決着したか話そう」


 縁は事の顛末を簡単に説明した。

 地獄谷のご両親が許した事、その代わりに地獄谷が技を習得する。

 天空原は複雑な表情をしていた、実家が壊されたのに許した?

 でも本人達が納得しているなら……と、そんな表情だ。


「……なんといいますか」

「まあ普通に考えたら許せないよね~んじゃ天空原――」


 結びは天空原の目をジッと見つめた。


「私の様に殺す選択肢をするかい? 徹底的にさ」

「いや……そこまでは……」

「手打ちは第三者が口挟む事じゃないよ、おっと、恋人はまだ第三者だからな?」

「待って待って結びさん、そしたら俺達も恋人同士」

「馬鹿野郎、若い奴の恋人と私達の年齢の恋人は違うでしょ」

「そや、そうなんだが……天空原君、悪く思わないでくれ」

「いえ、結び先生の言葉も事実です……俺はまだ第三者ですし」


 事実を突き付けられた天空原だったが、確かにと頷くだけだった。

 縁達の様に、将来結婚を約束している恋人ならば家族ともいえよう。

 だが自分達は学生だ、子供の恋愛と見られてもおかしくはない。

 だが後数年すれば成人、次の段階を考える時期が来ると考えていた。


「話を戻して、復讐だけ考えるなら楽だよ? ただ、反逆してくる奴らを黙らせるまで殺し続けなきゃいけないけど、殺す選択肢をするならね」

「結びさんの言葉に続くなら、殺すという選択肢を選び続けたら、他人の命が軽くなるぞ? 現に俺は結びさんと生徒と友人知人以外は軽い」

「……身の丈の選択肢ですね」

「そうだね~だから君へのアドバイスは、恋人とちゃんと話をしろ」

「価値観のすり合わせですね」

「そうそう、縁君の言葉を借りるとさ、地獄谷ちゃんが『自身の身の丈に合う選択肢をした』から君はモヤモヤすると」

「……なるほど、確かにそうですね」

「ほい縁君、悩める生徒にアドバイス」

「受け入れられるか、受け入れるかは別として、ちゃんと大切な人とは自分の考え伝えるんだ……って自分で気付いてる生徒に言うか? 教師って難しい」

「いえ、ありがとうございます縁先生」


 縁と結びに向かって綺麗にお辞儀をする天空原。


「ま、今日は授業が無いからこれで終わりだね~」

「では天空原君、僕と手合わせをしませんか?」

「え? 手合わせ? ああ……地獄谷が帰るまでなら」


 今まで黙っていた一本槍が天空原に声を掛けた。

 天空原も一本槍とは砕けた喋りをしている。

 親しい友人の様な関係なのだろう。 


「君の禁術の青鬼、まだ安定してないとはいえ……神の猛攻をしのげていました、興味を持ちました」

「……一本槍、お前は本当に修業バカだな」

「当たり前です、自分を守る為ですから」

「わかったわかった」

「大怪我するんじゃないよ~」

「はい」

「はーい」


 一本槍達を見送った結び達は職員室へと向かった。

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