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第二話 演目 奥義奈落之底雷神拳

 縁達は桜野学園へとやって来た。

 そしてすぐさま演習場へと向かう。

 結びは縁の気配を感じ取って現れた。

 一本槍と天空原は保健室にいめようだ。


 この演習場で地獄谷が虎毘沙とらびしゃに願った奥義の伝授を行う。


「縁殿、この学校の施設は頑丈なのか?」

「はい虎毘沙とらびしゃ様」

「そうか、では早速はじめよう」


 地獄谷と虎毘沙が向かい合った。

 この時地獄谷は相手の実力をひしひしと感じていた。

 今の自分では間違いなく勝てない。

 そしてそんな神様から奥義を教えてもらう事にワクワクもしていた。


「地獄谷殿、ワシの流派は基礎と基礎を合わせて奥義とする」

「にゃ」

「強みはなにかな? これだけは絶対に負けないというもの」

「速さにゃ」

「割って入るけど、百聞は一見に如かずだよ~」


 結びがニコニコしながら地獄谷に近寄った。

 地獄谷は深呼吸と足を軽くストレッチする。


「地獄谷ちゃん、私が蹴るから避けてね」

「……にゃ」


 結びの最速の蹴り、音を置いた、まばたきより速い。

 そんな次元の速さではなかった。

 言葉では説明出来ない速度、仮に数字で表したとしてもピンとこないだろう。

 とにかく速い蹴り、そしてその蹴りを出した足先に地獄谷が乗っていた。

 余裕の表情で猫が顔を洗うマネをしている。


「おお、合格合格~はい降りてね~」

「にゃ……てか結び先生、この間本気って言ってなかったにゃ? 前より速いにゃ、噓は良くないにゃ」

「ほっほっほ、当たり前でしょ」


 結びは地獄谷に対して決め顔をした。

 それは神を愛する事と愛される事、それがどいう事かを伝えていた。

 神を愛するという事は、良くも悪くも神に目を付けられる。

 つまりは自分と愛した者を守る力が必要だという事だ。

 神もいい奴だけではないから。


「神を愛した女なめんなよ?」

「にゃ」

「恋人を旦那にしたけりゃ自分磨きなよ?」

「ふふん、もちろんにゃ」

「あらら、恥ずかしがらないのね」


 自信満々に言う地獄谷にそれだけ言うと結びは離れた。


「いい速さだ、次に地獄谷から感じる強さは……心だな」

「心にゃ?」

「ああ、一番強く感じるのは……ネズミの神を絶対に許さない、そんな心だ」

「にゃ、子供の頃学校でネズミの同級生に馬鹿にされたにゃ、地獄に落ちた猫って……まあその時は我慢したけどにゃ、頑張って」


 地獄谷の一族は冤罪で地獄に落とされた。

 子供の頃とは言え聞き流せるものではない。

 おそらくは相当我慢したのだろう。


「今のネズミの神には分別ついているけど、やっぱり許せる訳ないにゃ」

「ふむ」

「何で冤罪で今の今まで……いや、ずっと指を刺されたり腫物扱いにゃ」

「……」

「どいつもこいつもイライラするにゃ、面と向かって言えにゃ」

「うむ、その恨みを力にする技を教えよう」

「つまり冤罪を恨む心を力に変えるにゃ?」

「そうだ」

「にゃ」

「じゃあまずはお前さんに教える技を見せるか、離れていなさい」

「にゃ」


 地獄谷は虎毘沙から離れてた。

 虎毘沙は正拳突きを放つ構えを取った。

 呼吸を整えそして――


「雷神拳!」


 雷をまとった正拳突き、その場に居た者は驚いた。


「す、凄い速さだったにゃ! 結び先生より速いにゃ」

「おおう、凄い神様もいたもんだね~」

「流石ですね虎毘沙」

「……」


 虎毘沙は縁達の言葉には反応せずに次の動作に移った。

 右足を上げて地面を思いっきり踏む体勢だである。


「奈落!」


 思いっきり地面を踏んだ、すると地面が徐々に紫色の沼のような物が広がっていく。

 そして紫色の沼から大量の手が出てきた、更におぞましい声も聞こえる。


「毘沙門天様に逆らう者に成敗を!」

「許さぬ!許さぬ!」

「きょええええぇぇええええぇぇ!」

「敵は何処だ!」


 次々と現れる手、よく見れば虎毘沙の手と似ている。

 心が映し出す技であるならば、これは虎毘沙の気持ちなのだろう。

 元毘沙門天に仕えていた虎の神、その心は今でも主を思っているのだ。


「なんだか凄いにゃ、飲み込まれたら間違いなく死ぬにゃ」

「雷神拳と奈落を合わせたのが奥義……『奈落之底雷神拳ならくのそこらいじんけん』だ、地獄谷殿」

「これが虎毘沙様の技……合わせたらどうなるにゃ」

「ふむ……縁、ちょいとダシになってくれんか?」

「いいですよ」


 縁は虎毘沙といい距離間に立った、地獄谷はまばたきもせずに見入っている。 


「では……はあ!」

「速いにゃ! てか全然見えないにゃ!」

「こりゃ凄い、私も井戸の中のカエルだったね」

「にゃ?」

「私よりも速いし持続力もある、んで今縁君はボコボコにされているだろうね」

「た、確かに大きな音と雷の音が聞こえ――」

「毘沙門天様に逆らう者に成敗を!」

「許さぬ!許さぬ!」

「きょええええぇぇええええぇぇ!」

「敵は何処だ!」


 地面だけではなく空中の至る所にも奈落が現れた。

 縁は雷神拳でボコボコに殴られているのだろう。

 目にも確認出来ない速さ、音と僅かに何かが高速で動いている残像。


「にゃ! にゃ!? 空中にも奈落が!?」

「なるほどなるほど、雷神拳でボコボコにして何処でもいいから奈落に叩き込むのね~」

「そう! これこそ我が奥義! 奈落之底! 雷神拳!」


 一番最初に作った奈落に何かが投げ込まれる様に波紋が起こる。

 もちろん叩き込まれたのは縁だ、結びは特に表情も変えずにそれを見ていた。


「名は体を表すって奴だね~」

「結び先生、縁先生大丈夫かにゃ?」

「ほっほっほ、あの程度で縁君が怪我するとでも?」

「あの程度って……やっぱり先生達の次元は可笑しいにゃ」

「地獄谷ちゃん、貴女もそこに片足突っ込んでるよ?」

「んな馬鹿にゃ」

「いや、自分の実力はちゃんと気付いて」

「冗談にゃ」


 虎毘沙は元の位置へと戻って来た、縁を叩き込んだ奈落をジッと見ている。

 直ぐに奈落から縁の手が出てきて、そこから這い上がって来た。

 まるで風呂からあがるような余裕を出している。


「流石は毘沙門天様に仕えていた神様です」

「全力でやっても今の縁殿には効かないか、老いたな……」

「俺が無事なのは結びさんの愛が有るからですよ」


 地獄谷は何とも言えない顔をしながら縁を見ている。


「縁先生は相変わらず無敵にゃ」

「地獄谷ちゃんは?」

「無理だにゃ、信仰心の数が違うし……何よりも社が無いしにゃ」

「ああ、縁君から聞いたけど建てる約束したんでしょ? 摂社せっしゃだっけ? 親族ではない神様を自分の神社に建てる小さい社~」

「え? あれ本気だったにゃ?」

「縁君は神様の時は噓は言わないね~」

「……気が重いにゃ」

「まあ、まずは目の前の技を授かりましょう」

「にゃ」


 縁と入れ替わる様に地獄谷は虎毘沙の前に立った、彼女の挑戦が始まる。

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