縁と陣英が帰ってくると……酒盛りのレベルが上がっていた。
整理されているとは言えそこら辺に酒瓶が転がっている。
色鳥達は楽しそうに晩御飯の準備しながら酒を飲んでいた。
「……グリオード、お前も楽しそうだな」
「今日くらいはいいだろ縁」
「そうですよー縁さん!」
「縁、お前もこっち来いよ!」
「博識さんも色鳥も……楽しそうだな」
「安心してくださいませ縁さん、私は正気を保っております」
「うんまあ……」
縁は鞄からビール箱を取り出して、空いた酒瓶を入れていく。
そして缶も後で洗うにしても、一度大きめのビニール袋に次々と入れていった。
酔っていない陣英も掃除を手伝ったのだが……
次々空けられる酒と食べた後の袋のゴミ、2人は一度手を止めた。
縁達は諦めて自分達も飲み食いする側になる。
「さてはて、皆さんそろいましたし縁さん、最近何やら面白そうな事に巻き込まれてますね?」
「え??」
「何でも地獄に落とされた猫の一族と関わりを持ったとか」
「ああ、地獄谷さんかそれがどうした?」
「いえ、私達も間接的に関わり合いになりまして?」
「……どういう事だ?」
どう考えても接点が無い友人達に、縁には考えが追い付かなかった。
関わる可能性があるとすれば……と考えていると――
お待たせいたしましたと、顔が物語っているいずみが声を上げた。
「説明はお任せください! ではまず……私から」
「どうかかわったんだ?」
「まず神の書庫について説明しましょうか?」
「あらゆる本があるんだろ? 神だろうが人間だろうが個人だろうが団体だろうが」
「はい、全てあります」
いずみは普段説明と解説の神が居る図書館の司書をしている。
そこは文字通り全ての記録がある図書館だ。
ちなみにいずみは縁と出会った頃には、当時の書庫全てを読んでいたとかなんとか。
「で、神の書庫に来た犬の……名前はど忘れしました」
「ああ俺も名前は忘れたが犬で察した」
地獄谷を襲った犬、これが今回のゴタゴタの始まりとも言っていいかもしれない。
犬山だったか犬……なんだったか? 縁にとっては覚える価値も無い。
いや必要も無いのだ、リンゴにこだわらない人に対して、品種がどうのと言っても仕方ないだろう。
リンゴはリンゴ、犬は犬という事だ。
「何やら一生懸命縁さんの事について調べていたので」
「ほう、そいつの閲覧レベルは?」
「5段階で表すと3と4の間くらいですね」
「結構高いな」
「ええ、位だけ高いですね」
「で、俺の何を調べたんだ?」
「交友関係と昔の出来事ですね」
「ほう」
縁とって知られても別に困らない情報だ。
ついでに縁と交友関係を持っているのはほとんどが何かしらの強者。
仮にもし何かしても縁は動くだろう、縁の神が自分と強い縁を持つ者の危機に駆け付けるからだ。
「でもおバカさんですね」
「ん?」
「普通に考えていくら神様でも、簡単に禁書に触れる訳ないじゃないですか」
「え? 禁書の閲覧レベルじゃない?」
「当たり前ですよ縁さん、人の秘密をホイホイと読める訳ないでしょ? 一般の閲覧レベルですね、まあ対策の一つですよ」
「じゃあその犬が閲覧していたのは?」
「ゴシップ記事ですね」
「んんん?」
縁もそれを聞いていた周りも首を傾げた、それもそのはず普通ならそんな物を見ないからだ。
「噓を本当の事の様に書いた本です」
「えぇ……なんでそんなものがあるんだよ」
「噓も知識だからです、縁さんが暴れてた時ら書かれた物とかも」
「じゃあほとんど嘘だらけじゃないか」
縁が暴れていた頃、人の世では縁に関しての本が色々と出ていた。
噓だろうが本当だろうが関係ない、一部の奴らには金になったからだ。
そんな奴らをほおっておくほど、縁もお人好しではないので全員幸せになりましたとさ。
「何が真実かを見抜く力が必要です、情報や知識というものはそういうものです」
「まあ確かにな……じゃあ博識さんにはあまり迷惑かけてないのか?」
「ええ、何か実害があった訳ではありません、むしろ噓で喜んでいるのが滑稽で」
普段はしない絶対にしない、人を馬鹿にしたような笑顔で言い放ついずみがそこに居た。
「博識さんは実害はとりあえず無かったんだな? 他は?」
「色鳥さんはどうです?」
「俺か? いずみの様に実害は……無かったかな」
「何かされたか?」
「安心しろ縁、お前の首をとれとかふざけた事を言ってきただけだ」
「それでどうした?」
「親友に向ける刃は持ち合わせて無い」
色鳥は呆れてため息をした後に、酒瓶をラッパ飲みしている。
ここに居る全員、縁に対して刃を向ける者は居ないだろう。
「シンフォルトの所にも同じ事言いに行ったらしいぞ?」
「はい、細かい事を言いますと……縁さんの手助けをするなと子供を人質にするぞと」
「……大丈夫か?」
「もちろんです、と言いますか――」
シンフォルトは一瞬だけ『素』の表情にになった。
今の縁の実力を見定めるように。
「縁を司り、唯一無二の伴侶を得た神、正直、今の縁さんは……そうですね、力で言えば神様詳しくない人でも凄い神様だと分かるレベルです、そんな神様が他人を頼りますか?」
「それもう有名な神話の神様レベルじゃねーか」
「色鳥さんの言う通りです、縁さん? 我主道徳の神も言ってましたよ?」
「何を?」
「神としてどっしりしないのかと」
「しない」
「いくら力が強かろうがそれは俺の力ではない、俺と縁を築こうとした者達との繋がりだ」
「へぇー? 嫁さんだけだろ?」
「アホ言うな色鳥、お前達親友を数えている、無論力欲しさで友達付き合いはしてない」
「おおう、縁の神様から親友って言われてしまった」
色鳥が新しく酒を開けて、縁にコップを持たせた。
飲め飲めと言わんばかりに酒を注いでいる。
縁は酒の飲むと静かに笑った。
何故なら神の捧げ物……言わば酒の味が良かったからだ。
それは高い安い美味い不味いではない、親友が注いだからの価値だ。
「まあ俺の話は良い、他の皆はどんな迷惑をかけられたんだ?」
「ふむ……私の所には何も来なかったぞ?」
「ふっふっふ、グリオードさんには優秀な右腕が居るじゃないですか」
「いずみがそう言うからには……麗華が何かしたのか? 報告はしてもらってない」
「障害ではなかったのでしょう?」
「まあ……一つ一つ報告受けたら日が暮れる」
「え?」
「ああ、縁は知らなかったか? 私の国を狙う奴は意外と居るぞ?」
「そうなのか?」
「砂漠で水や食料、国の周りは気候も一定で安定している、つまり国の技術が欲しいんだろうな」
「それを
「そうだ、国を守る氷だ、故に私は内政に集中出来ている」
「まああの強さだったら1人でも守れるか」
「だが全てを麗華には任せてはいない、1人でどうにかなる国は国ではないだろう」
「ふむ……村とかならわかるが、国だからなあ」
「私の国を警備している者達にも感謝だ」
グリオードの性格からして、国民1人1人に対して称賛と賞賛をしてそうな王様。
その王様は今、誇らしげに酒を天へと掲げていた。
これは自分を王と認めた民と配下への乾杯だろう。
「話を戻して……最後は陣英は?」
「俺か? 色鳥と同じだな、縁を殺せと部隊に依頼が来た」
「いや、アホだろ……何で不死鳥の傭兵部隊に殺しの依頼するんだよ」
「無論隊長は断ったよ」
「そりゃそうだ、お前の所って復興支援とか主な任務だよな?」
「ああ、まあ……ここだけの話な? 殺しをするなら悪党だけだな」
「ふっ、昔俺も人の世で暴れた悪党だぞ?」
「あ、それに関して今更だが……怒るなよ?」
「え? 何か怖いんだが?」
やはり縁といえども親友の隠し事にはビビるようだ。
人間らしい神様とも言えるが元々半分人間の血を引いている。
「お前に接触した一番の理由、部隊としてみれば災いをバラまくお前、助ける俺達の仕組みを狙ってた訳だ」
「それ……昔言わなかったか? で、本音が妹を救いたいって事だったろ?」
「あれ? そうだったっけ? すまんな、人の記憶き曖昧なのだよ」
「そうそう……だが今やる事はわかった」
縁はウサミミカチューシャを外して神様モードへとなった。
白い色の着物に黒い模様が鎖の様になっている。
黒色が白色を縛り付けている様にも見えるが……
実際にはその逆かもしれない。
「大小問わず我親友達に弓を引いた事、我が名の元に幸せにして後悔させてやる」
縁の新しい姿に親友達は驚いていた、神々しいのに恐ろしく。
だが親友達はわかっている、どんなに力を付けようが縁なのだと。
「おお、それが今のお前の神の姿か……でも縁、ずっと聞きたかったんだが……」
「どうした?」
「何でジャージが神の衣? 服に変わるんだ?」
「ああこれ? ブルモンド・霊歌さんにそう作ってもらった、ウサミミカチューシャで俺の力を抑えてくれるようにな」
縁はウサミミカチューシャを見た、所々ひび割れしていて何時壊れるかわからなそうだ。
予備もあるが……新調するした方がいい、と考えながら縁はウサミミカチューシャをしまう。
「そろそろ新しくしないとな」
「新しくしないでもお前の力封じれてるのかよ」
「いや、最近は姿だけだ」
「姿だけ?」
「これ高性能でな? 力を抑えられないと判断したら姿だけ変えてくれるんだよ」
「いや、それも凄いけど……お前力抑えてないのか?」
「ああ」
「いや……俺達にとっては衝撃的なんだが? 昔は
「負の信仰心で血だらけの様に見えてたからな」
「ああ……そいやそうだったな」
昔の縁は負の信仰心が多かったので、血だらけみたいな姿だった。
それが結びと出会い白となり、今では負の信仰心を制御出来るほどになった。
もちろん結びだけではない、今目の前に居る者達も――
「んじゃ縁ドンパチ考える前にだ、彼女さんには
「もちろんだ、縁は何も愛情だけではない、ま、俺の妻の愛には――」
「だったら親睦を深めて縁を強くしようぜ? 俺達全員合わせれば超えられずともって奴だ」
色鳥は縁と肩を組み始めた、縁はうっとおしいと思いながらも肩を組む。
「ささ、縁さんもお酒を飲んで、神様なんだから」
「……神様全員酒好きではないぞ?」
「ご説明いたしましょうか?」
「いいよ、長くなる」
「では縁さんもうこのまま夕食を始めましょう? 準備は出来てますし、縁さん乾杯の挨拶を!」
「俺達の良き縁に乾杯だ!」
その縁の言葉と共に宴が始まった。
親友達とのしょーもない会話と思い出話。
縁を作った者達との宴だ。