これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
怪獣は遊園地を壊しにかかる。
しとめないといけない。
そうしないと、この遊園地からは帰れないだろう。
「おいワタル」
ヒビキがワタルに追いつく。
「どうすれば、しとめられると思う?」
ワタルは瓦礫をよける。
「足止めと、強烈な一撃だな」
「やっぱりそう思うか」
ヒビキの言葉に、ワタルはうなずく。
ヒビキは考えなしの癖があるが、戦いに関しては間違っていない。
カタナは怪獣と戦っている。
いくら踏み込んでも足元がせいぜいだ。
「カタナ!」
ヒビキが怒鳴る。
カタナが振り向く。
「今から怪獣の足止めをする!」
「止まるか?」
「止まるとも!そうしてカタナは上から怪獣を一刀両断にするんだ!」
「上から?」
「俺の能力で放り投げる!」
カタナはうなずいた。
ワタルは能力を解放する。
怪獣の足止めの氷の力となると、
とにかく意識をなくすまで、放たないといけないかもしれない。
意識をなくすまで放ったとして、カタナがしとめられなかったら…
つぶされておしまいだ。
「信じろ」
ワタルは自分に言い聞かせる。
「信じろ」
隣でヒビキもつぶやいている。
カタナがこっちにかけてくる。
ヒビキは能力を解放して、カタナの手をとり、
炎とジェットの要領で中空へと飛び立つ。
ワタルは能力を解放し、氷で怪獣の足止めにかかる。
いくら放っても氷はなかなか怪獣の足止めにならない。
全ての力を出し切る覚悟で、ワタルは氷を放った。
怪獣の足元が凍る。
遊園地を壊していた怪獣の動きが止まる。
「今だ!」
ワタルが叫ぶ。
ヒビキはカタナを放り投げる。
そのままヒビキは落ちてくる。
そして…
カタナは上空で姿勢を整えると、輝く刀を振り下ろした。
カタナは咆哮する。
それこそ獣のように。
輝く刀が怪獣の頭から足元まですごい勢いで下ろされる。
カタナが落ちてくる。
怪獣は一刀両断された。
怪獣がさらさらと灰になる。
「わたしのあかちゃん…」
どこかからそんな声がした気がした。
「これからどうするよ」
ヒビキがカタナに問いかける。
「また何かを斬る」
カタナはそう言って、刀を鞘に収める。
そして、振り向かずに去っていった。
「俺たちも帰ろうぜ」
ワタルがヒビキに声をかける。
壊れた遊園地のこととか、そういうことはとりあえず後回しにしたかった。
とにかく生きている。それが何よりうれしかった。