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第412話 怪獣

斜陽街一番街、バー。

タケダはそこにやってきた。

最初はへんてこな扉ばかりのところに出た。

タケダは自分のやってきた扉を覚えると、

扉を作っている職人に、斜陽街のバーのことを聞いた。

何でも、妄想を取り扱っている者がいるらしい。

タケダは妄想にされるのは嫌だなと思いつつ、

とにかく話を聞いてくれるという、バーにやってきた。


カランコロンとドアベルがなる。

静かにジャズが流れている、バーだ。

「あの、妄想屋さんって」

タケダがバーのマスターらしい人に尋ねると、

「奥のボックス席にいます」

と、短く答えてくれた。

奥のほうを見ると、一人でボックス席に座っている人がいる。

あれかもしれない。


「こんにちは」

タケダが挨拶する。

「やぁ、妄想を聞かせにきてくれたのかな」

「妄想とは限らないのですけど…」

タケダは弱弱しく反論する。

「まぁいいよ、聞いてから決めよう。何か飲むかい?」

「あ、大丈夫です」

妄想屋というその人は、

古ぼけたテープレコーダーに、

カセットテープを入れる。

録音ボタンを押した。

「さて、どんなものを聞かせにきたのかな」

妄想屋が促す。

タケダは緊張しつつ、話し出す。

「怪獣の卵があるんです」

「ほう」

「私のいた町の地下に、怪獣の卵があって」

「ふむ」

「それが孵ってしまうと町は壊滅状態になってしまうのです」

「予兆はありますか?」

「地震が多いのです。それが予兆なのです」

「誰から怪獣の卵のことを聞きましたか?」

「間違えた電話です。でも、その電話は間違えていなかったのです」

「ふーむ」

妄想屋は考える。

「失礼ですが、どういった町なのでしょう」

「普通の町です、少し寂れているかもしれません」

「なるほど」

妄想屋は何か納得したらしい。


「それでは、この街の宅急便屋に頼みますか」

「宅急便屋?」

「この街でやっている、なんでも運ぶ職の者です」

「なんでも?」

「怪獣の卵も運べるはずです。手配しておきましょう」

「それは、信じていいのですか?」

「彼らの腕は確かです。信じてください」

タケダはなんだか、すとんと落ちた気になる。

「では、カセットテープは止めますね」

妄想屋がカセットテープを止める。

「宅急便屋が卵を運び出せば、地震がなくなるはずです」

「わかりました、ありがとうございます」

タケダは深々と礼をする。

「また何かありましたら、斜陽街へどうぞ」

視線のわからない妄想屋に見送られ、タケダはバーをあとにした。

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