斜陽街一番街、バー。
タケダはそこにやってきた。
最初はへんてこな扉ばかりのところに出た。
タケダは自分のやってきた扉を覚えると、
扉を作っている職人に、斜陽街のバーのことを聞いた。
何でも、妄想を取り扱っている者がいるらしい。
タケダは妄想にされるのは嫌だなと思いつつ、
とにかく話を聞いてくれるという、バーにやってきた。
カランコロンとドアベルがなる。
静かにジャズが流れている、バーだ。
「あの、妄想屋さんって」
タケダがバーのマスターらしい人に尋ねると、
「奥のボックス席にいます」
と、短く答えてくれた。
奥のほうを見ると、一人でボックス席に座っている人がいる。
あれかもしれない。
「こんにちは」
タケダが挨拶する。
「やぁ、妄想を聞かせにきてくれたのかな」
「妄想とは限らないのですけど…」
タケダは弱弱しく反論する。
「まぁいいよ、聞いてから決めよう。何か飲むかい?」
「あ、大丈夫です」
妄想屋というその人は、
古ぼけたテープレコーダーに、
カセットテープを入れる。
録音ボタンを押した。
「さて、どんなものを聞かせにきたのかな」
妄想屋が促す。
タケダは緊張しつつ、話し出す。
「怪獣の卵があるんです」
「ほう」
「私のいた町の地下に、怪獣の卵があって」
「ふむ」
「それが孵ってしまうと町は壊滅状態になってしまうのです」
「予兆はありますか?」
「地震が多いのです。それが予兆なのです」
「誰から怪獣の卵のことを聞きましたか?」
「間違えた電話です。でも、その電話は間違えていなかったのです」
「ふーむ」
妄想屋は考える。
「失礼ですが、どういった町なのでしょう」
「普通の町です、少し寂れているかもしれません」
「なるほど」
妄想屋は何か納得したらしい。
「それでは、この街の宅急便屋に頼みますか」
「宅急便屋?」
「この街でやっている、なんでも運ぶ職の者です」
「なんでも?」
「怪獣の卵も運べるはずです。手配しておきましょう」
「それは、信じていいのですか?」
「彼らの腕は確かです。信じてください」
タケダはなんだか、すとんと落ちた気になる。
「では、カセットテープは止めますね」
妄想屋がカセットテープを止める。
「宅急便屋が卵を運び出せば、地震がなくなるはずです」
「わかりました、ありがとうございます」
タケダは深々と礼をする。
「また何かありましたら、斜陽街へどうぞ」
視線のわからない妄想屋に見送られ、タケダはバーをあとにした。