これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
三日月模様の描かれた扉の向こうの世界の物語。
うっそうとした森の中にそれはある。
テラコッタ色の屋根、白い壁、
あたたかな色彩に彩られた、
兎茶屋だ。
いつでも暗い森の中で、
ほのかな光源をともして営業している。
店内に入れば、
木を基調にした店にカウンターが一つ。
お湯がいつでも沸いていて、
カウンターの中にお茶の葉のガラス瓶が無数に並んでいる。
その数無数。
それこそ星のように。
あたたかな光のもと、
兎茶屋の店主の青年が、ブレンドを試している。
短い金髪。白いウサギ耳。赤のチョッキを着ている。
カウンターの中で、やかんがしゅんしゅん言っている。
青年は茶の葉の瓶から、においを確かめつつ、
葉をいくつも取り出す。
器具に入れて、慎重に湯を注ぎ、
葉の開き具合を見る。
鼻を近づけてにおいもかぐ。
「うーん、これじゃばらばらだなぁ」
青年は眉間にしわを寄せる。
イメージどおりというのが難しいのかもしれない。
「海の葉をくわえるべきかなぁ」
青年は一人でつぶやく。
失敗作らしいお茶をすすってみる。
「やっぱり海かな。ノスタルジックと海」
青年は自分にだけわかる独り言をつぶやく。
器具に味がうつらないよう、
一度器具を洗う。
そして、また、お茶の葉のブレンドを始める。
「コンクリートの建物、怪獣の卵、海になる場所、空を飛ぶ少女、地震」
青年はキーワードをつぶやきながら、
茶の葉を選んでいく。
ガラスの瓶から少量ずつ、
茶の葉を取り出していく。
器具に広げてにおいをかぐ。
「うーん、お湯で広げないとわかりにくいな」
青年は器具に茶の葉を全部入れる。
謎めくキーワードを全て叩き込む気分。
お湯で開いて、においをかぐ。
「うん、海があったほうがいいな」
青年はひとまずは納得する。
あとは味だ。
小さな砂時計をひっくり返す。
少し蒸らすのが肝心。
今度の出来はいいかもしれない。
蒸らしながら器具をまた洗う。
砂時計が落ち終わって、
青年は茶をそそいですする。
「うん、いい感じ」
青年のブレンドが一つ完成したらしい。
「一体となってるね、ばらばらになってない感じ」
青年は満足した。
そして、ブレンドのレシピをメモする。
「感想聞きたいから誰か来ないかなぁ」
器具も洗って準備万端。
扉を開いて誰かやってくる。
「いらっしゃいませ」
青年はにっこり微笑んだ。