目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第411話 一体

これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。

三日月模様の描かれた扉の向こうの世界の物語。


うっそうとした森の中にそれはある。

テラコッタ色の屋根、白い壁、

あたたかな色彩に彩られた、

兎茶屋だ。

いつでも暗い森の中で、

ほのかな光源をともして営業している。

店内に入れば、

木を基調にした店にカウンターが一つ。

お湯がいつでも沸いていて、

カウンターの中にお茶の葉のガラス瓶が無数に並んでいる。

その数無数。

それこそ星のように。


あたたかな光のもと、

兎茶屋の店主の青年が、ブレンドを試している。

短い金髪。白いウサギ耳。赤のチョッキを着ている。

カウンターの中で、やかんがしゅんしゅん言っている。

青年は茶の葉の瓶から、においを確かめつつ、

葉をいくつも取り出す。

器具に入れて、慎重に湯を注ぎ、

葉の開き具合を見る。

鼻を近づけてにおいもかぐ。

「うーん、これじゃばらばらだなぁ」

青年は眉間にしわを寄せる。

イメージどおりというのが難しいのかもしれない。

「海の葉をくわえるべきかなぁ」

青年は一人でつぶやく。

失敗作らしいお茶をすすってみる。

「やっぱり海かな。ノスタルジックと海」

青年は自分にだけわかる独り言をつぶやく。


器具に味がうつらないよう、

一度器具を洗う。

そして、また、お茶の葉のブレンドを始める。

「コンクリートの建物、怪獣の卵、海になる場所、空を飛ぶ少女、地震」

青年はキーワードをつぶやきながら、

茶の葉を選んでいく。

ガラスの瓶から少量ずつ、

茶の葉を取り出していく。

器具に広げてにおいをかぐ。

「うーん、お湯で広げないとわかりにくいな」

青年は器具に茶の葉を全部入れる。

謎めくキーワードを全て叩き込む気分。

お湯で開いて、においをかぐ。

「うん、海があったほうがいいな」

青年はひとまずは納得する。

あとは味だ。

小さな砂時計をひっくり返す。

少し蒸らすのが肝心。

今度の出来はいいかもしれない。

蒸らしながら器具をまた洗う。


砂時計が落ち終わって、

青年は茶をそそいですする。

「うん、いい感じ」

青年のブレンドが一つ完成したらしい。

「一体となってるね、ばらばらになってない感じ」

青年は満足した。

そして、ブレンドのレシピをメモする。

「感想聞きたいから誰か来ないかなぁ」

器具も洗って準備万端。


扉を開いて誰かやってくる。

「いらっしゃいませ」

青年はにっこり微笑んだ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?