温泉から上がった病気屋と熱屋は、
宿の料理を堪能する。
海からも遠くはないらしく、
魚も野菜も盛りだくさんの、健康的な料理だった。
「何料理って言うんだろうね」
「さぁなぁ、けれど、おいしいな」
「うん、おいしい」
熱屋は料理をほおばる。
病気屋にはそれがほほえましかった。
宿の者が料理を下げにくる。
そして、布団を敷いていく。
「最近地震が多くてかないません」
宿の者が話しかけてくる。
「地震が多いのかい?」
「はい、町役場でも対策を検討中らしいですよ」
「大地震が来たらたまったものじゃないね」
「はい、まぁ、そんなにたいした地震ではないですがね」
宿の者が布団を敷く。
「今の時間でしたら、崖の上から夜景が見えますよ」
「崖?」
「この宿のちょっと上です。ちょっとした夜景が見えますよ」
宿の者が部屋を出て行き、しばしの沈黙。
「夜景見に行こうよ」
熱屋が提案する。
病気屋もうなずき、二人は浴衣姿でぶらぶらと繰り出した。
宿の備え付けの下駄を履き、
カランコロンと崖まで上がる。
そんなに急な道ではない。
ゆっくりあがっていく。
「地震が多いって本当かな」
「さぁなぁ」
「小さな町でも大変なんだね」
「そうだな」
「あ、あそこが上らしいよ」
熱屋が駆け出す。
あわてて転びそうになる。
病気屋が支える。
「ナイスキャッチ」
熱屋が微笑む。
とても軽い身体なのに、質感を持っていて重い感じがした。
熱屋自身の重みなのかもしれない。
ゆっくり歩いて、崖の上から町をのぞむ。
温泉街からちょっと離れた、町の灯が見える。
あそこが中心街で、暗いからわかりにくいが海があって、
山のほうに温泉街が連なっているのだろう。
他に何があるのかは、わかりにくい。
日中に来れば、いろいろわかるのかもしれない。
熱屋はじっと明かりを見ている。
「どうした?」
病気屋が尋ねる。
「灯になりたい」
熱屋はつぶやく。
「ともしびに?」
「たくさんの熱で燃え尽きてもなお、病気屋を導く灯になりたい」
熱屋はじっと明かりを見ている。
その目には涙に似たものが宿っている。
病気屋は熱屋をなでた。
「燃え尽きなくても、導いてくれている。大丈夫」
「灯になれてる?」
「大丈夫」
病気屋は熱屋をなでた。
夜景は静かにそこにあり、
二人はじっとその灯たちを見つめていた。
今は言葉は必要ない。
病気屋はそっと熱屋の目元をぬぐった。