これは斜陽街から扉一つ分向こうの世界の物語。
どこかの扉の向こうの世界の物語。
大盛り上がりのサーカス。
テントの中で演じるものも観客も、
一体となった大興奮。
それは最高の出し物。
すべてがクライマックス。
言葉を尽くしてもこの感覚を伝えるのは難しい。
螺子師は感動の前にしばし言葉を忘れた。
やがてサーカスが終わり、
名残惜しくも観客は帰っていく。
螺子師も席を立つ。
そして、隣で楽しんでいた螺子ドロボウが、
「さっきの螺子を返しに行きましょうよ」
と、声をかけてきた。
螺子師としては、
螺子ドロボウが思い付きで何かするかもしれない、
そう思うと、ひとりで行けとは言えなかった。
二人はテントの裏にやってくる。
ショーを終えた皆が、飲み物を飲んだりして休んでいる。
螺子ドロボウの姿を認めると、
「さっきはありがとう!」
と、笑顔で迎え入れてくれた。
大道具係が外された螺子を受け取って、
螺子ドロボウと螺子師に、
ジュースが渡される。
彼らは螺子を使った曲芸とみているらしい。
間違ってはいないけれど、
曲芸とみるあたり、サーカスの彼等だ。
サーカスの彼らは曲芸の話を聞きたがった。
砂の上を流れるようなサーカスの一団は、
よその話を雨水のように求めた。
螺子師はいろいろな話をする。
螺子ドロボウがそれを大げさにして、
螺子師に怒られる。
「僕たちは、砂賊の末裔なんです」
曲芸をしていた一人が言う。
彼らは砂漠に生きる者の末裔。
砂漠を流れるものの末裔。
御伽噺のような、古い古い砂賊の末裔だという。