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第592話 若女

それは電脳世界の話。


電脳娘々とシャンジャーは、

バベルシステムを内包した塔を歩く。

解析すればきっと、

大量の言葉で積まれた塔に違いない。

言葉、思い、知識、言語。

それがプログラムで一つの線に結ばれる。

言語の違いでわかりあえなかった者も、

理解して、お互いを尊重できるかもしれない。

それは、ただの理想かもしれないけれど、

バベルシステムは、

その理想に近づくべく、

塔にプログラムを積んでいる。


ふと、電脳娘々は、人影に気が付く。

誰だろう。システムエンジニアだろうか。

電脳娘々は、その人影に近づく。

それは子供だ。女の子、らしい。

巫女のような和装をしている気がする。

近づいた電脳娘々に気が付いた子供は、

顔を向ける。

その顔は、能面だ。

たとえでなく、能面をかぶっている。

電脳娘々は、能面のデザインを検索する。

たしか、能面はデザインごとに名前や意味があったはずだ。

「若女」

ざっと検索して、そういう能面であると出た。

少女の体格のこの子供に、

若女の能面は少しちぐはぐして見える。

もっと、お祭りの安いお面の方が似合うような気もした。

巫女のような和装ではあるが、

能面より、張り子の狗の面などが似合うような気がする。


「君は誰?」

シャンジャーが問いかける。

能面の少女は答えない。

「しゃべれないんだね」

電脳娘々が言う。

続けて、

「そうだね、名前もないんだね」

電脳娘々はちょっとだけ考え、

「シズカで、どうかな」

と、名前の提案をする。

シズカと名付けられた少女はうなずく。

「うれしいんだね、よかった」

電脳娘々が微笑む。


シャンジャーは置いてけぼりを食らう。

シズカの顔を見ても、

能面である以上の情報は読み取れなかった。

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