妄想屋の夜羽は、言珠を手に、
旅をつづける。
この言珠のあるべきところに。
夢の中のように、
夜羽はいくつもの町を通り過ぎる。
誰も夜羽に注視する人はいないし、
たくさんいる人と同じように、
言葉を交わすことなく、通り過ぎる。
影のように、誰でもない何かのように。
夜羽は町を行く。
ここは言葉が飛び交っている。
何という町かも知らないし、
たくさんある町と同じだなと感じる。
言珠はどこにあるべきなんだろう。
夜羽はそれだけを問いかけて歩く。
歩いていると、
その町に言葉が集中している場所を見つけた。
夜羽の感覚では、
そこに言葉が集まって、
また、言葉が放たれる感じに見えた。
何という施設かはわからない。
言葉が集まるのがわかるなんて、
そんな芸当が自分にできただろうかと、
夜羽は自問する。
思うに、言珠のせいかもしれない。
言葉が力を持つこともままある。
言葉の流れが見えることもあるかもしれない。
夜羽は鍵もかかっていない施設に入る。
ドアを開け、歩くと、施設には男が一人。
大忙しで何か機械をいじっている。
夜羽にはわからない機械だ。
男はある程度機械をいじり、
ため息を一つ。
「で、何の用だい?」
男が振り返って尋ねる。
夜羽のことはわかっていたらしい。
「この言珠の行き先を探しています」
夜羽が答える。
男は考え、
「白い城壁に囲まれた、静かな町」
「静かな」
「そこにそういう石があるという。電波で聞いたよ」
男は大きく呼吸を整え、
「それじゃまだ仕事があるんだ」
と、また、機械をいじりだした。
夜羽は一礼してその場を辞した。