朝日が登りだしたこの時間帯、スピカたちは敵の激しい猛攻から身を守りながら、敵の隙を狙って闘っていた。
「おらぁっ!」
「スピカ来るぞ!」
「やっ……!」
スピカは狙いを定めて銃を打つけれど、難なくかわされてしまう。
「しゃらくせぇ! テメェから殺ってやるチビカス!!」
「ひぃっ!」
しかし、その前にクレアちゃんが間に入り短剣で牽制────
「つまんねぇことしてんじゃねえよ、おっさん!!
それともテッポー相手は怖くて戦えませんてか!?」
「あぁん!?」
すんでのところで短剣をかわした百足やろーは、スピカたちから距離をとるために数歩下がった。
緊張感と恐怖でむせ返りそうになるのを押さえ込み、スピカはまた百足やろーの方を見据える。
「ご、ごめん! スピカ役に立てなくて……」
「いい、アタシも何も出来てない。
それより、やられないように注意しよう。今ケガ負ったら意味がないからな」
「う、うん……」
クレアちゃんは、いたって冷静だった。
「それよりスピカ、あんたはアタシに弾が当たらないようにしながら銃で牽制を続けてくれ。
アタシはそっちにムカデやろーが行かないように気を付けるから」
「やってみる……!!」
これでも銃の腕は、この国最強のリーエルさん直伝。
まだ敵に当てることは腕が震えて出来そうにないけれど、クレアちゃんの指示通りに動けるくらいの自信はある。
「てめぇらオレ様目の前にして余裕でお喋りかよいい度胸じゃねぇかゴラァ!」
「来るぞスピカ、気張れ!!」
「うん……!!」
※ ※ ※ ※ ※
「始まった、急がないと」
ついに始まったクレアちゃんたちの戦闘を確認した自分は、上空でバリアを張りながらその様子を眺めていた。
遠くの方へ“ノースコル・デス・センティピード”を引きつけて逃げていったエリーちゃんも、どうやらムカデやろーから引き離すことには成功したようだ。
自分、セルマ・ライトに与えられた役目は2つ。
まずは1つ目の、クレアちゃんの奇襲を手伝うことには成功した。
次は────
「ここね……」
ここは工場の上、昨晩ムカデが開けた屋根には、相も変わらずポッカリと大きな穴が開いている。
中をのぞいても昼間なのに暗くてよく見えない、静まり返った廃工場だ。
何とか眼が慣れない眼を魔力で補いながら探すと、下に2人の影が見えた。
「いた……!!」
急いで杖を使って下まで降りる。
昨晩エリーちゃんを乗せたときは流石にキツかったけれど、修行の成果か、1人なら何とか自由に空をとぶことが出来るんだ。
地面に着地すると、自分はそこに縛られている2人に声を掛けた。
「ベティさん、レベッカさん、助けに来たわ!!」
「────セルマさん……?」
意識
自分に与えられた役目、その2は敵の隙を突いての人質の救出だ。
「2人とももう大丈夫よ、早く逃げましょう」
急いで縄を切り縛られてた両手足を自由にする。
「治療してあげたいけれど時間がないから、橋の向こうにいるドクターに治してもらいましょう。
そこまで移動できるかしら?」
「うぅ、っん────あっクレアさん気を付けて!!」
「えっ!!?」
突然のレベッカちゃんの叫び声。
ふ、と反射的に振り向くとそこには────
「ムカデ!!?」
先ほどエリーちゃんを追いかけて森へ消えていったはずのムカデが天井に張り付いていた!
「キャーーーッ!!」
「落ちてきたああぁぁぁ!! アタシこんな所で死にたくないいぃ!!」
2人の悲痛な叫び声が木霊する。
「“ハイ・バリア”っ!!」
ギリギリバリアで自分達を覆い、潰されるのを防ぐ。
「セルマさん……!!」
「た、助かったありがとう……!」
どうやら自分も含めて、3人とも無事だったようだ。
でも、ムカデは工場の中を這いながらこちらの隙を伺っている、まだ油断できる状況ではない。
「なんでアイツがここのいるのよ!! さっき出てったはずよね!!?」
「ムカデは2匹いるんだよ!!」
「はぁ!!?」
ついつい2人に声を荒げてしまう。
作戦は1匹をエリーちゃんが引きつけて、スピカちゃんとクレアちゃんがムカデやろーを足止め。
その間に自分が2人を救出という段取りだった。
これでは自分に与えられた20分以内と言う役割が果たせないどころか、全ての段取りが狂ってしまう!
「外に逃げよう、あそこからならなんとか脱出できるよ!」
「ダメ、外だとスピカちゃんたちが闘ってるわ!」
「え、スピカが!!?」
仲間が闘っている、その事実に2人は心底驚いた様子だった。
「ええぇ、スピカ闘っているって、あの子無事なの!!?」
「クレアちゃんも一緒だしまだ大丈夫なはずよ、それより今は────」
見ると、ムカデはまた天井に張り付き、こちらに落下しようとしてる。
「また来る! クレアさん何とかしてくれぇ!」
「“ハイ・バリア”!」
再びバリアで衝撃を防いだけれど、このままでは埒があかない。
いずれこちらの魔力も尽きて、3人ともペシャンコだ!
何かいい手は────
「アイツ、ここで倒せないかな……?」
そうポツリ、と呟いたのはレベッカさんだった。
「あのムカデを……?」
「な、何言ってんだ、速く逃げないと潰されちゃうよ!」
ベティさんは反対なようだけれど、その手はかなり難しいにしろ、ここで逃げるよりは何とかなりそうだった。
もしここで逃げればクレアちゃんやスピカちゃんに被害が及ぶだけじゃなくて、その後村にムカデの被害が及ばないとも限らない。
村は既にもぬけの殻とはいえ、それは村人たちに申し訳が立たない。
元々レベッカさんやベティさんを助けた後でもムカデやろーを取り押さえないと意味がないとエリーちゃんは言っていた。
エリーちゃん自身は一人では、ムカデを倒せないので策を考えているようだったが、今こちらには自分も含め3人いる────
怪我はしているようだが、2人とも自分の力で動けるようだし、ここは多少無理をしてもらう場面かも知れない。
「あの、2人とも動ける? 闘える?」
「いいよ、私はやる。ベティちゃんは?」
「ままま、マジ!!?」
ベティさんはこちらの決断にかなり迷っているようだった。
自分の安全か、それとも軍人としての決断か。
「ベティさん、迷うなら無理しなくても────」
「わ、わーーー!! アタシもやる!! やるから!!」
慌てたように手を振りながらベティさんは自分の決断を口にする。
「いいの……?」
「外にスピカが闘ってるなら、ここで見過ごせないよ!
それにアタシなら、役に立てるかも知れない!!」
「ほ、本当!!?」
ベティさんの言葉は、別に虚勢やハッタリで言っているわけではないようだった。
「ベティちゃんはね、能力持ち。弱点が見えるの」
「【コア・グラスプ】って言うんだけど。少し時間をもらえれば!」
イケるか────いや、やるしかない!
時計を見ると今の経過時間は、約8分。
20分は、クレアちゃんとスピカちゃんがその時間ならギリギリ2人だけで耐えれると踏んで設定した時間だった。
今もう一匹のムカデから逃げているエリーちゃんのためにも、ここで自分が折れるわけにはいかない!
「分かったわ、自分が囮になるからその間に頼んだわよ!」
「セルマさん、私も手伝う!」
レベッカさんも、後からついてくる。
制限時間残り12分────!!