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0088 お祭り

俺はしっかり聞こうと姿勢を正した。


「どうしました?」


「は、はい。私は……クビになりました」


「はっ!!」


い、いかん。取り乱してしまった。

無職の辛さは俺以上に理解出来る者はいないはずだ。

共感しすぎて、手が震えている。


「あ、あの、木田さん!!」


「坂本さん、ここでは大田と名乗っています」


「は、はい。すみません」


し、しまったー。

失業して心が弱っている人をシュンとさせてしまったー。

ど、ど、どうしよう。


「あっ、そうだ。俺の嫁になって下さい」


名案が浮かんだのだ。次の仕事を手伝ってもらおうと思う。


「はい。喜んで!!」


まわりの皆が驚いている。

あずさなんか、目玉が落ちそうになっている。


「実は、遠江偵察を明日からする予定なのです。あずさと行く予定ですが、坂本さんにはあずさの母親役をやってもらいたいのです。まあ、俺みたいな豚の嫁役など嫌でしょうが、手伝ってもらえないでしょうか」


「え、あっ、はい、よろ……こんで……」


やっぱりだー。

いやいやの返事をいただきましたー。

無職よりいいかなと思って、言ってみましたが、しょんぼりした顔になっています。


「あー、全然嫌ならいいのです。やってくれる人がいるかどうか分かりませんが、他を探してみます」


「いいえ、いいえ、嬉しいです。光栄です。少し勘違いしてしまったので……」


んーーっ、何か、勘違いする所があったかな。


「よろしくね。あずさちゃん」


「は、はい!! おかあさん!」


なんだか皆が、ほっとした顔をしている。

あずさもとびきりの笑顔を、坂本さんに向けている。

親子連れの三人組、プラス用心棒のクザン、これなら密偵と疑われる事も無いだろう。


「よし、今から俺達は、駿河の大田大商店の大田大とその嫁と娘です」


「はい!!」


坂本さんと、あずさの声がそろった。


「ところで、何故クビになったのですか」


「たいしたことじゃ無いのです。私を連れ出した責任を、負わされて言い分も聞いてもらえず、一方的にクビになりました」


愛美ちゃんが坂本さんに代わって教えてくれた。

きっと愛美ちゃんが、自分が悪いのだからと、かばったのだろう。


「本当にたいしたことじゃ無いですね。まあ、こっちは坂本さんが、働いてくれるので大助かりです」


「あの、私も同行させてもらえませんか」


愛美ちゃんとヒマリとアメリちゃんが言ってきた。

俺は首を振った。

敵情視察だから、危険が多すぎる。

アメリちゃんに危険は無いが、金髪だから血縁が無いのがバレバレだ。無理に決まっている。


「今回は、三人とクザンで行く。皆は店番をして、おかみさんを助けてほしい」


「はい、わかりました」


納得はいっていないようだが、わかってくれたようだ。




翌日、夜が明けるのを待って、坂本さんと専用機動汎用鎧のリョウマ君と共に、まずは激豚君の所へ、あずさの魔法で移動した。

激豚君を海中から呼び出すと、リョウマ君にあずさが同乗して、激豚君にクザンを乗せて機動陸鎧二体で、浜松に向った。

掛川や焼津を今川に任しているので、俺達は海上を一路浜松に向う。


浜松に向うのは、遠江の東を今川に任せているというのもあるが、他に二つ理由がある。

一つは最近顔を見せないミサのいる三河のすぐ隣という事がある。

浜松の様子が分かったら、三河の様子も見たいと思っているのだ。


もう一つは、ウナギである。

浜名湖を抱える浜松にウナギが無いわけが無いのである。

海上を進めば、浜松などすぐである。

朝食の時間より早く浜松に着いた。

二体の機動陸鎧を浜名湖に沈め、朝食を済ますと浜松駅を目指した。


坂本さんにアンナメーダーマンに変身して飛んでもらい、俺があずさをお姫様抱っこだ。


「やれやれだぜ」


「くひひ」


あずさはご機嫌だ。

駅に近づくと、人影が見えてくる。


「ここからは歩きましょう」


「はい」


東京から遠い為か、それとも食べる物が多いのか人が大勢いる。


「すごいですね」


坂本さんが感動している。

いや、俺もあずさも感動している。

浜松駅のロータリーに着くと、なんだかお祭り騒ぎである。


「あの、今日はお祭りですか」


俺は近くの人の良さそうな、おばさんに聞いて見た。


「そうだよ。教祖様がいらっしゃるんだ」


普通にお祭りだった。


「教祖様?」


「神様だよ。わざわざ豊橋から来て下さったのさ。この後、駅からお城へ向って、練り歩き、しばらく浜松にいてくださる。おおおおお!! 美しい教祖様だーーーー!!!」


おばさんは、一心不乱に教祖様に手を振り出した。


「あなた! 見てください!!」


坂本さんが、少し大きな声を出した。


「!?」


俺とあずさは驚いて、坂本さんの顔を見た。

坂本さんが真っ赤になっている。綺麗な顔が照れてかわいい。

あなたと呼んだのが恥ずかしかったようだ。

そうでした、演技ですが坂本さんは俺の嫁でした。


「ちっ、違います。私の顔ではありません」


坂本さんは、必死で指をさしている。

指のさしている方を見ると、何やら暑そうな着物を着たミサの姿があった。


「あれは、ミサじゃないか」


「はあぁーーーっ、あんた教祖様を呼び捨てにするんじゃ無いよ。罰当たりな!! 松平様にきかれたら殺されるよ」


「あっ、す、すみません」


ミサは俺達にも気付かず、真面目な顔をして通りすぎて行った。

はぁーーっ! やれやれだぜ! 厄介ごとの予感しかしねえ。

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