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0090 美女の涙

「いいわけないでしょ。私にだって、心を寄せる人がいるのですから」


ミサが落着いたようすで、静かに言った。

あずさと坂本さんが驚いた顔をしてミサの顔を見る。


「そうか、ミサには心を寄せる人がいるのか……。まあ、そうだろうなきっと、俺と違っていい男なんだろうなー。うらやましい」


ミサもアラサーだろう、好きな男の一人や二人いてもおかしくない。

こんどは、あずさと坂本さんが俺の顔を見ている。

助けてやれという事だろうか。

でも、下手に動けば、浜松の信者が殺される恐れがある。

ミサが、大人しくしてきた意味が無くなる。


「あんたが来てくれなければ、私は死ぬつもりでした」


な、何を言い出すんだ。

ミサの視線の先を見ると短刀があった。

まじかー。

ミサの目には、狂気にも似た本気があった。

まさか、ずっと悩んでいたのか。


ミサの目から、ポトン、ポトンと涙の粒が畳の上に落ちた。

それを見て、坂本さんまでもらい泣きしている。

二人の泣いている美女。

そして、近寄って来て、上目遣いにあずさが俺を見つめる。


普通なら、かっこいい男がそこには立っているのだろうな。

でも、残念な事に俺は、悪い魔女の魔法で醜い豚にされたような男だ。

絵にならねえ。


「やれやれだぜ」


全員が俺を見つめた。

そして、少しだけ微笑んだように感じた。


「あずさちゃん、ごめんね」


ミサは、俺を上目遣いに見つめるあずさを、後ろから抱きしめ、あずさに謝った。


「……」


あずさは、振り向くとミサに微笑んで見せた。


「ねえ、これを見て」


ミサが取り繕った様な笑顔で、黒いスケスケの小さなパンツを広げた。


「えっ!?」


俺達は、それの意味がわからずに驚いた。


「うふふ、松平の殿様がこれをはいて、待つようにと置いて行ったのよ。ブラとお揃い」


今度はブラジャーを広げた。


「そんな物は着なくていいからな」


「うん、アンナメーダーマン期待して待っている。捕らわれた美人教祖様を、信者の犠牲を出さずに助けてね」


「……」


俺は返事を返せなかった。

ミサを助けるだけなら、ここから連れ出せば良いのだが、ミサがいなくなれば、見せしめに信者が殺されるだろう。

まさか、正義を守るとか言いながら、松平の殿様をいきなり殺す訳にも行かない。


どうすれば良いのか考えつかなかった。

せめて、もう少し時間があれば……。


「さて、行こうか」


ミサの様子もわかったし、今度は松平の殿様の様子を見てみようと思った。




あずさの魔法で大通りに出ると、大きな喚声が上がっているところがある。


「あれは、何ですか」


近くの人に聞いてみた。


「あれは、処刑だよ。公開処刑。あんな物が見たいとは、困ったもんだよ。私は全く見たいとは思わないけどね」


「なるほど」


「見るのなら、早く行かないと終ってしまうよ。あーあ、でも今日は人数が多いから、ゆっくりでもいいかもね」


「はい、わかりました。ありがとうございます」


俺達は喚声を頼りに、大通りを歩いた。

すぐに広場が有り、そこに柵が作られ中に兵士と殿様、罪人がいる。

見物人は柵の外から見る事になる。


「よーーし、次だーー!!」


「はっ」


中央でえらそうに命令しているのが、殿様だろうか。

顔中が髭におおわれている。

その髭が針金の様にピンピン真っ直ぐ伸びて、まるでウニを見ているようだ。

目玉もぎょろりと大きく、残忍な笑みを浮かべている。

露出している肌も、毛がもじゃもじゃで、一本一本が尋常じゃ無い程太く感じる。


俺もたいがい、どんな女性にも釣り合いが取れない方だが、あいつもたいがいだ。

少なくとも、ミサのような美女に釣り合いは取れない。

あーいかん。あいつにミサが襲われる姿を想像してしまった。

絶対に許さーん。


唯一許せるとしたら。ミサがこの人が好きですとなった時だけだ。

好き同士なら問題は無い。


「くそーーっ」


大勢の男達が鎖につながれ入ってきた。


「ぎゃあーはっはっはーー!! いい気味だなあ。てめーらは楽には死なせん。八つ裂きの用意をしろーー!!! ふふふ、今川から親善の贈り物と聞いた時は断ろうと思ったが、お前達だったから、喜んで受け取ったよ。ひひひ」


殿様が超ご機嫌だ。


「とうさん、あれ」


あずさが何か気が付いた様だ。

まてよ、俺もなんだか見覚えがある。


「エスパー……」


「違います。サイコ伊藤です」


て、訂正が速い。

まるで間違えると分かっているようだ。


「ふむ、そいつだ」


「あの、誰ですか?」


坂本さんが聞いて来た。

そうか、坂本さんは知らないのか。


「あいつらは、ハルラの刺客だ。アンナメーダーマンを殺す為、東京を目指している途中の、この浜松で千人以上虐殺した男さ。その後アンナメーダーマンに駿府で退治されて、ここに送り届けられた様だ」


「なぜ、そんな男達がなぜあんなに大人しいのですか」


坂本さんの質問の最中に、最初の手下の処刑が行われた。

八つ裂きの刑で、手足が千切れ絶命している。


「あいつらは、付与魔法で、体の能力が二分の一になっているからね。力も体力も子供くらいしか無い」


「くそーーっ、てめーっ、許さんぞーー。ぜってー許さん」


サイコ伊藤が、目を充血させて叫んでいる。


「ひゃああ、はっはっはっはっーー。次だー、どんどん処刑しろー」


「ぐおおーーーっ」


サイコ伊藤は唇を噛みしめうなっている。

噛みしめた唇が裂けて血が噴き出している。


ここまで見ていると、どっちもどっちの悪党に思える。


「ぎゃああああああああああーーーーーー!!!!!!」


また一人処刑が終った。

これが数ヶ月前まで高い文明のあった、日本という国とは思えない光景が目の前に広がっている。


「ふー、ガッカリだぜ」


俺はため息が出た。

そして、一つの案が浮かんだ。

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