「よーし、次だー!! 次ーー!」
松平の殿様がはしゃぐように、伊藤の手下を処刑台に運ばせる。
「うわあああーーー。な、何をする!!」
松平の配下が、慌てている。
サイコ伊藤の部下が、松平の配下を振り回し出した。
「伊藤さん、俺達の力が戻っています」
俺は、俺の魔力で、サイコ伊藤達一味に身体能力向上の付与魔法をかけてみた。
どうやら、うまくいったようだ。
「なにーーー!!!!」
サイコ伊藤が叫ぶと、宙に浮かび血走った目で松平の殿様をにらみ付けた。
そして、ニヤリと笑った。
「ぐわああああーーーーーー!!!!」
松平の殿様は、サイコ伊藤の部下のように八つ裂きにされた。
サイコ伊藤の念動力は、人、一人を造作も無く引き裂く程の力があるようだ。
サイコ伊藤は、引き裂かれた松平の殿様の姿を見下ろすと、笑うでも無く無表情で見下ろしている。
まるでゲンのようだ。
「アンナメーダーマン!!! いるのだろう!!」
サイコ伊藤は、くるりと体を見物人の方に向けると叫んだ。
その後、ゆっくり地上に降りてひざまずくと、頭を下げた。
「アンナメーダーマンだって?」
見物人がザワザワしだした。
浜松の人はアンナメーダーマンを知っているようだ。
何で知っているんだ?
見物人までが、サイコ伊藤のように地べたにひざまずいた。
結果、立っているのが俺とあずさと、坂本さんとクザンだけになった。
俺は、嫌な予感がして、黒いジャージとヘルメット、あずさもメイド服に仮面をつけている。
「おおお、教祖様から教えていただいた通りの姿だ」
「おおおお、あれが隕石を消したアンナメーダーマン様だ」
「ありがたや、ありがたや」
仕舞いには、拝みだした。
ミサの奴、信者に何を教えているんだー。
「やはりな、いると思った」
「せっかく力が戻ったんだ。逃げようとは思わ無いのか」
「ははは、あんたがいたんじゃあ、何をしても無駄だ。部下の敵討ちも終った。煮るなと焼くなと好きにしてくれ」
「うむ、あんた、なんだか別人の様になっているな。何があった」
「なにも無い。だが、そうだな、以前はハルラ様の魔力を体に感じていた。その時は、酒と女に乾いていた。それ以上に人殺しに乾いていた。そして、ハルラ様に強い忠誠心を感じていた。だが、今はハルラ様の魔力は感じ無い。アンナメーダーマン、あんたの魔力を強く感じる。同時にあんたに強い忠誠心を感じている。出来ればあんたの配下になりたかった」
そう言うサイコ伊藤の顔は、以前は目の下に濃いくまがあり、頬がこけマッドサイエンティストのようだったが、今はくまが無くなり、少し頬がふっくらしている。人の良さそうな駄目な化学者のような顔になっている。
だがその顔はもう生きる事をあきらめているようだ。
自分のしでかした事の重大さを感じているようだ。
「お前達、何をしている。サイコ伊藤を引っ捕らえろ」
松平の殿様の横に控えている四人の重臣が我に返り叫んだ。
「ま、待ってくれ! 俺はアンナメーダーマンだ。この男の身柄は俺に任せてくれないだろうか」
「し、しかし、我らの主君を殺した相手だ。そのままにはしては置けない」
「そうですか。じゃあ、お任せします」
俺が言い終わると、伊藤は俺の意を読み取ったのか、ふわりと部下とともに宙に浮かんだ。
体をグルグル巻きにしていた縄も、ふわふわ自然に緩み、パサッと地面に落ちた。
腕を組み重臣を見下ろしている。
そして、ゆっくり腕を重臣達の方に伸ばした。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」
重臣達は腰を抜かして、這いつくばって逃げ出す。
以前のサイコ伊藤は、その力で多くの浜松の人を殺害している。
「コラコラ、伊藤! やめなさい」
「はっ、ははあーーっ」
伊藤は、大げさに地面に降り立つと、俺の前にひざまずいた。
俺は今、暗い顔をしていると思う。
隣にいるあずさが、さっきから心配そうな顔をして俺の表情ばかり見ている。
俺は、人殺しが嫌で怖い。
今回も松平の殿様を、直接手を下さず伊藤にやらせてしまった。
守ろうとすれば今の俺なら、伊藤の超能力から守ってやる事も出来たはずだ。
その事が、心に重くのしかかっている。
――俺が殺したような物だ!
それだけに、俺は罪の意識を強く感じている。
「罪を憎んで人を憎まず。サイコ伊藤は心を入れ替えたようだ。俺に身柄を預からせてはもらえないだろうか」
おびえる重臣の中で、一番頭の良さそうな人の目を見て言った。
「は、はい。お、お任せしますー」
「それに、あんた達は新しい主君を決めないといかんだろう。今から教祖様を交えて、重臣の皆さんと話しがしたい。どうかな」
重臣達四人は、お互いの顔を見合わせて、大きくうなずいた。
「アスラーマン、全員を教祖様の玄関の前へ」
「はい」
俺達は一瞬で、ミサのいる屋敷の前に来た。
ガラガラ
俺は玄関の引き戸を開けて、あずさと坂本さんとクザンで、中に入った。
そして中のふすまを開けた。
「うわああーー!!」
中にミサが立って待っていた。
「な、何をしているんだー」
ミサの姿を見て俺は驚いてしまった。