ミサは俺が着なくてもいいと言った、松平の殿様が用意したあの下着をつけて、下着姿のままで立っていたのだ。
「えっ、だって、ふすまの向こうで、どうしても着て欲しいと言ったから着たのよ。あんたじゃ無いの」
「い、いや。俺は今来たところだ。俺じゃねえ。ふすまのこっちには誰もいなかったぞ!」
「えーーーっ!!!」
俺達は全員が大きな声を出した。
「ひょっとしたら、死んだ松平の殿様が来たのかも」
「えっ、殿様が死んだ、ですって。そう言えば殿様の声にも似ていたような……」
「ひええーーーーっ」
もう一度俺達は悲鳴を上げた。
まあ、季節は夏だしこういうこともあるのかもしれない。
状況が状況だけに、せっかくのミサのエッチな下着姿がかすんでしまう。
まあ、もともと俺は三次元の人間にはあんまり興味が無いのだけどな。
でも、せっかくなので見ておくか。
黒いスケスケの、布地の少ない下着に無理矢理押し込んだような巨大な胸が、悲鳴を上げた動きでゆさゆさ揺れて、こぼれ落ちそうになっている。
ぽちん、ぽちんと、膨らんでいる小さな突起はひょっとしたらあれなのか。
あかん、目の毒だ。サッサとしまってもらおう。
「ミ、ミサ。外に松平家の重臣とサイコ伊藤が来ている。はやく服を着てくれないか」
「えっ、そう言う事ははやく言ってよね」
ミサは奥のふすまの中に消えた。
手伝う為か、坂本さんとあずさがついていった。
シュッ、シュッ
衣擦れの音が聞こえる。
しばらくして、ミサが和服で出て来た。
白っぽい模様の少ない和服は、清楚さを感じる。
髪もストレートに落とし、和服の為胸のボリュームが押さえられ、とても清楚で美しい。
「なんて、美しいんだ!!」
俺が、ぼっそとつぶやくと、ミサは着物から出ている肌が全部真っ赤になった。
しばらく、見とれてしまった。
「あんたって、馬鹿なの。せっかくエッチな下着を見せてあげたのに、その時より今の方が余計に見ているじゃ無いの」
「そ、そうか。下着姿より、こっちの方が清楚で美しくて俺は好きだ」
「なーーーーっ」
ミサは、赤さが増して、ゆでだこのようになり、くねくね揺れている。
「さあ、皆さんに入ってもらいますよ」
坂本さんが、あきれたように言うと、玄関へ歩き出した。
「皆さん、お待たせしました。どうぞ中へお入りください」
重臣四人と、サイコ伊藤が中に入ってきた。
「おおー、何と美しい」
中に入り、ミサの姿を見ると男達は声を上げた。
だが、ミサはさっきの俺の時のリアクションとは違い、少し口角を上げ微笑むだけだった。
「どうぞ」
あずさが、全員の前にお茶を出すと仮面を外し、お茶を勧めた。
「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!! な、何と美しい!!」
あずさの顔を見ると男達は、ミサの時の数倍の声を上げた。
あーあ、やっちまったなー、ミサの機嫌が見る見る悪くなっていく。
だが、ミサ、しょうが無いんだ。
おじさんは皆、ロリコンなんだ。
子猫や子犬、ひよこなど、幼い生き物は何でも可愛く感じる。
おじさんは歳を重ねるほどその傾向が強くなる。
つまりそう言う事なのだ。
「うふふ、あなた、そろそろお話を始めてはいかがですか」
坂本さんが、当たり前の様に俺の横に座るとそう言った。
「ちょっと、まって、あなたってどういうこと」
それにミサがすかさず食いついた。
「あら私、大田様の嫁ですのよ」
「はーーーっ、うっ」
ミサが大きく息を吐き出すとよろけて倒れそうになった。
あずさがそれをすかさず助けた。
「ち、違うよ。坂本さん、話しをややこしくしないで下さい」
「ご、ごめんなさい」
「どういうこと」
「ああ、坂本さんには、浜松の調査の間だけ嫁の役を頼んだんだ」
「そ、そう言う事ですか」
ミサが、ほっとしている。
「坂本さん、俺みたいな豚野郎の嫁役は嫌だったでしょう。もう大丈夫ですから」
「あら、私は嫁役を当分やめる気はありませんよ」
「えっ!!」
俺と、ミサとあずさが驚いた。
「ささ、皆さんがお持ちかねです。あなた! はやくお話を進めてください」
「……」
俺達三人は、坂本さんの顔を見つめた。
あかん、この人はこの人で、とてつもない美人だ。
いつまで嫁役をやるつもりなのだろうか。
俺はとんでも無く厄介な人に、嫁役を頼んだのでは無いだろうか。
このままでは話しが進まないので、視線を重臣と、サイコ伊藤の方に移し真面目な顔をした。
そして、少しだけ間を取る為沈黙した。
「ミサ、さっきも少し触れたが松平の殿様は死んだ。代わりを立てなくてはならないと思う」
俺は重臣達から視線をミサに移し、ゆっくり話した。
「ええ、そうね」
「それで、考えたのだが、ミサお前がやってくれないか。幸いにも浜松の人は皆、天地海山会の信者だ」
重臣達は、その手があったのかと目を見開きうなずいている。
文句は無いようだ。
「嫌よ。なんで私がやらなきゃならないの」
あっさり断りやがった。
「何故嫌なんだ」
「だって、また、こんなことがあったら嫌だし、何より面倒臭いわ」
「うむ……」
また、こんなことがあると、ミサが自殺を考えるかもしれないなー。
ミサが死んだら、俺は国家の損失とさえ思う。
まてよ、なんだー、面倒臭いって。
「そんな事より、私以外に他にも候補がいるのでしょ」
「ふむ、他の候補か。そこの重臣はどうだろう」
「だめね。私が無理矢理、松平の物になろうとしていた時、この人達は下を向くばかりで何も言えなかったわ。そんな腰抜けには務まりません」
「くっ……」
重臣達は言葉に詰まった。
言い返す言葉も無いようだ。
「まあ、他にもいるにはいる。今川なんかどうだろう。しっかりしているし、市民にも好かれている。何より昔、三遠駿は今川家の領地だった」
その今川家とは縁もゆかりも無いお方ですけど、この際それは内緒にしておこう。
「あ、あの、あなたはどの様なお方なのですか」
重臣の口からとうとうこの言葉が出てしまった。